7、参戦
「ケイナン……。そう、僕が……いや、俺? が……? 違う。神……そう、神が、猿は知恵が働くから、火の扱いについて他よりも優遇させようって言った場所だ」
虚ろな瞳で独り言を呟くルゥは、その後もケイナンについての情報をポツポツと語り、中には幼い頃からそこに住んでいたエーテルでさえ知らない歴史も飛び出した。
「ルゥ、アンタ……」
「エ、エーテルさぁん? ルゥ君が、変なこと言ってるですよー?」
「ああ。ケイナンが、元々はサラマンダーを祀っていたとか、近くに住んでた物知りジジイでさえも知らないことだと思う」
戦闘音を遠くに聞きながらエーテルとモエギは終始困惑し、それを見ていたミーシャはそっとルゥの手を包むように握ったのだった。
「……なんでいっつもそいつばっかり」
一応はエーテルと和解をしたマイムも、ルゥにばっかり構う周囲にまたしても険悪な雰囲気を飛ばすのだが、それさえも「ルゥを気にしている」という癪なことになっていることに気付きすぐにそっぽを向いて物理的に意識を外したのだった。
今度はそっぽを向いたマイムにルゥが意識を向けたことで結局は意味のない行動になるのだが……。
「……お前、土の力持ってる?」
「はぁ? なんだよ。知ってるだろ?」
ルゥの問いかけに律儀に答えるあたりマイムの性格……基、幼子特有の純粋さが窺えるが、今のルゥにとってはそれすら些事。
「土か……。エルデの力は苦手なんだよね。なんか、真面目すぎて自分の意思がないっていうのか……。まあ、その点キミは自分の意思に忠実みたいだけど」
「さっきからなんなんだよ! ちょっとエーテルおばちゃん、こいつなに?」
「アタシがわかるわけないだろ……」
「モエギにも、さっぱりです……」
「記憶の、混乱……?」
困惑する周囲を置き去りにしてルゥはすくっと立ち上がり、『神の手足』と戦っている一団を観察した。
アーサーを除いたカザミ達『ゴリアテ』は未だリバディの作った風の防壁の外へ力を発現させることが出来ず、攻撃手段もなく苦虫を噛んだような顔で試行錯誤している。
ネロ、ルルディ、リバディの精霊種族三人娘は特になにも問題なく突撃してくる『神の手足』を事務的に屠っていた。
「ディ・キュルムス!」
「ブル・ヴァイタル」
「ディ・スティエル!」
「……流石に数が多いわね。一体何人送り込んできたのかしら?」
「水と風と土。一番攻撃力のある火が居ないから」
「大丈夫、大丈夫! その分ルルが頑張っちゃいますから! 土に更なる力を……マリ・スティレイド!!」
そう叫ぶルルディは首飾りにして居た菜種色の晶霊石を片手で握りしめながら、地面に手を付いて祝詞を唱えた。すると、以前マイムが作った土の恐竜よりも大きな……丸みの強い可愛らしい土人形が出来上がった。
とても強そうには見えないが、可愛らしい見た目とは裏腹に質量にモノを言わせた剛力で次々と『神の手足』を圧殺していった。
「…………これが、精霊種族の力か」
「おいクソ団長! 呑気に関心してんじゃねえよ!」
「しかし団長、これは俺たちにできることは少ないんじゃないのか?」
「うるせえクソアーサー! てめえは攻撃できるから良いよな! あたしだって必死こいてんだよクソがっ!」
「そうだな。ただ見てるだけってのも性に合わないしな。足掻いて足掻いて戦って、んで、守る。第三種族も合成種族も。そして神様をぶっ飛ばす!!」
「流石団長はん。惚れてまうわぁ」
精霊種族の力を目の当たりにしてカザミ達は自分の能力差を痛感していた。
それでも彼らは立ち止まらない。立ち止まってはいけないのである。
「ちょっと貴方達、なにちんたらしているのよ。さっさと働きなさいよ!」
「煩いなチンチクリン。ならこの風の壁どかしてくれねえか?」
「またチンチクリンって……。まあ良いわ。風の壁なんだから、あんたでもどうにかできるでしょう? 隙間くらい開けて見せなさいよ!」
ネロの活にカザミは舌打ちをし、シュカは苦い笑みを浮かべた。
「本能的に出来ひんと理解できてまう。うちにはこの壁は破られへん。けど、団長はんなら……」
「こんなとこで弱音なんて吐いてんじゃねえよ! いっつもシルフの生まれ変わりがどうとか言ってんのはなんなんだ? あぁ? くそダセェぞ!!」
「言ったな? 別に俺は風の壁を破るくらいどうってことないんだよ。こんなくだらないことで力を使うのが面倒なだけだっての」
「ぷぷぷっ……! リバちゃん、あいつら超ダサなんですけどー!」
「第三種族ごときが私達に敵うはずない。当たり前のこと。……ブフッ」
言い訳がましい台詞を聞いた精霊種族二人からバカにされたカザミは、耳をピクリと動かし額に青筋を浮かべ、口をヒクつかせながら懐から晶霊石を取り出した。
「言ったな? お前ら言ったな? ……だったら見せてやろうじゃねえか! シルフの生まれ変わりと名高い、この俺の力をな!!」
そう息巻いたカザミは手にしていた晶霊石に力を込め、周囲を鮮やかな緑の光に染め上げた。
銀色のフサフサした尻尾を大きくゆっくり揺らすと「フォンフォン」という風鳴りが聞こえてきて、やがてカザミの髪や衣服が大きく靡く頃にゆっくりと手を前に翳した。
「風穴を、開けてやれ!」
カザミがそう命令すると、彼の周囲を取り巻いていた風は意思を持ったように収束し、光線のような速さで風の壁を貫いた。
「やりゃあできんじゃねえかよ……クソ団長がっ」
カガリが苛立たしげに呟くと小さな穴は徐々に大きさを広げ、最終的にはマイムがやっと通れそうなくらいの風穴を開けたのだった。
難しいです、戦闘シーン……。
ここからごちゃごちゃしていきます。いや、既にトキモトの中はごちゃごちゃなんですが……w