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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン2
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5、本当の戦い

 『始まりの精霊種族』であるリバディの咄嗟の祝詞(いのり)によって、この場にいる全員を守るように半球状の風の防壁が出来上がった。

 何事かと皆が驚いている中、『ゴリアテ』とネロ、そして同じく『始まりの精霊種族』であるルルディの反応と対応は早かった。

 即座に周囲を経過し、風の防壁のさらに中心部へと固まるように指示を出し、各々が晶霊石(しょうれいせき)を構えていつでも襲撃に対応できる体制を整えたのだった。そして各自が戦闘準備を完了させ、非戦闘員であるエーテルやモエギ、ミーシャを守るように陣形を整えたところで上空から無数の矢が飛来し、風の防壁にぶつかって弾き飛ばされる光景を目にすることとなった。


「これは……随分と数が多いことで……」

「あたしらが相手したときよりクソ多いじゃねえかよ」

「呪われてるんじゃないのか? 団長が」

「俺かよっ!?」

「アーサーはん、団長はんを(おとし)めるような笑えへん冗談はやめてくれへん?」


 『ゴリアテ』の面々が余裕そうに話しているが、実際は辛い戦いになるだろうと全員が覚悟した面持ちをしていた。

 トワイノース大陸で戦った時とは向こうの戦力がまるで違うのだ。ネロ、ルルディ、リバディの精霊種族が三人、シュカとマイムの第三種族(サード)が二人増えたところで飛来し続けている矢の多さを鑑みても甘い考えは捨てた方が良い。そう判断せざるを得なかった。


 彼らの覚悟を感じ取ったルゥは、続いてネロ達精霊種族の様子を伺った。


「さっすがリバちゃん! いい反応ですねー!」

「風が教えてくれた」

「本当に風の力は便利よね」

「ネロもやろうと思えばできるはず」

「やろうと思えばね。疲れるからやりたくないのよ。特に、この後を考えるとね」

「ふっふん。ルルが頑張るのでネロは休んでて良いですよー?」

「論外よ」


 精霊種族の三人は本当に余裕そうである。

 その余裕を持っている、ということがルゥにはとても恐ろしく感じた。

 何故なら彼女達は余裕がある限り惜しみなく力を使うからである。特に今はエーテルや『ゴリアテ』という、栄養摂取に事欠かない状況にある。


 ──いっぱい、血が流れる……。大地が、森が、大気が燃える。水が、海が枯れる。星が……燃える…………。


「っぅ……うぅ……」

「ルゥ? 大丈夫……?」


 頭を抱えて座り込んだルゥの姿にミーシャが気付き、寄り添うように屈んだ。


「……だい、じょうぶ……かな? わからない。ミーシャ、僕は怖いんだ」


 唐突に語り出したルゥは、自分でも驚くくらいに震えていた。


 なんの力も持たない普通の動物種族の女の子に(すが)って、ただただ震えることしかできない自分のなんて情けない事か……。


 ルゥは客観的にそう判断しているが、先ほどから身体を震わせる高揚感に、自分が自分じゃなくなる感覚に、戦いという愚かな行いを心の何処かで楽しみにしている自分に恐怖しているのだ。

 トワイノース大陸で感じた以上の精神が塗り替えられていく感覚と激痛に目もみみも塞いだルゥは、聞こえてくる戦闘音を聞かないように努力するのだが、狼の動物種族という発達した聴覚と嗅覚で以って、ほぼ正確な戦況を把握してしまうのだった。


「ちょっとルゥ、アンタ大丈夫か?」


 戦闘の恐怖により一拍遅れでエーテルもルゥの異変に気付いてミーシャの反対側へと腰を落とした。その際、恐怖で左腕にしがみ付いていたモエギを労わることも忘れないあたり肝が座っている。


 そんなルゥを慰めるミーシャやエーテルを見て面白くないのはマイムである。

 一方的に好意を寄せているミーシャはまだしも、甥である自分を差し置いてルゥを優先したエーテルに怒りを覚えた。


「ちょっと! エーテルおば──」

「マイム! なにボサッとしてやがる! てめえも『ゴリアテ』ならさっさと手伝いやがれ!!」


 文句を言おうと思ったマイムだったが、腕に付いている晶霊石に力を込めているカガリから逆に文句を言われてしまい、不貞腐れて八つ当たり気味に立ち上がり、もう知らないとばかりにカガリの元へ行こうとしたマイムをエーテルが引き止めた。


「ちょっと待ちな。やっぱりマイムも戦うつもりなのか?」


 ルゥとネロが互いの情報をすり合わせている間、彼らも今までにあった出来事や何故ここにいるのかなどの情報交換をしていて、マイムが『ゴリアテ』として活動すると決意したことも聞いていた。しかし、それはあくまでも"保護"や"補助"が目的であって"戦闘"には参加させないと思っていた。もちろん『ゴリアテ』の加入自体も反対したのだが、戦闘にまで参加させるとなればなんとしてでも引き止めなければと腕に力を込めたエーテルだった。


 そんな、今更心配するなとでも言いたげな表情のマイムは、反抗心からか「むしろやってやる!」という気合いを漂わせていた。


「あ、あたりまえだ! おれは『ゴリアテ』なんだ! この力で、エーテルおば……エーテルもミーシャも守るんだ!」

「馬鹿か! アンタ、戦うって意味が本当に分かって言ってんのか?! カザミ達を見て、この状況を見て、まだ分かんないのか?!」

「わかってる!」

「いいや分かってないね。遊びじゃないんだよ! 怪我じゃ済まされない……殺されるんだよ!?」

「……それ、は…………」

「姉さんは……クレアは、アンタの力を恐れてる。エリクはそんなマイムの力をこれ以上使わせないようにって、いつか三人で普通に暮らせるようにって家を出てったんだよ。マイムだって、クレアに会いたいだろ?」


 泣きそうな声と顔のエーテルに、マイムは押し黙ってしまった。

 心配するエーテルさんと反抗期のマイム。

 この二人は叔母と甥というより年の離れた姉と弟みたいな感じです。

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