3、思い出語り
「それで、その二人いる神様の力が弱まってるってどういうこと?」
周りの静まり返った空気を物ともせずルゥは質問を続け、ネロはそんなルゥに不安を抱きながらも必要なことだと割り切って説明を続けた。
「ルゥの記憶を思い出させる鍵がどこにあるか分からないから、私も話して良いのか分からないっていう事を始めに伝えておくわ。だから、言葉が上手く出てこない、手探りの状態で話させてもらうわね」
「めんどくせぇな」
「カガリはん。ちゃちゃ入れへんの」
舌打ちまじりのカガリのぼやきに、シュカが厳しめに注意をする。
ネロとしては気が進まない話であるため、さっさと話してさっさと終わらせたいのだと、大きめの咳払いをした。
それを見ていたルゥは、やはりルゥらしからぬ表情でクスクスと笑い、エーテルやミーシャに不思議そうな顔をさせたのだった。
「……ごほんっ! とりあえず話を進めるけど、長くなりそうだから少し腰を落ち着けましょうか」
ルゥ、ネロ、アイネ。
エーテル、モエギ、ミーシャ、マイム。
ルルディ、リバディ、ラウディ、レイディの『始まりの精霊種族』。
そしてカザミ、アーサー、カガリ、シュカの『ゴリアテ』。
組織ごとに纏まって行動していたため、その場に座っても何と無くではあるが、ある程度固まって腰を落ち着けた面々だった。
ネロは全員が聞く体制を取ったことを確認してから話を続けた。
「神の力が弱まっているっていうのは、カガリの妹が……"神の鉄槌"と言われる粛清によって亡くなった頃に戻るわ」
「神の鉄槌?」
「ええ。ルゥは、その話を覚えている? そして、『神の手足』の中でも優秀な『五指』と呼ばれた、貴方の……父親と会った時の記憶を」
「…………少しだけ」
少しだけとルゥは言ったが、実際は"神の鉄槌"という単語に聞き馴染みがあり、父親に暴力を奮われていたという事実だけを覚えているのみだった。
カガリの妹のフィーリアがシギルに殺されたことも、父親であるケントと話したこともボンヤリとしか記憶しておらず、覚えているとは言えない状態なのだ。
そんなルゥの誤魔化しなどつゆ知らず、ネロは曖昧に笑うルゥを見て心配の眼差しを向けながらもぽつりと話し始めた。
ネロが語って聞かせたのは、ルゥがまだ幼い頃のこと。
神様とネロとルゥの三人で旅をしていた時、トワイノース大陸で起きた何度目かになる"神の鉄槌"に巻き込まれた。
その場には『ゴリアテ』を結成する前のカザミやカガリ、アーサーが居た。
「あの時のことははっきりと覚えてるぜ。ルゥと久しぶりに会ったのに、ルゥは俺のことなんかこれっぽちも覚えてなくってな。まあ、小さかったし、ケントさんから受けた暴力とか色々あったからな。仕方ないかって思ってたんだけどな」
「故郷であるニメアが無くなった後、神様がルゥの記憶を封じ込めたからよ」
「なるほどな……」
カザミとの昔話も交えつつ続けられる記憶のすり合わせ。
しかし、カザミの話にクライスは一切登場しない。
何故ならクライスもシギルから逃げていたからであり、なるべく人前に姿を晒すことがなかったからである。
「私もルゥも、罰で生まれ変わったって話をしたわよね?」
「そうだっけ?」
「……この際、ルゥが覚えているかどうかは置いておくけど、神様と一緒に旅をしたのは彼が私達を心配して、もう一人の神様の目を盗んでこの世界に降りてきたからなの。そして私を見つけ、ルゥを探し出して旅を始めた」
昔を懐かしむような遠い目をするネロに、ルゥは置いていかれた気分になって少しだけ座っていた位置をネロに寄せたのだった。
ネロは話している時、クライスという固有名は出していません。全て神様とか彼とかで話しています。
まだ、クライスという名前をルゥに聞かせるのが怖いのです。