23、団長の仕事
ルゥが四大精霊であるサラマンダーとして覚醒した、という情報を聞いても嫌悪を示すことのないエーテル達に対して、カザミは心中静かに胸を撫で下ろしていた。
同じ狼の動物であり、第三種族という共通の特殊な種族。
そして、今こうして生きていられている大恩人で所在の知れないルゥの実兄ヴォルフに対して義理立てしているのもある。
やはり血の繋がりはなくてもルゥは弟なのだ。
「ねー。暇なんですけどー。ネロはいつ帰ってくるんですかー? って言うか、後追いかけて良いですかー?」
「お腹すいた……」
「ちょっとラウディ! 私の衣服で遊ばないでくれません?」
「だって暇だろ。レイの服、ひらひらしてるから面白い!」
カザミが感慨深く思い馳せている横で『始まりの精霊種族』達はなんとも自由気儘である。
ラウディに至ってはレイディの着ているクラゲのようなひらひらした服の飾りに向かって火球を飛ばしている。
「お前らなあ──」
「面白そうですねー。ルルもやろーっと」
「……私も」
「っやめなさい!」
気を散らしている彼女達に声を掛けたが、ルルディとリバディまで遊びに参加し始める始末。
同じ力量の精霊種族同士、例え万が一体に攻撃(?)が当たったとして相殺することが可能である。しかしそれでも狙われるというのは良い気がしないのは確かであり小さく避けているのだが、それが余計に布の動きを不規則にして遊戯の面白さを加速させ彼女達を喜ばせるという負の連鎖が出来上がってしまったのだった。
カザミはその一連の光景を見て、先ほどまで『神の手足』と戦闘を繰り広げていて疲れているはずなのに、こういう遊びに使う力はあるのかと呆れ、そして「ああ、やっぱりか」と思った。
精霊種族は基本的に他人を慮ることをしない種族である。
親しい間柄であればルルディとリバディのように使用する力の種類が違っても行動を共にすることはあるが、彼女達も決して互いを思いやっている訳ではない。
そのことをカザミは経験から知っていた故に納得したのだった。
「うっせえ!! クソ団長がしゃべってんだろうが!! 大体さっきから、テメエら一体なんなんだよ! 急にしゃしゃり出てきやがって!」
「何って……ちょっと前に話したことも覚えてられないんですかー? 頭悪い男女ですね」
「私達はネロを手伝うために来た。神様とは戦わない。けど、案内くらいならできると思う」
「お嬢はん達、神様の居場所を知って──ッ!」
「ああほら興奮するなって。……ったく、シュカは大人しくしてろよ? その事についても今から話すから。精霊種族のあんたらはちょっと黙っててくんねえか?」
傷口を開きそうになっているシュカを優しく宥めたカザミは、そこから一転して厳しい表情で精霊種族達を威圧した。
カザミの威圧などなんとも思わない彼女達だが、これ以上騒がしくしても面倒だと判断したリバディが他の精霊種族達を大人しく引き下がらせたのだった。
ようやく落ち着いて説明出来ると、無駄に疲れた気持ちを入れ替えるために軽く息を吐いたカザミは気合いを入れ直した。
「えーっと、ルゥとネロが二人だけで話してる時にも少し話したと思うけど、俺たち『ゴリアテ』の目標はこの世界を作った神への反逆だ。その為に第三種族のや晶霊石を集めてきた。特に四大精霊の生まれ変わり…………と自負してる俺やシズク、ルゥ、マイムの能力はこの作戦において外すことはできない。ここまでは良いよな?」
確認を取るように全員の顔を見回すと、『ゴリアテ』はやる気漲る決意の表情でしっかりと頷き、エーテルとマイムとミーシャはおずおずと、『始まりの精霊種族』達とモエギは頷くことをせず、ただ黙って聞いていた。
各々の反応を確かめたカザミは特にその事について言及する事なく、報告を続けた。
「それで、その主要戦力のルゥは本当にサラマンダーの生まれ変わりだったらしく、さっきの戦闘中に完全にサラマンダーとして覚醒した」
「ルゥが……? 本当に?」
呆然としたエーテルの呟きを無視してカザミは話を進める。
「そのルゥが、シルフを迎えに行く為にネロとどっかに行った。つまり、ルゥが戻ってくるまで俺たちは動けなくなったわけだ。以上! 質問は?」
「あ、あの……」
「はいミーシャ!」
「っあ、えと……。ルゥを待つのは、分かったけど……マイムのお父さん? は、どうなるの?」
「そうだよ……! エリクを探して一発殴ってやらないとだ!」
「うぅ…………。モエギは、早くルゥくんに会いたいです。怖いです。第三種族と精霊種族がいっぱいで、この状況だけで死ねますぅ……」
「そないに言うならリスのお嬢はんは帰ったらよろしいやろ。暗くて重い空気でジメジメめそめそ居られると、うちん傷も治るに治らへんわ」
「ほう。シュカがそれほどまでに誰かを嫌うなんて珍しいな」
「確かにな。おい、そこのクソうぜぇ女は一体何をやらかしやがったんだよ?」
自由気儘な発言をするのは精霊種族だけでなく、自分の周囲にも大概なメンツが揃っていたなと思い出したカザミは乾いた笑いを零し、これ以上騒がしくなる前に気持ちを入れ替えて柏手を三つほど打って全員の意識をこちらへと向けさせた。
この章長いですねw
もう少々掛かりますww
カザミのターンももう少し続きます。