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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン2
123/170

11、曖昧な状態

 それは不思議な感覚。

 自分ではない何かが自分を操っているような、それでいてきちんと自我がある。

 自分で動いているようで、誰かに動かされている。


 上手い言葉は見つからないが、奇妙奇天烈な感覚がルゥの身体を巡っていた。


 ──僕は、"ルゥ"であることに疑問を持っていた。ネロが、みんなが僕のことをルゥって呼ぶから、僕はルゥだと思ってた。けど、僕がルゥでも、ルゥじゃなくても……僕は、僕。そして…………俺は、俺なんだ。

 簡単なことじゃないか。好きなように生きて、好きなようにやれば良い。呼び名なんて、誰かが勝手に付けたんだから。


「とまあ、俺のことは置いておいて、シュカの怪我をどうにかしないとね」


 そう独り()ちたルゥは、ゆったりとした動作で立ち上がり、ネロのいる方へと歩いて行った。


「……ルゥ? どこ、行くの?」

「え? ルゥくん?」


 先ほどの衝撃で恐怖はどこかへ飛んで行ってしまったのだろう。ミーシャもモエギも普段の調子に戻っており、ルゥが立ち上がってネロの方へ歩いて行くのを見て首を傾げて声をかけた。


「ちょっとね。まあ、大丈夫だから」

「大丈夫って何がだよ。だって、今……」


 呆然としているマイムを支えているエーテルにそう声をかけられたルゥは、ルゥっぽくない大人びた表情で軽く手を振って歩みを進めた。


 やがてリバディが張った風の防壁の端まで辿り着くと、ルゥは右手を防壁に当てた。

 以前、多種族町(ネオリブタウン)カジュカでカザミの作った防壁とは密度も強度もまるで違うものなのだが、ルゥはいとも容易く自分一人が通れるほどの穴を開けた。


「──っ?!」

「リバちゃん? どしたの?」


 今まで『神の手足』を風の刃で切り刻んでいたリバディが急に止まった。

 シュカを穿った"神の一矢"とも、カザミが穴を開けた時とも違う。しっかりと自らが張った防壁が歪められたのを感じ取って恐る恐ると防壁の方を振り返った。


「……何者?」

「え? ええ!? なんで、なんで出てきてるんですかー!?」

「何よ……って、ルゥ。貴方──」

「やあ、姉さん」


 エーテル達と別れた時は間違いなくルゥだった。

 しかし、今の彼はネロのことを「姉さん」と呼び、普段は鳶色をしている瞳はより赤みを増している。つまりルゥであり、サラマンダーでもある曖昧な状態。

 だからこそネロは風の防壁を出てきた鳶色の瞳をした彼のことを「ルゥ」と呼んだ。にも関わらず彼がネロのことを「姉さん」と呼んだことで驚愕に目を見開き、口を両手で抑えて地面に座り込んでしまった。


「ネロ? どうしたの?」

「ちょちょちょちょーっと待ってください?! なんですか、この狼は!!」

「おい、チンチクリン! こいつってルゥじゃなくてサラマンダーだよな?!」


 姉さん呼びからネロと呼び名を戻して、座り込んでしまった彼女を心配したルゥと、リバディの風の防壁を何事もないかのように通り抜けてきたルゥに驚愕するルルディ。そして自分が開けるのに苦労した防壁を簡単に開けて見せたルゥの状態がサラマンダーであると見抜き、自らもほぼ無理やり防壁をこじ開けて外へと出てきたカザミ。

 彼女達の顔を順番に見ていったネロは遅れてこちらに近づいて来たリバディを見て、もう一度ルゥに顔を向けて停止した。


「大丈夫?」


 ルゥはしゃがみ込んでいるネロに視線を合わせるように地面へ腰を落とし、小首を傾げて無邪気に尋ねた。


「──ッ大丈夫じゃないわよ!!」


 口に当てていた手を外して胸ぐらに掴みかかって来たネロを、ルゥは苦もなく受けとめた。むしろ彼としては大方予想していた通りの反応で、気恥ずかしそうに笑ったのだった。


「私が……っ私がどれだけ心配したと思ってるのよ!! ルゥからフーに変わってるけど、頭痛とか、記憶の混乱とか……もう、聞きたいことがありすぎてっ…………!」

「うーん、僕は大丈夫だよ。……俺、としても問題ないかな? この意味、ネロならわかるよね?」

「分かりたくないわよ!」

「あははは! おっと、『神の手足』が邪魔だなあ……。えっと、ディ・フォルナ?」


 疑問形の祝詞(いのり)だが、ルゥの手からはきちんと火の球が生み出され、こちらに向かって来た『神の手足』の軍団の一人に着弾し……爆発した。


「は? 威力やばくね?」

「え? あれ、え? あの狼が唱えた祝詞って、フォルナですよね?」

「なんで精霊種族しか使えない祝詞を第三種族(サード)が使ってる?」


 カザミ、ルルディ、リバディの順の独り言である。


「……リバディ、祝詞が精霊種族しか使えないっていうのは誤った知識よ。あれは精霊種族の負担を減らすためのものであって、動物種族や第三種族(サード)が唱えたとしても問題ないのよ。ただ、負担軽減の効果はない……と思うけれど」


 ルゥが祝詞を唱えて精霊種族の能力を使っても、至って冷静なネロの説明が入った。


 サラマンダーに近い今の状態のルゥが祝詞を唱えてもなんら不思議はない。

 ネロはそう考えているのだろう。というよりも、今更ルゥが何をしようともほとんど驚かないほど、彼の予想外の行動には慣れて来たというのが実情かもしれないが……。

 そしてそれはネロ本人の口から語られることになった。


「ネロ、なんだかあんまり驚かないね?」

「驚くのにも疲れたのよ」

「そっか。でも、僕にも……ううん。俺にも良くわかんないんだ。なんで、俺が混ざった状態で安定してるのかが、さ。昔はもっと不安定だった気がするんだけど、ルゥが成長したのかな?俺の適当な自己判断だけどね」


 ルゥとしては大人っぽく、サラマンダーとしては子供っぽい。

 本当に第三の種族のようだと無意識に笑ったルゥを見て、ネロは嬉しそうに、しかしどこか複雑そうに笑みを返したのだった。

 サブタイトルの通り、曖昧な状態で安定している現在のルゥ。

 カザミ達『ゴリアテ』のトワイノース大陸にある拠点でなったどっちつかず状態。今回はそれよりもルゥに近い感じですが……今後もちょくちょく出てくる予定です。

 ルゥが前回自分の存在を肯定した結果です。

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