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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン2
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25、少しずつ日常へ

 エーテルが色々と飲み込んでいるのを見て、カザミは同意と同情の視線を向けていた。

 こんな時にルゥやネロが居てくれたら上手く事を収めたんだろうなと、つい先ほど別れたばかりにも関わらず、二人の存在を遠くに感じて遠い目を向けるのだった。


「……第三種族(サード)も動物種族も、面倒」

「本当ですねー。あーあ、早くネロ帰って来ないかなー?」


 長寿であるが故に、カザミ達が今の今まで話していた会話の内容に全くもって興味のない精霊種族達は、地面に座り込んで暇を持て余していた。


「俺様は腹が減ったぞ!」

(わたくし)もですわ。力を使いすぎて疲れましたし、ネロなんか放って置いてエレメステイルに帰りませんこと?」

「さんせー……って言いたいところだけど、ルルとリバちゃんはネロが帰ってくるまで動けませーん」

「ネロ……ウンディーネ様の頼み。断らない。あと、待ってればシルフ様に会える」


 『始まりの精霊種族』は四大精霊や神を崇拝している。

 各々によって程度の違いはあれ、基本的には邪険にはしないはずなのだが……。


「ウンディーネもシルフもどうでも良いですわ。私には……」


 ちらりと横目でラウディの姿を視界に収めたレイディは恥じらいの表情を浮かべた。

 良くも悪くも我が道を行くレイディの、『始まりの精霊種族』らしからぬ姿を見せられているカザミとしては、先ほどの冷酷無比な攻撃を繰り出していた人物と同じとは到底思えず、さらに遠い目をするのだった。


「あー、で? 結局あたし達はルゥが帰ってくるまで動けねぇんだな?」


 どうしようもない空気感に耐えきれなくなったのか、珍しくカガリが要点をまとめた。


「そうなるな」

「じゃあ、精霊種族達もお腹空いたって言ってるし、気分を落ち着かせるためにもアタシが一肌脱ごうかね」


 そう言ってエーテルはリュックから食材と調理用品、食器、を順番に取り出し始めた。


「やったですぅ。エーテルさんのご飯ですぅ、これで少し日常に戻れる気がするですぅ……」

「そうか、エーテルは料理ができるのか。それは助かるな」

「俺も手伝おう」

「じゃあ、あたしは適当に獲物でも探してきてやるか」

「働かざるもの食うべからず、やね」


 『ゴリアテ』もエーテルに倣って各々が美味しい食事にありつくため行動を開始した。

 まあ、家事に関して不器用を地で行くカザミと怪我をしていて動けないシュカは大人しく待っているだけである。

 案の定「シュカは休んどけ」という言葉が全員から飛んできたのだった。


「アタシの料理、ルゥにも食べて欲しかったな……」

「エーテルさん……」

「落ち込んでる割には腕は止まらねえな。ヒュー、すっげ」

「……人が落ち込んでんのに、カザミって空気読めないのか?」


 カザミの軽い調子にエーテルが剣吞な視線を飛ばしながら干し肉を石のナイフで細かく刻んでいくが、だんだんと苛々が募っているのか手付きが雑になっていた。

 そんなエーテルの内心の荒れ模様よりも激しく慌てふためくモエギは、刃物を扱っているエーテルを鑑みることなく彼女の体を揺さぶって恐怖と動揺を露わにする。


「ちょ、エーテルさん!? さ、第三種族(サード)にそんなこと言ったら、ころっ、殺されるですよ!?」

「アホらし。そんなことより──」

「あ、モ……モエギ、ちゃん? 危ない、よ?」

「え? えっと……ミーシャさん? でしたっけ? 危ないって何がです? 第三種族(サード)と精霊種族ですか?」

「ほんま……救いようないわ。アーサーはん、この齧歯類(げっしるい)の口に砂でも食べさせとき」


 刃物より第三種族(サード)の方が恐ろしいモエギにとって、呆れ果てるシュカやおどおどしながら必死に危険性を訴えるミーシャの言っている事が正しく理解できなかった。


「モエギっ! アンタ危ないって! アタシ今刃物持ってんだぞ!?」

「え? あ! ああー!! すみませんです!」


 エーテルが怒鳴ったことでようやく自分が何をしでかしていたのか理解したモエギは、急いでエーテルから手を話して何度も頭を下げて謝罪していた。


「このリス、バカなの?」

「マイム、それは言っちゃ、ダメ……」

「子猿の方がまだお利口さんやね。もっと言ったり」

「ぶはっ! モエギって残念な子なんだな! アッハッハッハ!」

「全員酷い言いようだが……俺も否定はしないな」


 マイムの素直な暴言に始まり、ミーシャの「本心では自分もそう思っている」という肯定が含まれた(たしな)める言葉、相も変わらずなシュカの嫌味に、カザミの爆笑と共に与え

られる不名誉な称号。更には真面目なアーサーまでもモエギが「バカ」だと認めたことで涙目になって落ち込むモエギであった。

 そうして、徐々にではあるが殺伐とした戦闘の空気からようやくいつもの日常に近い雰囲気に戻ったてきたのだった。


「ねー……。お腹空いたー。ご飯まだですかー?」

「……遅い」

「いつまで待たせる気ですの? 使えない」

「腹がー減ったぞー」


 そしてこちらは日常でしかなかった。

 非日常の中でも、いつもやって来たことをやるといつの間にか日常に戻りつつあるというお話。

 モエギは空気が読めないですが、だからこそ普通の女の子として恐怖や怒り、異性への好意などをそのまま表現しているので結構重要な子です。ありがとう。

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