5、二人の神様
微笑ましい気持ちになっているルゥとは打って変わって、ネロの言葉を聞いたカガリは怒りを爆発させた。
「……んな!? っざけんじゃねえ!!!」
怒りを表すかのように、カガリが身に付けて入る火の晶霊石が着いた腕輪から火花が散った。
「カガリはん、ちょお落ち着いて」
「落ち着けだ!? 落ち着けるか!! フィーリアは、妹はそんなくだらないことで殺されたってのかよ?! この世界は動物種族と精霊種族だけが生きることを許された世界だってのか?」
「カガリの言う通りだ。俺たちは、二つの種族の力を持って生まれたから長くは生きられない。それは……なんつうか種族的なものだって飲み込むことができたから、そんな運命を背負わせた神をぶっ飛ばすって意気込んで立ち上がることもできたんだけどな。まさか、第三種族も合成種族も神が産んだ種族じゃないからって言う理由で殺されんのは、腹が立つ……」
怒り心頭のカザミだったが、ふと違和感を感じて冷静になり、記憶を呼び起こし始めた。
「……ちょっと待てよ」
「何かしら?」
記憶を探り当て、難しい顔で待ったを掛けたカザミに対してネロはニヤリとした顔で聞き返した。
「お前、『五指』に向かって第三種族も合成種族も神が作ったからこの世界に存在してるって言ったよな?」
「そうね。言ったわね」
「だったら、なんで今、動物種族と精霊種族だけを作って、第三種族と合成種族は勝手に生まれてきたみたいな話になってんだよ」
「言ったでしょう。神は、二人いるのよ?」
シギルとクライス。
二人の神の内、シギルが"神の鉄槌"を下したのだから、第三種族と合成種族の存在を認めて生み出したということになる。
「でも、彼にそんな力はないのよ」
「は? ますます意味がわかんねえぞ?」
「彼の願いを、彼女が聞き届けた。その結果、彼の望みと彼女の望みが違っていたと言うことよ。まあ、これも彼から聞いたことだから、どこまで本当なのかわからないけれど」
ここまでの話を聞いて、ルゥの中にある記憶の琴線に触れるものはこれといって無かったが、神の望みの食い違いという部分を聞いて納得している自分がいた。
「話を戻すわよ? それで、"神の鉄槌"によってルゥはサラマンダーとして覚醒してしまったの。その前にも何度か表面化することはあっても、その時は今まで以上に力が溢れて放っておいたらどうなるかわからなかった。だから、彼は彼女に見つかることを覚悟してルゥの記憶に再び封印を施したってこと」
「神様は、もう一人の神様に見つかって、捕まっちゃったってこと?」
「正解よ。自由にさせていたことを後悔したのね。彼は捕まってしまったわ。アイネの封印と近い状態だと思う」
洞窟内に閉じ込められているアイネの姿を思い出したルゥは、耳と尻尾を垂れ下げ、悲しい表情でアイネのことを見遣った。
その視線を受けたアイネは嬉しそうに笑い、ルゥを横から抱きしめたのだった。
「うふふふ。ルゥ君はとっても優しいのねぇ。お姉ちゃんとぉっても嬉しいわぁ」
「……アイネは、どれくらいあの場所に居たの? 一人で寂しく無かった?」
アイネに抱きしめられながらも、独りぼっちの彼女を想って優しく問いかけた。
「私はシルフよ? 風があれば寂しくないわ。それに、洞窟内には川も灯火もあったから、全然寂しく無かったわ」
ルゥの優しさがとても嬉しかったのだろう。いつもの緩い話し方を止めたアイネは、本当に嬉しそうに語ったのだった。
「で? 一人が封印されてるから力が弱まってる?」
敬愛するシルフの寵愛を独占するルゥに嫉妬したのか、リバディが語調を強めて問いかけた。
もちろん、それに答えるのはネロの役目なのだが、その場の雰囲気を甘いものから脱却させるには十分だった。
「彼の自由を奪うために、彼女は力を使っているんでしょうね。アイネみたいに四大精霊の力を使って閉じ込めることができないから、彼女の監視の下で閉じ込められていると考えた方が現実的よ」
「もう一人の神を閉じ込めるために神の力を使っている。だから、神の力が弱まっている、ということか?」
「そういうことになるわね」
アーサーの総括にネロは頷いてみせたが、周りの面々は聞けば聞くほど神様は何がしたいのかわからなくなっていた。
特に、子供であるマイムには難しい話だったため、途中からうつらうつらしていたのがいまではぐっすりと眠ってしまっていた。
シギルとクライスの話です。
ルゥがいる手前、ネロが二人の名前を口にするのを躊躇っているため分かりづらい話になってしまっていますが、彼女がシギル、彼がクライスという一応の区別はつけています。
聞いている周りもなんとなく察してはいますが、モエギとマイムの二人はちんぷんかんぷんでしょうw