3、浮遊する思考
カガリとルルディのにらみ合いについて互いはもう何もいう事をせず、気がすむまでやらせておこうという見解で一致した。
「さて、ルゥとマイムも戻ってきたし、これからどうするよ?」
「予定通り多種族町ディエチに行ってマイムの父親を探す方が良いだろう」
「アタシも付いてくよ。マイムの父親……エリクには言いたいことも聞きたいこともいっぱいあるんだ」
「なら、ディエチに行くのは四人てことやな」
「四人? ルゥとそこの熊と子猿とエーテルってことかしら? 私も人数に含めて欲しいものね」
シュカの結論にネロが異議ありと声を上げた。
ルゥとしては疑問に思うことはなかったが、どうやら『ゴリアテ』側からすればネロが一緒に行くということは考えていなかった……もしくは考えていたとしても一緒に行く必要はないだろうと思っていたらしい。全員が微妙は表情で否定した。
「いつも二人一緒だから俺も見慣れてるっちゃ見慣れてて、むしろ一緒に居ない方が違和感あるけど、そろそろルゥにも独り立ちを覚えさせろよ。過保護」
「確かに。あまり構ってやってはルゥの成長の妨げになるぞ?」
「はっ、今更すぎて笑えねぇな。いっつもいっつもルゥにべったりしやがって、気色悪ぃんだよ」
「うちは団長はんらと違ってあんましルゥはんのことは知らんけど、束縛するのは感心せんで?」
まさか付き合いの短いシュカまでがネロを否定するとは思わず、ルゥは一緒にいることがそんなにおかしいことなのかと考え込んでしまった。
──僕とネロは一緒にいるのが当たり前だったけど、カザミ達はそれは変だって言う。……僕は、ネロが一緒にいるっていうことに甘えてたのかな? 成長のさまたげ……? 僕のためにならないってこと? でも、一緒に頑張るってことは、一緒に居て、それで、僕はネロに甘えるんじゃなくて、きちんとネロに甘えてもらえるようにってこと……だよね? だから……。
「僕は、ネロも一緒に来て欲しいな」
「ルゥ、お前なあ──」
「ごめん、カザミ。でも、これは僕とネロの問題なんだ。僕の記憶に関係することだから……さ」
「記憶って……ルゥはん、もしかして記憶喪失なん?」
「うん」
シュカの驚いたヒョ状ににっこり笑って答えたルゥは、そのまま言葉を続けた。
「だから、ネロは僕の記憶を取り戻すために頑張ってくれてるんだけど、ネロは僕が記憶を取り戻して辛い思いをするのが嫌なんだよね?」
「なっ……!? べ、別にそんなこと言ってないわよ!?」
「あとは僕が頑張りすぎるって──」
「わーーー! あーーー!!なに!? なんなの!? 私に来て欲しいって言っておきながら本当はきて欲しくないわけ!? 精神的に傷を負ったわよ!?」
顔を真っ赤にして息継ぎもなしに文句を言い切ったネロに、ルゥは「あははは」と軽く笑った。
「何笑ってるのよ!」
「ごめんね」
「うわー。あの狼くんネロを手玉に取ってますよ?」
「……強い」
「ルルディ! リバディ!」
「まあまあ。あんまり怒ると可愛い顔が台無しだよ?」
「っ元はと言えばルゥの所為でしょう!?」
楽しそうに喧嘩をするルゥとネロの様子は、エーテルとモエギからすればきちんと仲直りしたかのように見えるだろう。しかし、そもそもネロと初対面であるミーシャにとってはルゥとネロが喧嘩しているというよりはルゥがどこか無理をして騒ぐことで何かをごまかしているように見えたようだった。
おずおずといった感じでルゥにそっと近付き、ルゥにだけ聞こえるように囁いてきた。
「ルゥ、大丈夫……?」
「ん? 何が?」
ルゥは何事もないように笑顔で答えるが、それを見ていたネロは、先ほどの一連のやりとりで蟠りが解消されて多少の気恥ずかしさと怒りを燻らせながらも"姉"の表情で心配げに様子を観察しているのだった。
「なんだか、元気がない……気がして……」
「えー? 僕は元気だよ? うん、元気元気!」
笑顔を言葉に圧を込めて、それ以上の追求をさせないようにルゥは手を打った。そうすればミーシャは黙って頷いて、理解して、飲み込んでくれるということを知っていたからだ。
案の定ミーシャは黙って頷いて言葉を重ねることはしなかった。
──僕、こんな力技で解決する方じゃなかったし、ミーシャのこともそこまで知ってると思ってなかったんだけど……。うーん、よく分からないし、眠くて考えることが面倒になってきちゃった。
睡魔に襲われながらも気丈に振る舞うルゥは、考えることを放棄して笑顔と元気を作ることに専念するのだった。
投げやりなルゥ。少し大人びた考えをするルゥ。
昔と比べると結構性格が変わってきました。しかし根本は変わりません。
優しくてあざとい主人公です。
20.10.1 誤字修正