13、新たな『始まりの精霊種族』 2
「ラウディ!! 私を置いて行くなんてどういうことですの!?」
透き通るような女性の絶叫とともに、某有名映画のように空からゆっくりと青い美女が降りて来た。
美女は水の精霊種族らしく、器用、水の力を使ってラウディの元へゆっくりと降下していたが、五指含めた『神の手足』達はそんな彼女を狙い撃つかのように弓を構えてどんどん矢を放ち、"神の一矢"を稼働させる準備をし始めた。
ラウディはそんな『五指』や美人を気に留めることなく再び力を発動した。
「火に更なる力を与え給え! ディ・フォルナード!」
ラウディの放った散弾の如き火球は青い美女を巻き込む勢いで敵を殲滅していった。
「ちょっと! 危ないですわよ!!」
「うるさいぞ。この現状を見てみろ。なんでレイがここにいるのかは分からないが、レイよりももっとうるさい奴らを黙らせるのが先だな。狼のお前らもルルの風壁に戻っておくんだぞ。邪魔だからな」
「酷い」
「リバちゃんだって人のこと言えないでしょ?」
「……否定はしない」
「あはははっ! そういうところが本当好き! よし、元気でたからルルも頑張りますよー! 土に、大いなる力を与え給え! マリ・スティメリオ!!」
気合の入った祝詞とともにルルディは先ほど作り出した巨大な土人形をさらに上回る大きさの、土の怪物を作り上げた。
「ルルには負けない。風に大いなる力を与え給え……ブル・ヴァイメリオ!!」
彼女に引けは取るまいと、リバディも全長1kmにも渡る風の刃を撃ち放った。
「……はぁ。あんなん見ちまうと、何がシルフの生まれ変わりだって言ってんのか、惨めになるな。こんな……全然敵わねえじゃねえかよ」
「ははっ。シルフの生まれ変わり、か」
純粋におかしくて笑ったつもりだったが存外乾いた笑いになってしまったルゥは、自分が密かにラウディの放つ高位の祝詞に気落ちしていることに対して更に眉尻を下げた。
「……お前、俺がシルフの生まれ変わりって言うといっつも笑うのな」
「うん? うん。だって面白いもん。カザミが何を思ってそう言ってるのかは知らないけど、シルフは女性だよ? しかもまだ生きてる……んだよね?」
「……え、ええ」
ルゥの記憶にない記憶を頼りにシルフについてネロに確認をとると、ネロはなんで知っている……覚えているのかという困惑した表情になった。
「僕は覚えてないけど、俺は知ってる。覚えてる。だから僕も違和感を感じて笑っちゃったんだろうね」
──僕は正真正銘、サラマンダーの生まれ変わりのはずなんだ。けど、全然頭も体も追いついてない。それでもカザミが度々口にする「生まれ変わり」っていう言葉で、なんだか気分が軽くなった気がする。シルフはまだ生きてるのに「自分はそうなんだ」って思うだけで、その思い込みだけで色々やっちゃうんだもん。
だから……。
「ありがとう」
「はぁ? なんで貶した後にお礼言ってんだよ。うっわ、わけわかんねー……」
「いいじゃん。それに僕はサラマンダーの生まれ変わりなんでしょ?」
「いやいやいやいや、話繋がんねーし、俺のことシルフじゃねえって否定しておきながら自分は生まれ変わりだって軽々しく言うなよ! 確かに? お前はサラマンダーの生まれ変わりかもしれないけど、今は納得いかねえ!」
「はいはい、ディ・フォルナ。ここにいたらゆっくり話もできないし、邪魔って言われちゃったから『五指』はあの人達に任せてシュカのところへ行こう? 他のみんなのことも気になるし」
「あークソッ! 会話の途中でサラッと攻撃してんじゃねえよ! はぁー……ったく、この俺がルゥに翻弄される日が来るとは思わなかったぜ」
「早く行かないと巻き込まれるよ?」
「そうやってまた風の結界を簡単に歪めやがって……。まじお前何者だよ?」
「その話はまた後で」
「はぐらかすなよ」
「はいはい。早く通らないと閉じちゃうよ?」
「うっわ可愛くねー。ウゼー」
「ほら、ネロも早く入って?」
「……あ、え? ええ」
──僕は弱い。まだまだ、全然弱い。こんなんじゃ誰も守れない……。
ネロとカザミが防壁内に入って行く様子を見つめるルゥの心境は悔しさと怒りが渦巻いていて、カザミが言った「簡単に」とは程遠い、どちらかと言えば八つ当たりのような感じで歪めた風の防壁を一瞥して自分も防壁内に入って行ったのだった。
これで『始まりの精霊種族』4人が揃いました。
土のルルディ。
風のリバディ。
火のラウディ。
水のレイディ。
名前は似てますが性格はてんでバラバラなので、書きやすかったりします。
21.6.4 サブタイトル表記訂正