4、厳しい戦いの始まり
眠気によってふわふわした思考のルゥだが、周囲はそんな彼を置いて話をどんどん進めていく。
「はぁ……。じゃあ、ディエチに行くのはルゥとミーシャとマイム、それから美人の姉ちゃん──」
「アタシはエーテルだよ。よろしく、団長さん」
「おお。そのエーテルとちんちくりんの5人。残りはここから一番近い雑多群ロッカルまで移動するか、ここで待機するかだが……。なんにしても長距離の連絡手段として風の晶霊石を渡して置くから……エーテル、風の晶霊石は使えるよな?」
「まあ、風の晶霊石は使えるけど、連絡手段として使ったことはないから上手く出来るかはわかんない……」
「念じるだけだから大丈夫だろ! なんかあったらすぐに言ってくれれば助けに向かうからな」
「あんたに助けてもらわなくても私がなんとかするわよ。ルゥも……いるし、ねえ?」
カザミの提案にネロが余計なことをするなと言いたげに、遠慮しながらルゥに同意を求めた。
ルゥは何故ネロが遠慮がちだったのかは分からなかったが、問いかけられたのだから返事をしなければと当たり障りのないことを述べた。
「ん? 大丈夫だよ?」
「お、おれだっているんだ!」
そこですかさず対抗意識を燃やしたマイムが意気軒高に叫んだことでルゥの曖昧な返事は見事に流され、内心ホッと息を吐いたのだった。
「はいはい。じゃあ、エーテルの甥はエーテルに任せて、問題はルルディとリバディだけれど……」
「ルルは興味ないんで、待ってまーす」
「私もいい」
「……珍しいわね。てっきり付いてくるとか騒ぎ出すかと思ったけれど」
「なんか嫌な感じがするから行きたくありませーん」
「風が騒いでる。落ち着かない」
言い得ぬ恐怖に寒気がするのだろう、リバディが背中を軽く丸めて腕をさすっていた。
「団長、なんか感じるか?」
「いや? 俺は特に何も感じないけどな。シュカはどうだ?」
「うちもなんも感じへんよ?」
「ルルディもリバディも嫌な感じがするってことは、相当ね」
「精霊種族の勘に同意するのは癪ですが、モエギもちょっと嫌な感じがするです」
『始まりの精霊種族』二人のただ事ではない雰囲気に、意外にもモエギが同調した。
それを不思議に思ったのはエーテルだけではないが、こういうところで素直に口にして聞くことができるのはやはりエーテル(もしくはルゥ)である。
「モエギも? 一人旅が長かったからか?」
「草食動物だからじゃないかしら?」
「なるほど……」
「ネロちゃんは何も感じないです?」
「……はぁ。嫌な感じはするけれど、それで歩みを止めようとする──」
ネロが強い意志を持って「進む」と宣言しようとした時、ルゥは自分の中の何かがピクリと反応して無意識に耳を立てた。
特に周囲に変わった様子はない。ネロやモエギ、ルルディとリバディが感じているような嫌な感じはルゥには分からない。しかし、確かに自分の中の何かが『危ない』と危険信号を出しているのだ。
そして、そのルゥの危険信号はリバディがハッと顔をあげて外套の下に下げていた首飾りに仕立てた濃緑の晶霊石を片手で握りしめ、もう片方の手を上に向けて祝詞を叫んだことで危険なモノの正体を知ることになった。
「風に大いなる力を与え給え! ウル・ヴァイメリオ!」
少し短いですが、ここから先が長いのでひとまずキリの良いところで止めました。
この回は登場人物もれなく出せて良かったです。