22、情報整理と説明
サラマンダーとネロが去った後、その場に残されたカザミと『始まりの精霊種族』4人は、ひとまず周囲に生き残っている『神の手足』の残党がいないことを確認してから、一度風の防壁を解体し、置いていかれた状況にいる他の面々の元へと戻っていった。
風の防壁が霧散したことで、軽い恐慌状態に陥ったモエギの小さな悲鳴を聞きつけたカザミが駆け寄って事情を説明することにした。
「えーっと、ひとまず落ち着け。シュカの傷に障るだろ」
地面に横たわっているシュカの左翼には包帯が巻かれ、近くには止血に使ったであろう赤く染まった布が散乱していた。
「ネロとそこの栗鼠のお陰でだいぶ安定している」
「そうか……」
心配そうな顔に気付いたアーサーが状況説明をしたことでホッと息を吐いたカザミに、シュカは痛む傷を押して苦笑を浮かべ、心配かけて申し訳ないと謝った。
「……ほん、ま……情け、っないわぁ」
「喋んじゃねえよ! また完全に傷が塞がったわけじゃねえんだぞ!?」
「カガリの声も十分障るな……こりゃ……」
『ゴリアテ』の被害はシュカだけで、アーサーもカガリも多少の疲れは見られるが普通に元気そうで良かったと、漸くぎこちないながらも笑顔を浮かべたカザミだった。
そしてマイムやエーテル、ミーシャ、モエギ達にも外傷は無いことを確認したカザミは改めて今しがた起こった出来事について説明を始めた。
「まず、風の結界を解いたのは『神の手足』を退けたからだな。まだ安心し切ることはできないが、いつも通りの警戒具合まで落ち着いてくれていいぞ」
「は? 意味分かんねえ。もうちっと分かりやすく説明できねえのかよ、このクソ団長」
「……そうだよな。カガリにはもっと噛み砕いて説明しないと…………マイムやそっちのお嬢さん方もイマイチ理解しきれてないみたいだしな」
未だ戦闘態勢を解かないカガリや、状況が飲み込めていないエーテル達にカザミは咳払いをして言葉を選んで説明をし直すことにした。
この時点でカザミが説明をしたのは正解だっただろう。
もしもこの状況で先ほどの出来事を『始まりの精霊種族』達に説明しろと言ったとしても、元々彼女達と付き合いが短いルルディやリバディ、完全に初対面のレイディやラウディが言ったことを素直に飲み込めないだろう。
普段、面倒なことや説明ごとは専らアーサーやシュカに任せているカザミも、この時ばかりは『ゴリアテ』という組織をまとめている団長らしく頑張るのだった。
「じゃあ、もう一回わかりやすく説明するぞ? 風の結界を解いたのは『神の手足』を追い返したからだ。そこまではいいな?」
全員が頷くのを見て続きを話す。
本当ならシュカを撃ち抜いた『五指』についても説明するべきなのだが、前述した通りカザミは物事を説明するのが苦手であるため、今は省略してネロ達が戻ってきたら説明させようと考えたのだった。
「んで、追い返しただけで向こうがまだこっちに攻撃を仕掛けてこないとは言い切れないのが今の状態だ。向かってきた数も半端なかったしな。伏兵がいるってことも考えられる」
「なるほど……。じゃあ、姿が見えないルゥとネロは伏兵を警戒して周囲を見て回ってるってことか?」
「あんた、エーテルっつったっけ?」
「ああ」
なかなか頭が回るエーテルに感心しながら、カザミは現状把握をしようと思考を続けるみんなの意識をこちらに向かせるため、少しだけ声を張った。
「みんな、聞いてくれ」
自分には関係ないとつまらなそうにしていた精霊種族を含めた全員の意識がカザミに向いたことを確認してから口を開いた。
「ルゥが……サラマンダーに覚醒した」
「やはりな」
「トワイノースの時と同じかよ。ったく、ほんっとワケわかんねーヤツだな」
カザミの発表に、ルゥの覚醒について予備知識のあったアーサーとカガリは特に驚いた様子もなく事実を受け止めていた。
「サラマンダー? 覚醒? どういうことなのさ」
「……モエギ、もう、何も聞きたくない……ですぅ」
「私は、どんなルゥでも、受け止める。……それが、私の覚悟……だから」
「あいつがサラマンダー? じゃあ、おれは……? おれもノームなのか? ノームの生まれかわりなのに、こんなに弱いのか?」
エーテル達の反応はまちまちだが、耳を塞いで恐怖に耐えるモエギを除いて、特に大きく取り乱したりすることはなかった。
今回はカザミ回です。
ちなみにエーテル達と『ゴリアテ』は軽い自己紹介を済ませています。ルゥとネロが再開し、記憶のすり合わせと決意表明をした時です。
……なんか、遠い昔のことのようですw