12、新たな『始まりの精霊種族』
「おい! 一体どういうことか説明しろよ! お前、ルゥじゃなくてサラマンダーだよな?」
「あ、そうだ。ネロ、シュカを診てあげてよ」
「無視すんなよ!」
「ちょっと、なに勝手なこと言ってるのよ!」
カザミとネロの興奮した声が重なった。
「ルゥ、貴方今の状況わかってる?! 『神の手足』と戦闘中で──」
「まだ湧いてくるの? 懲りない人達だなぁ」
ネロの怒りもルゥはなんでもない事のように言って両手を天へと翳し、息を大きく吸って力を発動しようと前を見据え──。
「火に大いなる力を与え給え! ディ・フォルメリオ!!」
ルゥが力を発動するより早く、力強い祝詞が響き渡り、空から大量の火球が降り注いだ。
凄まじい熱量が辺りに充満し、熱風と爆風が容赦無くルゥ達を襲う。
全員が全員、両腕を顔の前に出して衝撃を耐えていたが、その中でも『始まりの精霊種族』のルルディ、リバディは疲れた顔をしていた。
「あー……ネロ? 面倒なのが来ちゃいましたよ?」
「面倒なことになる」
「ルルディ、リバディ。あいつ、強制定期にエレメステイルに返せないかしら?」
「「無理」」
「はぁ〜…………」
"神の一矢"により戦意を取り戻していた辺り一帯の『神の手足』が、ルゥの一撃と先ほどの火の力で軒並み戦闘不能になった。しかし、後続部隊としてやって来ていた『五指』と呼ばれていた5個中隊(1個中隊内訳:騎兵10、歩兵120、弓兵30、砲兵1門)に攻撃は届かず、彼らはほとんど無傷であった。
さらりと言ったが、この舞台には砲兵がいる。
近代科学とは無縁なこの世界に、砲兵という言葉が出来た。まあ、砲兵といっても大砲や戦車の類ではない。旧石器時代の投石機である。
しかしこの投石機、飛ばすのは石に限ったことではなく鉄球や少し変わった形状で鉄製の矢までも飛ばせる優れものである。
「ネロ! なぜルルディとリバディだけ連れてエレメステイルから出て行くんだ!」
真っ赤な髪と目の美丈夫が『神の手足』の死体を踏みつけながらやって来た。
「……ほんと、なんで来たのよ」
「お前が心配だからだ!」
「何度も何度も言っているけど、私は貴方に守られるほど自分が弱いって思ってないわ。貴方に頼らずとも、自分の身は自分で守れるもの」
「精霊の中で一番攻撃力のある火の精霊王、サラマンダーの血を引くこの俺、ラウディ様が居れば百人力だぞ!?」
「あーはいはい、勝手にやってなさい」
「っルルもリバも、俺様が居た方が安心するだろ?!」
「「別に」」
「なんだと?! 安心するって言えよ!!!」
急に現れて『神の手足』を蹴散らしたラウディの存在感に呆気にとられていたルゥは、気まずそうに天に翳していた手を下ろしてどうしたものかと考えた。
自分という存在をネロに話し、これからの事について色々と相談したいこともあったのだが、どうやらそういう雰囲気でもなくなっていまっている。『神の手足』や『五指』の戦意も砕かなければならない。
「ん? おい、そこのお前!」
「僕?」
考え事をしているルゥに、ラウディから鋭い声が飛んで来た。
どうやら同じ火を司るものとして何かを感じ取ったらしい。
「お前、火の力を持つ第三種族だな? なかなか強い力を持ってるみたいだが、まだまだだな! もっと努力して、この俺様のように強くなれよ! まあ、俺様は超えられないだろうけどな! はっはっはー!!」
「えっと……」
「ルゥ……でいいのよね? あいつは気にしちゃ駄目よ。聞き流しなさい」
「うん、わかった。それよりもネロは早くシュカの手当を手伝ってあげて」
「ええ。あいつの相手は……リバディとルルディがするわ。それに、きっともうすぐもう一人面倒なのが来るから気を付けなさい」
「うん?」
ネロの言う"面倒なの"がなんなのか、なんとなく予想が付いたルゥだが何に気を付ければいいのか分からず曖昧に頷くだけにとどめた。が、その面倒が意味するところをすぐに知る事となった。
ルルディ、リバディに続いてラウディとレイディの登場です。
俺様神様ラウディ様的なノリの火の精霊種族と、強い男に惹かれる高飛車な水の精霊種族という……。キャラが固まってて描きやすくて好きな二人です。ええ、ルルディやリバディよりも。
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