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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン4 
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6、本物のノーム

 大きく地面が抉られている現状に、周囲の者はもとより、この事態を作り出したマイムも驚愕して目を見開いていた。ただ、この状況を作り出したそもそもの原因であるルゥだけはこうなることを予想していたのだろう。陥没した地面に視線を固定して静かに佇んでいた。


「……これ、おれがやった……のか……?」

「そうだよ。これがマイムの本当の力。まあ、暴走してるみたいな状態だから、本当のっていうのはちょっと違うけど、これで息がしやすくなったんじゃないかな?」


 自らの力の強大さに呆然としているマイムに、ルゥは事も無げに言い放った。

 ルゥ自身、口から滑り落ちたというような無意識の言葉であった。


「ちょっとルゥ! 貴方……なんて事してるのよ!」


 いち早く我に返ったネロが凄まじい剣幕で迫ってきたのを、飄々とした表情で迎えたルゥは「何か問題でも?」と言いたげな顔で尻尾を揺らした。


「こんな……こんな事……『神の手足』に見つかったらどうするつもりなのよ!」

「ああ、それね」


 どういうわけか『神の手足』の連中は、こちらが少しでも精霊種族や第三種族(サード)の力を使うと、どこからともなく嗅ぎつけてやって来る。

 ここにくるまでにも何度か『神の手足』の襲撃を受けていた。流石に『五指』が出てくるほどの規模ではないが、情報収拾と嫌がらせが目的の小さなものだが、こちらとしてはなるべく大人しくセンティルライド大陸へ行こうと、いつも以上に気を張っていたのである。だからこそルルディとマイムが駄々をこねる結果になったのだが、おかげで大した被害もなくここまで来た。


 それを無駄にするようなルゥの暴挙。直の原因はマイムだが、ルゥが金冠を外さなければ、相手に発見される確率はぐんと減っただろう。その事に対してネロは怒っているのだろうとルゥは思い至ったが、本心から「だからどうしたの?」と思っていた。


 ──『神の手足』は面倒だけど、特に怖くないし……。僕のお父さん? っていう人には会いたくないけど、マイムが力を解放した事で得られるものがあるからなぁ。


「ちょっとルゥ! 黙ってないできちんと説明しなさいよ!」

「まあまあ、そんなに怒ると可愛くないよ?」

「ふざけないで!」

「ふざけてないよ?」

「ちょっとネロちゃん? あんまり怒りんぼさんだと、ルゥくんにもフーくんにも嫌われちゃうわよぉ?」

「アイネは黙ってなさい!」

「うわぁ……、お姉ちゃん怖ぁい」


 ネロの怒り方が予想以上に激しく、さすがに説明した方が良いと思ったルゥは未だに呆けている『ゴリアテ』や、状況に全くついて行けていないエーテル達を集めて、マイムの金冠を外した理由について語った。


「まずは僕がマイムの金冠を外せたことについて話そうかな」

「そうだ! てめえ、マイムの金冠は外せねえって言ってたじゃねえか!!」

「うーん……。あの時は嘘ついてたんだ、ごめんね?」

「はぁ!? ってことは、あの時点でマイムの金冠は外せたってことか?」

「うん。実はそうなんだ」


 ──あの時は僕が僕じゃなくなるような気がして怖かったけど、今はなんか……どうでも良いっていうか、こうした方が良いっていうか……そんな気がする。


「僕はもう僕の力を怖がらない。そうしないと、ネロの願いを叶えられない……。神様に、会えないから」

「どういうことですー? 狼さんは、神様の居場所を知ってるんですかー?」

「それなら、私達はいらないはず……」

「そういうことじゃなくって……。えっと……そろそろ来ても良いと思うんだけどな」

「何が──」


 ネロの疑問を遮るようにマイムが抉った地面が逆再生をするように元に戻り、平らになるどころか高さ2メートルほどの山の形になった。


「なんだこれ? マイムか?」

「ちがうよ! おれ、何もしてない! ミ、ミーシャは見てたよね!?」

「う、うん。マイムは何もしてないよ」

「じゃあ、精霊種族さん……です?」

「私もやってない」

「じゃあ一体誰が──」


 エーテル、マイム、ミーシャ、リバディが意見交換をしている間にも柱はその形を変え、徐々に人型へと形成されていき、やがてヒビが入ったその人型の中から白い外套をすっぽりと被った一人の人物が現れた。


「……この感じ、もしかして」

「久しぶりだな、ネロ、アイネ。あと、フォティアもな」


 外套のフードを無造作に外したその中から、金髪の美丈夫が顔を晒した。

 短く切りそろえられた鮮やかな金髪と反して、その顔は武士のような厳つくも涼しげなものだった。


「エルデ……」

「うそぉ!? エルくん!? 凄ぉい! 久しぶりじゃなぁい!」


 ネロとアイネが驚きと興奮に声を上げた。アイネに至っては笑顔で手をゆらゆらと振りながら小走りで駆け寄るというおまけ付きである。


「ほら、神様に一番近い人が来たよ。マイムの暴走に黙っていられなくなったんだよね?」

「……やはりお前か、フォティア」

「僕はルゥだよ?」

「お前のそういうところが気に食わん。この話も以前……いや、今はこの話はどうでも良い。問題はそこの第三種族(サード)だ」

「ちょっとエルくん? 感動の再会とかはないわけぇ?」

「謹慎中のアイネを外に出したのもフォティアだろう。全く、どこまでシギルの手を煩わせたら気がすむんだ」

「あらぁ? もしかして無視ぃ? 私泣いちゃうわよぉ?」

「今は忙しい。甘えるなら後にしろ」


 エルデは一見、乱暴な言葉遣いに素っ気ない態度で冷たい印象を持たれるが、その実はむくれるアイネの頭を優しい手つきで撫でたり、忙しいと断っても"後にしろ"と甘えること自体は拒否していない、優しい心の持ち主なのである。しかし、そんなことは現状には全く関係なく、エルデは呆然と立ち尽くしているマイムにゆっくりと近付いていった。

 マイムは何もできず、ゆっくりと近付いてくるエルデをただ見つめることしかできなかったが、そんなマイムを背に庇うようにエーテルが二人の間に割って入った。


 ネロとアイネと親しくしていることから、エルデが四大精霊の一人であると理解しているエーテルだったが、甥っ子の危機──エルデが危害を加えると本能的に悟った──に居ても立っても居られず、無謀を承知でマイムを庇ったのだった。


「そ、それ以上マイムに近付いたら、容赦しないよっ!」

「ほう……。お前、受け継いだ者か」

「受け継いだ? 何を──」

「シギルの欠片。愛しい者と決して交わることのできない悲哀の体現者」

「ッだったらなんだってのさ! アタシは、アタシはクレアとエリクとマイムが幸せに暮らせればそれで良いんだ!」


 ──愛おしい者、愛する家族のために自分を犠牲にできる人。それがエーテルの強さなんだ。

ノームであるエルデの登場です。

金色で短髪の武士というすごいキャラが出てきました。結構気に入ってます。

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