2、交われない距離感
先ほどよりも柔らかい雰囲気に戻れたルゥとネロは、未だぎこちない部分を残しながらも互いに顔を見合わせて笑えるくらいの関係を修復することができたことを喜び、元の場所へと戻ることにしたのだった。
──僕がカザミと一緒に行動する前に戻るには、まだ少し時間がかかるけど……。今までの時間も、これからの時間も、僕は大切な人と一緒なら、それで十分だよ。
そうしてエーテル、モエギ、ミーシャ、マイム、『ゴリアテ』のカザミ、カガリ、アーサー、シュカ、『始まりの精霊種族』のルルディとリバディが待つ場所まで戻ってきた二人だが、何やら言い争いをしているようだった。
第三者であるエーテルとモエギが必死に彼らの仲裁をしようと奮闘しているようだが、いかんせん相手は第三種族と精霊種族。万が一にでも力を使われたら堪ったものではないと仲裁する距離は微妙に離れていた。
「……どうしたの?」
「あっ! やっと戻ってきた……!」
「どうもこうもないです! 『ゴリアテ』と精霊種族がまた喧嘩を始めたです!」
元の場所に戻るなりエーテルとモエギが駆け寄ってきた。
今のルゥにとっては見知らぬ二人だが、二人からすればどんな時でも頼れる相手だ。
いつもならフードに隠れて伺うことのできないネロの不機嫌な表情がよく分かる。元々感情の起伏が平坦ではあるが、明らかに機嫌が悪いことがわかってもルゥの優れた本能が彼女達は敵ではないと判断し、話を聞く体勢をとった。
「またなの? 懲りないわね、本当」
「ねえ、ネロ。あの人たち仲悪いの?」
「見れば分かる通りね。盗賊団『ゴリアテ』は精霊種族の大切な晶霊石を片っ端から盗んで不当に使っているのよ? 仲が良いわけないじゃない」
いつも以上に刺々しい言い方は、やはりネロの機嫌が悪いことを決定付けていたが、ルゥは少しだけ耳を動かしただけで表情にも態度にも感情を出すことはなく、いたって平坦な相槌を打つに留めた。
「ネロちゃん、止めなくて良いです?」
「もう勝手にやらせておきましょう。私のやることは変わらないわ」
「僕たちの、だよ」
「……そう、ね」
──一緒に頑張る。頑張らせて。僕の記憶という重荷をネロの重荷にしたくないから……。
「二人とも、まだ喧嘩してるのか? 良い加減仲直りしなって」
「そうです! 会話がぎこちないですよ? 仲良きことは美しきかな、です」
ルゥとネロのやり取りに、やはりエーテルとモエギは違和感を感じたのだろう。自分たちの事をルゥが忘れているという現状に二の足を踏みつつも互いの仲を取り持とうと必死になって話しかけるのだが、ネロは冷静に「喧嘩じゃない」と二人の言葉を聞き流し、ルゥはルゥで不思議そうな顔で会話を聞いているだけだった。
──美人なお姉さんが言っていた"まだ"喧嘩してるって、僕とネロは喧嘩したから別行動してたのかな? それに、可愛い女の子の仲良しがどうとかって言葉、前にも聞いた気がする。
「モエギの言う通りだよ。ルゥとネロがそんな──」
「だから、あたし達は神に喧嘩売ってんだよ! 良い加減理解しやがれクソガキ!!」
「ガキって言う方がよっぽどガキですよー? 大体、神様に喧嘩売るとかってバカなんですかー? 敵うわけないのに、本当に頭の悪い男女ですねー?」
「あんだとこのまな板女!!!」
「あんただってまな板じゃないですか!」
エーエルの切実な言葉はカガリと風の精霊種族であるルルディの発熱した口論によってかき消された。
「カガリはん。もうそれくらいに──」
「シュカは黙ってろ!! こいつらはあたしら『ゴリアテ』をバカにしてんだぞ!? 腹立たねえのかよ!」
「そら立ちますけど、さっきも言った通りここでの争いは不毛やって。大人になり」
「こいつらを庇うってのかよ、クソっ!!」
「ルルももうやめて」
「リバちゃん! だって先に喧嘩売ってきたのはあっち──」
「ルルディ。二回は言わない」
「……わかったよー」
どうやら一応の収束は見せたようだが、互いに睨み合っては舌打ちなり殺気のこもった視線を飛ばしたりと一触即発の空気を作っていた。
ネロが『ゴリアテ』と合流した当初、シュカと二人掛かりでやっと落ち着かせたのに「またしてもこうなるのか」とため息を吐くのだが、ルゥはそれを知らないがために首を傾げるばかりで、話に入っていけないミーシャとふと目が合い、困ったように笑ったのだった。
登場人物が多いと空気になってしまう人がいますよね? アーサーとミーシャがそうです。マイムは辛うじて隅っこに存在するのですが、喋る機会というか話に割り込む機会がないので、可哀想ですが空気になってもらいました。
しっかり登場させてあげたい……。