6、説得
暗い雰囲気に包まれるエーテルとマイムだったが、今は『神の手足』の襲撃中である。こうして話している間にも矢の雨は止むことなく降り注ぎ続け、『神の手足』は続々と姿を現して雄叫びを上げながらこちらに向かってきている。
先ほどの勢いは何処へやら、すっかり戦う意欲を砕かれてしまったマイムを見てカガリが舌打ちをして「やっぱりな」と呟いた。
「おいクソ団長! てめえの言うノームの生まれ変わりは戦力外だ! あたし達みたいに絶望を知らねえし、優しい大人が近くにいやがるからな!」
「……ちぇっ。せっかく良い戦力が増えたと思ったのに……。で、一番期待が高いルゥは?」
「ルゥはんなら頭を抱えて蹲っとるよ。小熊のお嬢はんと栗鼠のお嬢はんが付いてるけど、なんや状況は悪いみたいやね」
「まさか……?」
シュカの報告に、アーサーはルルディが張った結界の外に落とし穴を開けていた手を止めてカザミやカガリと顔を見合わせた。
「ちょっと! なにボサッとしているのよ。貴方達も手伝いなさい。水に更なる力を与え給え、ディ・キュルムシド!」
ネロが風の防壁の外側に無数の水弾を作って敵を打ち抜きながら叫んだ。
どうやら彼女は『神の手足』の対応に追われていてルゥの状態に気付いていないようだった。
「どうするよ?」
「どうするったって……あたし達じゃどうしようもねえだろうが!」
「何もないことを祈って俺達、正確には俺は戦闘に参加するしかないだろう」
アーサーの言う通り、ルルディの風の防壁の外に風球や火球を生成することができていないカザミとカガリだったが『神の手足』の攻勢はますます激しくなり、なんとかネロ達精霊種族の力で保たれている安全あっという間に数の暴力によって破られかねない。ルルディの張った風の防壁がそんな簡単に壊れるはずもないだろうと頭では分かっていても、結局は今日のついさっき会ったばかりの関係である。信頼しすぎるのは悪手。ゆえに何とか参戦したいのだが……現状はただの足手まといである。
マイムに戦力外通告をしておきながら、その実自分達も戦力外であるという事実を認めたくなく、それぞれが気合を入れ直すように声を上げたり体をほぐしたりして己を奮い立たせた『ゴリアテ』だった。
一方、カガリの怒鳴り声を挟みながらもマイムの説得を続けていたエーテルは激しくなる『神の手足』の放った矢が風の防壁に阻まれて地面に落下する音を耳にして恐怖に冷や汗をかきながらも、自分の思いを真摯に伝え続けた。
「あのさ、アタシはさ、マイムの力が怖いよ。ルゥやネロと一緒に旅もしたけど、やっぱり心のどこかじゃ精霊種族や第三種族の力を怖がってたんだ。それは、マイムは覚えてないかもしれないけど、生まれたばかりの頃に力が暴走したことがあってさ、その一件がどうしても頭から離れないんだろうね……」
「……しってる。父さんからきいた」
「知ってても、覚えてないだろ? 酷いことを言うけど、マイムが力を使ったことでアタシ
達は散々な目に遭った」
「エーテルさん、それは──」
「事実なんだから、はっきり言わないとマイムも納得しないだろ?」
襲撃に肩を震わせながら話を聞くだけだったモエギがつい口を挟んでしまうほどの冷酷な言い方だったが、確かに第三種族や精霊種族の力は使い方を戦闘や殺戮に用途を限ればとても恐ろしいものである。たとえ事故であっても、それは紛れもない事実。それを知っているミーシャもモエギと一緒に悲痛な顔をしていた。
親しい者、愛しい者を殺され、住む場所を追われ、関係ない者までが迫害を受ける。
「力を使わなくても、力が使えなくても生きていくには不自由しないんだよ。確かに晶霊石のおかげでアタシ達の暮らしは楽になってる。それでも、それは精霊種族が居るからであって第三種族が恩恵を与えてるわけじゃない。アタシはただ、エリクとクレアに笑って暮らして欲しいだけなんだよ。だから、エリクを探して、一緒にケイナンに帰ろう?」
「エーテルおばちゃん……」
エーテルとマイムの会話が落ち着いた時、ルゥも落ち着きを取り戻して頭を抑えていた手を下げ、顔を上げた。
「ケイ、ナン……」
「ルゥ、大丈夫……?
「あっ! エーテルさん! ルゥ君が復活したです! まだ顔色は悪いですが……」
ルゥの復帰にミーシャが声を掛け、それによってモエギも一時恐怖を忘れて普通の精神状態に戻ったようであった。
マイムの説得にとりあえずは成功したエーテルさん。
最近出番のない主人公のルゥですが、ようやく次回から主人公のターンが戻ってきそうです。