12、もう一人の姉として
後に残された面々は、皆一様にあっけにとられて固まっていた。
それもそうだろう。"あの"ルゥが、はっきりと自分の口から他人を「嫌い」だと言ったのだ。それだけに留まらず、普段なら絶対に言わないだろう自分の力のことを吐き出したのだ。
良い子であろうとするルゥは親しい人物以外にはほとんど我儘を言わない。良くも悪くも、和を乱さないのがルゥなのだ。
「……なんなんだよ」
空気に溶けそうなくらい小さな声で呟かれたマイムの言葉は、理不尽な怒りをぶつけられたことに対しての憤りと、自分の知らぬ間に相手を傷つけてしまったことへの納得いかない罪悪感で震えていた。
ルゥから見ればマイムは恵まれていて、愛情を受けて育てられたように感じるだろう。しかし、マイムからしてみれば同年代の子と比べて自分は特殊な環境ゆえに愛情はさほど受けていないと感じている。世間一般からしてもマイムはそう見られるだろう。
自分は悪くない。自分だって被害者だ。でも、知らないうちに酷いことをしてしまったらしい。そんな気持ちがマイムを支配していた。
「さて、じゃあ私達はネロを追いますかー」
「賛成」
空気を読まずにルルディとリバディがルゥとネロの向かった方向へ歩き出した。
レイディとラウディも二人の後を追いかけるようにこの場を去るのだが、なぜか一番後をおいそうなアイネはこの場に残った。彼女の表情は自分を置いていったルゥとネロに怒るでもなく、未だ『神の手足』の追撃を受けかねない状況に心配するでもなく、ただただ楽しそうに微笑みを浮かべているだけだった。
疑問に思ったのは『ゴリアテ』だけではなく、エーテルやモエギまでもが首を傾げていた。
「追いかけないですか?」
誰よりも精霊種族や第三種族を怖がっているはずのモエギが怖いもの知らずを発揮して素直な疑問を口にした。
「なんでぇ? 追いかける必要なんてないものぉ」
誰よりも付き合いの長いアイネの絶対的な自信からくる言葉に、相応の付き合いがあると自負していたミーシャやモエギとカガリはムッとした顔になった。
アイネはそんな三人を見てふふっと笑ってから「ルゥくんってばモテモテねぇ」と呟いた。そして雰囲気を少し鋭いものにしてからこう続けた。
「追いかけてったあの子達には悪いけれどぉ、ちょうど良いかしらねぇ」
「ちょうどいいって、何がだよ」
不貞腐れたようにカガリ聞くと、彼女の不機嫌さに油を注ぐようにアイネは冷笑を浮かべた。
「これから、あなた達の覚悟を試させてもらうわ」
平時の間延びした言葉遣いを止めたアイネが纏う雰囲気は、まさに嵐の前の静けさのようだった。