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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン4 
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7、ルゥの思惑

「なるほどな……。フォティア、俺を呼んだということはそういうことで良いのだろう?」

「うーん、多分エルデが考えてることで合ってると思う。けど、余計なことはしないでね?」

「ふん。アイネと一緒にするな。俺はそこまで残酷ではない」


 ルゥとエルデだけ通じている話に、ネロが何かを閃いたかのように二人の会話に口を挟んだ。


「ルゥ、貴方、まさか……」

「ネロちゃん、もしかして? え、でも、ルゥくんはどこまで知ってるのぉ?」

「そんな……。アイネがやったことをルゥは知らないはずよ!」


 アイネも会話に参加してネロと意見を交換しているが、二人とも困惑していて考えがまとまっていないようだった。

 無理もないだろう。ルゥが今話している内容は、四大精霊しか使えない力の中の一つであり、現時点でアイネが一度っきり使っただけの珍しい力だったからである。


 ネロも、エルデさえも使ったことのない力。

 元は四大精霊の存在が世界に伝わらないよう、その存在を不確かなものであり、畏怖するべきものであると住人に植え付けるために神が与えた力。

 しかし住人は力を使わずとも神を唯一神と崇め、神に従う精霊の力を畏怖したため使われることのなかった力。

 サラマンダーとしての記憶を失っていて、かつアイネが幽閉されている間の出来事についても知り得ないはずのルゥが知っているということに対し、ネロもアイネも驚いているのだ。


「それに、たとえフーは知っていても……」

「ええ。フーくんなら使わないし、使わせないわよねぇ」


 悩める二人にエルデは至って冷静な声を浴びせた。


「お前らは忘れたのか? フォティアは目の前のことしか見えない。その場その場で優しさを分け与え、結果的に他の者がどれほど不幸になると説得しても、手の届く相手にしか関心を向けられない大馬鹿者だということを」

「ちょっとエルデ、その言い方はないでしょう」

「そうよぉ。エルくんは昔からフーくんに当たりが強いわよぉ」

「お前らが甘やかすからだろう」

「お兄ちゃんなりの優しさってことぉ?」


 好き勝手に言われているが、あながち間違っていないだけにルゥは曖昧に笑って誤魔化した。


「……勝手に解釈していろ。さて、無駄話もここで切り上げて、さっさとその力を返してもらうぞ」


 エルデが立ちはだかるエーテルを無視してマイムに向かって手を(かざ)した。


「待てっ──」

「大丈夫だよ、エーテル。これで、みんなと幸せに暮らせると良いね」

「ルゥ、一体何を言ってるんだ? おい、ネロ。ルゥは……エルデって奴は何をしようとしてるんだ?」

「……恐らく、マイムの力を失くそうとしているのよ。それが貴女達を幸福にするか不幸にするかは分からないけれど、ルゥは貴女達に幸せになって欲しいと思っているわ。もちろん、私もよ……」

「ネロも優しくなったね。大丈夫。マイムが第三種族(サード)じゃなくなれば、普通の動物種族として暮らしていけるはずだよ。そっちの方がエーテルだって良いでしょ? だから心配しなくて良いよ」


 四大精霊が直々に、第三種族(サード)から精霊としての力を抜き取る。

 エルデがやろうとしていることは、そういうことである。


 初めての試みではあるが、アイネが似たようなことをやっているのだ。自分にもできるだろうと、エルデはエーテルによって切られてしまった意識を改めて集中させ、躊躇することなくあっさりと力を行使した。


「あ……ちからが……。うご、け……ない……」

「ふん、俺はノームだ。親である俺に逆らえるはずもないだろう。心配するな。元々は俺の力だったものを返してもらうだけだ」


 エルデとマイムの足元から黄金の光が立ち昇り、二人を包み込んだ。やがてマイムを包んでいた光だけがエルデの翳した右手に集まっていき、エルデが右手を握り込むと同時に光は消えたのだった。

 他の者はその真意的な光景が終わるまで、息をするのも忘れて見入っていた。


「……こんなものか」

「上手くいった?」

「当たり前だろう。俺はアイネほど馬鹿でもなければ不器用でもないからな」

「えぇ? エルくんひどぉい。私は狙ったものだけ吸収したもの。不器用じゃないわよぉ」

「対象の自由を奪ったのだろう? 人形……いや、壊れた人形か」

「そうそう。アイネの能力はタチが悪いわよね」

「そういうネロちゃんこそ、感情を奪っちゃうんだからエゲツないでしょ」


 ルゥを除いた精霊達がわいわいと話している横で、自分の身に何が起きたのか理解しきれていないマイムと、先ほどの光景の余韻から覚めない面々はその場から動くことができず、まるで彫刻のように固まって精霊達の会話を見ているだけであった。


「さて、積もる話はまだあるが俺はこれで帰るぞ。俺がここに来たことはシギルに知られているだろう。もっとも、フォティアの狙いがそれなのだろうがな。第三種族(サード)の連中は神の鉄槌を受けないよう、せいぜい気を付けることだ」

「やっぱりエルデはシギルの居場所を知っているのね」

「隠し立ててもしょうがないからな。シギルに会いたければセンティルライド大陸の多種族国家(ネオリバピア)コアルガまで来ると良い。無事に辿り着ければの話だが」


 そう言うと、エルデはルゥを一瞥してから体を土に同化させるように変質させ、あっという間に目の前からいなくなった。

 エルデがマイムの力を返してもらう話でした。

 性格的に一番面倒なのがエルデですね。

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