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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン4 
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18、それぞれの進む道

 一通り話終わったあとの空はすっかり夕暮れに染まっていたが、長旅で疲れていた体を休めるには十分な時間が取れた。

 本当なら朝であれ夜であれ目的地に向かいたいところだが、『神の手足』に追われるという神経がすり減る状況で、かつ体力のないマイムやミーシャを連れての長旅である。村も町もなく、宿を取ることも満足な食事にありつくこともない。

 疲れが溜まっていて当然である。


 第三種族(サード)として覚醒したルゥによって『神の手足』の追手の足止めは成功しているが、それも消火が終わるか迂回してくるかで時間の問題となっている。周囲に大した障害物のないこの場所で話し込んでいること自体危ういのだが、マイムの力をエルデに返したことによる騒動とルゥの記憶処理のための睡眠によって休まざるを得なかった。

 それによって休憩を取ることができたのだから、内心喜んでいる者も少なくはなかったが、いつまでもここに止まっているのは(いささ)か危険である。


「ルゥも起きたことだし、どうする? ここで一夜を明かすのか、強行するのか」


 そういった諸々を考慮したカザミの質問に意外なところから回答が飛んできた。


「モエギは……ここに留まるのは危険だと思うです」

「……何故そう思うの?」


 ネロが試すような言い方で問い返した。


「えっと……ルゥくんが『神の手足』を一回撃退してるですよね。その前にも、せ……精霊種族……さん達が『ゴリアテ』の皆さんと戦ってるですし、モエギが知らないところでもいっぱい戦ってるですよね?」

「そうね。私は数えるのを止めたわ」

「俺たちもそこそこ戦ってるか?」

「そこそこだ? はっ。あたしが作った死体の数はあの山を超えてるぜ!」

「はいはい。カガリはんはその主張の強さをさっき出せばええのに……。それで? 頭の足りないリスのお嬢はんが危険やと思う理由は?」


 今度は剣呑な様子でシュカが尋ねる。


「っ……か、『神の手足』……は、モエギ達……正確には、ルゥくんを……追ってると思う、です。普通、狩人(かりゅうど)は追い切れない獲物は諦めるですが、自尊心が高いのも立派な狩人です」

「なるほどな。つまり、狙った獲物は死んでも逃さないというわけだな」

「はい。あ、アーサーさんの言った通り、敵はルゥくんを仕留めるまで追い続けると思うです。狩人の名は、簡単には名乗れないです。相手が疲れて寝息を立てた頃、静かに仕留めるのが優れた狩人です」


 弓に矢を(つが)えた格好をとり、ルゥに向かって放つ動作をして見せたモエギは、立派な狩人の顔をしていた。


 ルゥを好きな乙女のモエギ。

 精霊種族や第三種族(サード)合成種族(キメラ)に怯えるモエギ。

 好きなことを素直に好きと言い、嫌いなことはきちんと講義の声を上げる年相応のモエギ。


 普通の少女の面ばかり見てきたが、彼女はルゥ達と出会う前までは一人で旅をしてきた強かさがある。

 祖母から教わった薬草の知識と、草食動物種族としては珍しい狩りの腕を持って土地から土地へ、大陸から大陸へ渡り歩いてきた。

 少女の一人旅はさぞ辛く苦しいものだっただろう。しかし、そんな辛さをお首にも出さず明るく振る舞う少女のモエギ。


「そんな(たくま)しい考えはあるのに、なんで頭の中お花畑なんやろね。ほんま残念なお嬢はんやわ」


 モエギの新たな一面を見たシュカは少しだけ彼女のことを見直したようだったが、やはり一度感じてしまった相手への不快感は簡単に拭えるものではなく、どちらかといえば呆れが増したようだった。


「育ってきた環境だろ。みんなそれぞれ抱えてる事情があって、人に言えないことが色々あって、それで何かしらの目的があって旅してんだ。俺もシュカも、モエギもな……」

「そらそやけど……。やっぱウチはこの子んこと好きになれへん。まだそこの子猿の方がマシやわ」


 シュカとカザミのやり取りを横目に、ネロは一つ頷いてモエギの考えに同意を示した。


「そうね。『神の手足』とは名ばかりの、私達を排除するのが目的らしい彼らは、今後も時や場所を考えずに襲ってくるでしょうね。特に彼らの中にルゥの父親がいるのなら、尚更かしら。ルゥには酷なことだけれど」

「僕は気にしてないよ」


 これはルゥの本心である。

 嫌われるのは悲しいことだが、仕方がないことだと割り切ってもいる。

 しかし彼を気にかけている面々は、ルゥが強がっているのではないかと心配げな顔を向けてきて、ルゥは少し困ったように笑って尻尾を揺らしたのだった。


「……あぶないなら、早く家にかえろうよ」


 自分を守れる強さを失ったマイムが、ミーシャの服を掴んで心細げに言った。

 幼子独特の少し舌足らずな言葉はしんみりとしていた空気を和らげ、腰に根が生えていた大人を動かすには十分だった。特に甥っ子の願いを早く実現させてあげなければと思ったエーテルは、テキパキと身支度を整えて帰還組を急かした。


「うっし。じゃあ、アタシはルゥ達に付いて行って、必ずエリクを……アンタの父さんを殴ってでも連れて帰るから。ちゃんとミーシャやモエギ、クレアの言うことをよく聞いて、良い子で大人しく待ってるんだよ」

「……わかってるよ」

「ケイナンまで距離が長いから、さっさとこっちの用事を済ませて追い付いてみせるさ。3人で帰ってクレアを驚かせてやろう?」

「うん」


 最後の別れを済ませたエーテルとマイムを見て涙ぐむ常識人数人と、やれやれといった感じで先を急かす非情が数人に分かれた。


「じゃあ、道中気を付けるのよ」

「あら、ネロちゃんってば優しいのねぇ」

「……別に良いでしょ」

「まあ、その点は大丈夫だろ。ハヤテに連絡しておいたから。護衛として『ゴリアテ』がしっかりケイナンまで送り届けるさ」

「へぇ。珍しく良いことするじゃない」

「マイムを引っ張っちまった責任があるからな。その辺はしっかりしないと……って、珍しくってなんだよ」

「ほらほら喧嘩腰はやめましょうねぇ。お父様を探しに行くわよぉ」


 アイネの言うお父様がマイムの父親を指すのか、それとも神様を指すのかルゥには判断できなかったが、アイネのことだからきっと神様の方なんだろうと思えたのだった。

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