4、思い出語り 2
シギルとクライス、二人の神はこの世界という"箱庭"を作った。
好奇心と向上心の塊であるヒトという種族ではなく、ある程度の知能を持たされた動物種族と、四大元素を扱うことの出来る精霊種族という二つの種族をその箱庭に住まわせた。
当初、二人の神と世界を創造する手伝いをした四大精霊達は、ただ箱庭を眺めているだけだった。しかし、ただ眺める事に飽きたのか、その内サラマンダーが人々の暮らしを手伝いたいと言い出した。
シギルは「余計なことをするな」と反対したが、クライスは共に箱庭に降り立つことを条件に願いを聞き届け、それを聞いていたウンディーネが同行を申し出て、それならばとシギルが了承した。
ここでシギルは間違えたのだ。
箱庭の外でシギル、クライス、ノーム、シルフ、ウンディーネと暮らしていたときのサラマンダーは大人しく、少し甘えたがりで常に誰かと一緒に過ごし、手伝いを命じられれば素直に応じる、陽だまりのような存在だった。
しかし、それが箱庭の中へと降りた途端、住人達にやたらとお節介を焼き始めたのだ。
共に箱庭へとやってきたクライスとウンディーネはサラマンダーを叱り、やり過ぎだと止めたのだが彼はそれを聞かなかった。
人々の暮らしに手を貸し、感謝されることが嬉しかったのだ。
もちろん、箱庭を眺めていたシギルは過干渉な行為を許さなかった。
ただの手伝いならば咎められることはなかったが、サラマンダーはとある場所で高温の炎を生み出してしまった。
サラマンダーは力を封印されて動物種族への転生を余儀無くされ、流石に転生はやり過ぎだと止めたウンディーネさえも力を奪われ、精霊種族へと転生させられた。
そして、ネロもルゥも、フーでさえ知らないことだが、アイネが風の祠に幽閉されたのはこの出来事が発端となっている。
幾ばくかの月日が流れ、サラマンダーがルゥとして生まれるより前にネロとしてこの世界に生まれたウンディーネは、不思議な男と出会う。
それが神の一人であるクライスだった。
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「私を探し出した彼は言っていたわ。彼女の目を盗んで会いに来たって」
遠い思い出を語るネロの視線は遠くを見つめ、懐かしさに微笑む彼女の姿と発言からそういう勘違いをしそうになった者が数名いた。
「なんか……真面目な話なのにドキドキするです」
「せやねぇ。なんや、うちも顔がにやけてしまうわぁ」
「……おい。人に真面目に聞けって言ってやがったのどこのどいつだよ」
ジト目でシュカを見つめるカガリに、今度はカザミが「お前ら真面目に聞け」と注意したのだった。
「続き、話すわよ? 彼はもう一人の神の目を盗んでこの世界におり、私とルゥを探し出して昔みたいに旅を始めたのよ」
「……そう、なんだ」
「ルゥ、大丈夫? 頭が痛いとか、記憶が戻りそうとか、違和感とか……」
「え? 特に何もないよ?」
ネロの話を聞いてもルゥは自分の中に変化は感じられなかった
ただ、記憶がないはずなのに過去の出来事を聞いているという実感は確かにあった。
「なら、続けるわね? トワイノースで神様が"神の鉄槌"を行ったのは偶然でもなんでもなく、彼を追って来た先に第三種族や合成種族が居たから」
「おい、それってどういうことだよ」
「神様は動物種族と精霊種族だけを作ったはずなのに、いつの間にか第三種族や合成種族という種族がこの世界に居た。それが許せなかったのね。だからこそ"神の鉄槌"という悲惨な事が度々起こったのよ。目についたら手当たり次第。これじゃ、どっちが子供かわからないじゃない……」
剣を帯びたカガリの問いかけに答えたネロの言葉の最後の呟きは良く聞き取れなかったが、怒りというより呆れに近い表情をするネロを見て、ルゥも何故だか微笑ましい気持ちになったのだった。
先週の続きになります。
シギルとクライスという二人の神と、四大精霊のちょっとした過去の話です。