1、賑やかなひととき
みんながネロとアイネの放った「神が二人居る理由を知らない」という発言に驚いているなか、ルゥももちろん驚いているのだが他の者よりも驚きの度合いは少なかった。
──なんでだろう? 僕は、神様が二人いる理由を知ってるのかな? ネロが、アイネが知らない理由を……。
「私達が生まれた時には既に神は二人居たのよ。私達を生んだのは二人の神であり、この世界を作ったのも二人の神の力なのよ」
そう説明したネロだったが、四大精霊を作ったのは二人の神で合っていても、世界を作ったのはシギル一人である。
彼女達が生まれた時、既に二人の神が居たからネロもアイネもそう思い込んでいるだけであり、シギル達も特に説明をすることはなかったのだ。
「なるほどな。二人で一人の神ということか」
今まで黙って話を聞いていただけのアーサーが、物事の核心を突くことを言った。
それを聞いたルゥは、頭の中で何かがカチリとはまった気がした。
──二人で、一人……。
「そうだ。寂しかったんだよ」
唐突な言葉に怪訝そうな、呆れたような、「何言ってんだコイツ」という視線を向ける周囲を見て苦笑したルゥは、自分の記憶の欠片を繋ぎ合わせて自らの予想を述べた。
「神様はさ、元々一人だったんじゃないかなって思ったんだ」
「はぁ? それってどう──」
「カザミ、ちょっと黙りなさい。……それで?」
ネロの殺気にも近い怒りの視線を受けたカザミは縮こまってしまったが、ルゥはそんな必死になっているネロを気にする事なく、促されるまま話を続けた。
「えっと……理由は分からないけど、神様はこの世界を観察? してたんだよね? それで、この世界で楽しく暮らしてるみんなを見てきっと、寂しいって思ったんじゃないかな?」
「ちょお待ち。神様が二人居るなら、なんでルゥはん──サラマンダーや他の大精霊を作ったん? 二人でなんや出来へんかったん?」
「そうだぜ! おかしいじゃねえか!」
「それはわかんないよ」
シュカやカガリの突っ込みを流したルゥは、足りない欠片を拾い集めようと記憶の海に潜った。
──元々一人の神様が、何か理由があって"箱庭"を、この世界を作って観察してた。
僕らは、二人の神様に作られた……。それは合ってる気がする。けど、この世界を作ったのも二人だったのかって言われると、なんか違う気がするんだよね。
「僕達を作ったのは、他に理由があるんじゃないかな?」
「どういう事? ルゥは、何か知っているの? 覚えているの? 何かを……思い出したの?」
「たぶんの話だよ。僕の記憶には──」
『お主達は我らの子供である。しかし、箱庭の住人のように番いを持っても子を成すわけではない。……だが我も、誰かと番いになって子を成してみたいものだ』
「──ないよ」
「ルゥ?」
不自然に途切れた話を無理やり締めたルゥに違和感を覚えたネロが名前をよんで心配そうな目を向けるが、ルゥは頭の中で聞こえた悲しそうな女の人の声が、ぼんやりとした姿が頭の中にずっと残り、返事をすることが出来なかった。
「静かなルゥが怖いんだけど、またサラマンダーになったりしないよな?」
「そんな簡単に入れ替わられたらたまったものじゃないわよ」
「俺様はもう一度会ってみたいぞ!」
不安げなカザミとネロの言葉に、ラウディの楽観的な希望を皮切りに、それぞれが神様や四大精霊、この世界についての考察を始める声を遠くで聴きながら、ルゥは先ほど脳内で流れた女の人の声を思い出し、そして素朴な疑問を口に出した。
「子供って、どうやって出来るの?」
その独り言に近い呟きは騒がしい中でも良く通り、先ほどまでの賑やかさが一瞬で凍りついた。
「お、おまっ……なっ……? バッ…………はぁ!?」
「カガリはん、言葉になってへんよ」
顔を真っ赤にしたカガリが第一声を発するが言葉になることはなく、なんとも言えない表情のシュカに宥められていた。
ルゥが周りを見れば先ほどと同じようで違う、相談や考察でなはい独り言のような呟きが聞こえてきた。
特にカガリ、モエギ、ミーシャの三人は全員が顔を真っ赤に染めて視線を色々な方へ動かしたり、イヤイヤするように首を振ったり、かと思えば顔を覆ってピタリと動かなくなったり忙しそうだった。中でもミーシャはいつの間にか目を覚ましていたマイムにも子供の作り方をしつこく聞かれ、恥ずかしさと困惑とでほとほと困り果てているようだった。
しかし、一番忙しかったのは、モエギとマイムとミーシャの3人を宥め、場を収拾しようと奮闘したエーテルだった。
「ふふっ。ルゥくん子供の作り方が知りたいのぉ?」
「ちょっとアイネ?! ルゥに変なこと吹き込んだら承知しないわよ!?」
「良いじゃなぁい。ルゥくんももう立派な大人よぉ? 子作りしたっておかしくない年齢じゃないのぉ。それでもネロちゃんがルゥくんに知識を教えなかったのはぁ、もしかして自分との間に子供を成せないからかしらぁ?」
「……それ以上喋ったらいくらアイネでも、殺すわよ?」
「うふふふ、やってみる?」
一触触発の空気は決して冗談では済まされないもので、混沌としていた場が一気に冷たい空気で満たされたのだった。
相変わらずサブタイトルに悩みました。