9、『始まりの精霊種族』と精霊郷
彼我の戦力差をものともしない『始まりの精霊種族』二人の力を目の前にして、もう一人の精霊種族は呆れるような声音でつぶやいた。
「遠い記憶でしかないけれどルルディも相変わらずで、私は貴女達を敵に回さなくて良かったと心底思うわ」
そんな声に対して異を唱えたのはもちろん二人の精霊種族。
「何言ってるんですかー? この三人の中で一番怖いって言ったら……ねえ?」
「間違いなくネロ」
「はぁ? 私のどこが怖いのよ」
「「簡単に高位の祝詞を連発するところ」」
「してないわよ!」
息の合った口撃にネロは全力で否定しているが、ネロが以前水の精霊郷ディオネに転移するために使用した「シィ・キュルメリオ」という祝詞は誰もが易々と使えるものではなく、下手をすれば存在そのものが失われてしまう可能性のある危険なもの──所謂一か八かの賭けなのである。
もちろん力が強い者ほど成功する確率は上がるのだが、精霊種族の中でも成功例は少なく、そもそも精霊種族が主に使うのはキュルムスやヴァイタルなどの低位の祝詞であり、キュルムシドやヴァイティドなどの中位の祝詞でさえ使用する者は数える程しかいないのだ。
「あと、ルル達に会いに来た時だって地下水路使って来てましたよねー? 普通にありえないんですけどー」
「シルフ様の祠と同じ……ううん、それ以上に面倒な水路」
そしてこの追い討ちである。
シルフの祠の地下水路の出口。その先がルルディやリバディの居た複合精霊郷エレメステイルである。
エレメステイルはこの世界を作った神と四大精霊のサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームが天界とこの世界を行き来していた場所とされている。
所在は不確定、と言うより定位置にあるわけではなく時々場所を移動する。つまり、シルフの地下水路を決死の覚悟で進んだとしても必ずエレメステイルに辿り着くとは限らないのである。もしも辿り着く可能性があるのなら、それは先祖返りと呼ばれるほど力の強い者か、エレメステイルの中から"呼ばれた"者である。
ネロが使った地下水路もエレメステイルへの行き方としては規格外であり、どこにあるかもわからない場所にたかだか地下水路を使って辿り着いたのである。
本来……と言って良いのか曖昧なところだが、本来の正規の行き方はそれこそ「シィ・キュルメリオ」の上を行く本当の"原点回帰"を使わなければ不可能であるとされている。
かく言うルルディとリバディはエレメステイル出身であり、辿り着くも何もその場所で生まれたとても珍しい精霊種族の二人である。
実際にはもう二人、水を司るレイディと火を司るラウディがいるのだが、その二人は面倒な性格をしているために置いて来たと言う裏事情があったりする……。
「はいはい、その話はもう良いでしょう? さっさと面倒なやつらを黙らせるわよ」
そう言ってネロは高位の祝詞を唱えた。
今回はルルディとリバディの住んでいる精霊郷についての説明回です。
始まりの精霊種族以外の精霊種族も住んでいますが、普通の精霊郷に住んでいる精霊種族達よりも力は強いです。