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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン2
138/170

26、少しずつ日常へ 2

 自由気儘な『始まりの精霊種族』達に慣れたのか、エーテルも気になっていたことを何とは無しに口にした。


「にしても、ルゥが記憶喪失? なんでネロやカザミ達の事は覚えてるのにアタシとモエギの事は忘れてんのさ……」


 片手鍋と青い晶霊石(しょうれいせき)を二つ取り出し、鍋の中に水を満たしていく。先ほど刻んだ干し肉と塩胡椒などを加え、干し肉を水で戻しながらジャガイモの皮を剥いて一口大に切って鍋の中に投入する。

 会話や考え事をしながらも淀みなく手を動かすエーテルの器用さと慣れに、モエギ以外の人物は素直に感心していた。


「カザミの事も覚えてるって言うのが、アタシは納得いかないね」

「モ、モエギもです……」


 自分達がルゥと共にの積み重ねて来たあの時間はなんだったのか……。

 確かにカザミ達『ゴリアテ』の方がルゥやネロとの時間は長いし、濃いものかもしれない。しかしそれでも、あの楽しかった思い出は、大変だったり辛かったりした記憶は本物なのだ。


 そこまで考えてエーテルはもしかして、と思った。

 ルゥとの思い出が一番多く長いのはネロである。そんな彼女も旅の途中でルゥの記憶が無くなる状況があったかも知れない。その度にルゥがネロに対して「誰?」と問いかけたとする。

 それはとてつもなく悲しく辛い事だ……。


「ルゥが記憶喪失って言うのは俺も半信半疑なんだよな……。いや、トワイノースの拠点でルゥ自身の口から記憶喪失だって聞かされたけど、ミーシャの事は覚えてたし。その後冗談だって言われたし。よくわっかんねえ」

「わ、私……は、よく分からない、けど……。ルゥの言った事は、信じる、よ……」

「っあ、あたしだって! 信じてやらなく、もない……」

「カガリはんは素直やないなあ」


 カザミの言葉は図らずもエーテルを慰めるような形になったが、その後のミーシャの「信じる」と言う言葉にエーテルもカザミも考えすぎている自分を恥じ、にこやかに笑うシュカに隠れるように苦笑(わら)ったのだった。


「ねえ、あのルゥって狼が記憶喪失なのって、サラマンダー様の生まれ変わりってことと関係あるんじゃないですか?」

「あり得る。四大精霊の力が内包されてるなら、たかが第三種族(サード)が耐えられる筈ない。身体に異変があっても不思議じゃない」

「俺は認めないぞ! あの狼がサラマンダー様の生まれ変わりなど!」

「私も同意ですわ。ラウディを差し置いて、あの狼がこの世界において一番の火の使い手など……許せませんわ!」


 『神の手足』の中でも精鋭部隊である『五指』と実際に戦った『始まりの精霊種族』達は、ルゥの力を目の当たりにしている。だからこそルゥがサラマンダーの生まれ変わりという事も納得せざるを得なかった。


「って事は、今のルゥには二つの人格があるって事か? つまり、アタシ達があったのはルゥであってルゥじゃない……? サラマンダーだったって事か?」


 精霊種族達の会話に、鍋を温めている火に干し魚を(かざ)しながらエーテルが口を挟んだ。


「どうなんやろ? 団長はん、お猿のお嬢はんの言うことは合ってはるの?」

「ちょっと違う気がするな」

「サラマンダーの記憶がルゥの記憶を追い出した……と考えるべきなんじゃないか?」

「なるほど」

「あのコウモリ、頭良いですねー」

「ルルディと違って?」

「レイディ煩いですよ」


 アーサーが導き出した答えに精霊種族達も納得の表情をしていたが、元々考えることが苦手なカガリとモエギ、子供のマイムはチンプンカンプンだったようで、納得顔の大人達に対して理解できないことへの不満をぶつけた。


「てめえらさっきから難しい話ばっかりしやがって、あたしにも分かるように説明を──」

「そ、そうです! モエギもルゥくんの事なら知りたいです!」

「おいクソリス! あたしがしゃべってんだろうが!! 散々第三種族(サード)が怖いとか精霊種族が怖いとか抜かしてたクセに!」

「ひぃっ……!!」


 終始エーテルの側から離れなかったモエギが、ルゥの話になった途端少しだけ身を乗り出してカガリの言葉を遮り、精霊種族に食って掛かった。

 もちろん話を遮られたカガリは面白くない。即座に手のひらに小さな火球を生み出してモエギの事を()めつけた。

 カガリの脅しにモエギはすぐさまエーテルの後ろに引っ込んで、それ以上口を開く事はなかった。


「ねえ、エーテルおばちゃん。あの狼のことなんてどうでも良いけど、魚こげてるよ?」

「っやば! ちょ、マイム! そう言う事はもう少し早く言いな!!」

「あー! 俺様の魚が!」

「ちょっと! ラウディの栄養になるのよ!? しっかりしなさい!」


 剣吞な雰囲気も何処へやら。

 こうしてバタバタとした遅い昼食を終えた彼女達は、互いの情報を時々喧嘩混じりで交換しながらルゥとネロが戻るのを待った。

 『ゴリアテ』と『始まりの精霊種族』の仲の悪さを取り持つエーテルさん。

 実際は妹なのにお姉さんキャラ。甥っ子の存在が大きい上に、軽業を仕込んでもらった旅芸人一座での出来事もこういうところに活きています。

 ここもサブストーリーで書きたいですね。


21,6,4 サブタイトル表記訂正

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