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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン4 
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8、荒れる心内

 エルデがいなくなったことにより、ようやく固まっていた面々が動き出した。

 目に見える形では分からないが、無意識かで相当な圧力を感じていたのだろう。全員が全員、緊張で固まっていた体をほぐしたり、額に浮かんだ汗を拭ったりしていた。


「あれが……四大精霊のノームか」

「土の力を持ってるアーサーはんには、因縁の相手いうことやねぇ」

「インネンってのとは違うんじゃねえか? 別にアタシはルゥやサラマンダーを敵と思ってるわけじゃねえし」

「そうか? 俺はシュカの言う因縁の相手を言い得て妙だと思うがな。敵と見なしているわけではないが、何故か闘争心を掻き立てられる」

「アーサーはんもカガリはんも、下手に喧嘩売らんといてや。うちらの目的はあくまでも神様やよって」

「それは分かってるっつの。けどよ、カミサマの前にあのノームがいたらぶっ飛ばすだろ!」


 余計な争いを避けるように注意するシュカだが、アーサーとカガリは逆に闘争心を燃やしていた。

 そんな二人にため息混じりの笑みを零したシュカは、


「はいはい。神様もノームもええけど、今はあの子猿はんの状態を調べな、対策も何もあらしまへんよ。なあ、団長はん?」

「…………」

「団長はん?」

「え? わりぃ、なんか言ったか?」

「……団長、大丈夫か? ノームの力に当てられでもしたのか?」


 神様への闘争心を燃やしていたアーサーとカガリもカザミの異変に気付き、揶揄(からか)い混じりに寄ってきた。

 カザミはそんな優しい団員達を心配させまいと、努めて明るい表情と声で考えを話した。


「いや、ただ……さっきノームが言ってたことが引っかかってさ……。シルフが、自由を奪ったって」


 笑顔を作ったはずが、話し始めた瞬間には真顔になり、明るく取り繕ったはずの声も震えてしまっていた。

 カザミのその様子からアーサー達は『ゴリアテ』の悲劇を思い出した。


「まさか、シズクのあの症状……」

「は? あれなのか? シズクの症状はシルフがやったってのか?!」

「せやね……。シズクはんは自分じゃ満足に動かれへんし、風の力を感じると恐慌状態になる。それどころか、水の力を暴走させて体中から水分が吹き出して止まらへん」

「ははっ。だとしたら、俺はシルフが因縁の相手ってことかよ」


 アーサーやカガリの言った因縁についての会話はをカザミは聞いていなかったはずだが、自嘲気味に笑ったカザミはアーサーの顔を見て肩を竦めていた。

 しかし、そのおどけた仕草も束の間に、彼の目には怒りと憎しみが沸き上がり、ネロと楽しく談笑するアイネの姿を鋭く射抜いていたのだった。


 一方でルゥは、ノームであるエルデを呼び寄せるためにマイムの力を解放し、目論見通り神様の居所(いどころ)を聞き出したが、エルデとアイネの会話によって解き明かされてしまった、シズクという女性の症状に対して思うところのある『ゴリアテ』の面々を見て、心臓の辺りが締め付けられたような気がしたのだった。


 ──精霊の力は強い。一人の人生を簡単に壊しちゃうくらいに……。


 記憶を失う以前の自分や、それより前のサラマンダーだった頃。ルゥは誰かの人生を壊したことがあるのだろうかと不安になった。

 いや、神に近しい力を持ち、神の願う通りに力を使っていたのだろう。"誰か"ではなく複数の人生を強制的に終わらせたこともあるだろう。


 ──僕は自分が怖い。でも、逃げないって決めた。決めたんだ!


(自分を偽るのは大変だって、自分が一番わかってるだろう。俺が居るから、君はルゥのままでいい。俺がサラマンダーであり続けるから)


 自分の中のもう一人の自分、サラマンダーの優しさを感じたルゥの耳に、マイムの慟哭(どうこく)に近い声が届いた。


「なんでだよ!!!」


「マイム、落ち着けって……」

「うるさいうるさい! エーテルおばちゃんには分かんない!! おれっ、おれの中にあったなにかがなくなったんだ! ……それで……それで、力が……使えないっ……なんて、あるわけない、のに……!」

「マイム……」

「かみさまが、おれにくれた力なのに……。あいつに、取られた……」


 白くなるほど握り締められた手は、先ほどの力を再現しようと何度も地面に叩き付けられた。

 しかし感情が高ぶっているにも関わらず、地面は小さな溝を作ることもなく鈍い音を響かせるだけだった。

 見兼ねたミーシャが慌てて止めに入ったが、その小さな手には血が滲んでいたのだった。


「……マイム、辛くても、自分を傷つけるのはダメ……だよ?」

「っぅ、ぅう〜……うわぁあん!! ミーシャぁ!! おれ、おれっ……もう……みん、な……ぅあああ!」

「泣かないで。力がなくても、優しくなれる……よ。マイムなら」


 母親が子供をあやすように慈愛をたっぷり込めて抱きしめ、頭や背中を撫で続けるミーシャへ向けて、エーテルは感謝の気持ちで静かに頭を下げた。


 ──ごめんね。でも、マイムにあの第三種族(サード)の力は大きすぎる。いくら金属で抑えていると言っても、大人になって更に力が大きくなって扱えなくなる前に、エルでに返しちゃった方が良いんだよ。


 そしてルゥも、心の中でマイムとミーシャ、そしてエーテルに申し訳なさで頭を下げたのだった。

 カザミもマイムもルゥも、心の中が荒れています。

 大人になるほど、顔に出さずに心の内に留めて我慢することが多くなるのが辛いところですね。

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