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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群サリューン2
113/170

1、寄り添う

 ルゥとネロが再会し、ルゥの『人殺し』発言や互いの決意・思想をそれとなく告げた二人は、悪くなってしまった空気をもとに戻すために今まで何をしていたのかを軽く話し合った。

 先ほどの重く暗い空気を払拭するため二人はワザとらしく明るく話すのだが、やはり気になるのは見覚えのない人物を連れていることについてだった。


 ルゥは『ゴリアテ』と共にトワイノース大陸の拠点にて『神の手足』と交戦した際、一時的にサラマンダーとして覚醒した影響でエーテルとモエギのことを忘れていたが、それはネロや他の者達からしたら恐怖を感じるほどのことで……。


「えっと、ネロが連れていた二人だけど……」

「それは、精霊種族の二人のこと? それとも、エーテルとモエギのこと?」


 ネロの聞き方はルゥを試すようなものだった。


 この問い掛けにどうやって答えるのが正解なのか……。


 ──いつもの僕なら素直に答えるんだけど、そんなことを考えるなんてなんだかやっぱり僕じゃないみたい。


 困ったような笑みを浮かべたルゥを見てそれが答えだと思ったのか、ネロは一度だけ視線を外してから淡々と答えた。


「エーテルとモエギは、以前ルゥと私と一緒に旅をしていたのよ。……こういう言い方は少し癪だけど、旅の仲間という関係で良いと思うわ」

「旅の、仲間……?」

「意外そうね。私の口からそんな言葉が出てくると思わなかったのかしら? 私も変わったのよ。ルゥと離れていた間にね」


 確かにネロの口から"旅の仲間"という言葉が発せられてルゥは意外だと感じたが、どこか引っ掛かりがあった。


 自分の知っているネロは幼い見た目とは真逆のしっかり者で、優しいけど怒ると怖くて、揶揄(からか)うと真っ赤になって恥ずかしがって、可愛くて……。でも、身内以外にはとことん厳しい。

 彼女の口から仲間や友人という言葉を聞いた試しがない。


 それで合っているはずだ……。

 しかし、それと同時にエーテルとモエギという二人に対しては"仲間"という言葉が存外しっくりきているとも感じたのだった。


 ルゥの複雑な心境を知ることなく、ネロの同行者についての説明は続いた。


「後の二人は精霊種族よ。まあ、見てわかる通りかしらね。黄色い方が土使いのルルディ。緑の方が風使いのリバディ。二人とも精霊種族としては規格外だから仲良くするのよ」

「わかった」


 あっさりとした説明に、言外に「怒らせるな」や「必要以上に関わるな」と言われているような気がしたルゥは素直に了承するにとどめた。


「それじゃあルゥが連れていた二人について説明してくれるかしら? 猿の男の子はエーテルの甥ってことで…………って、この二人の関係も知らない、覚えていないのよね」

「あはは……ごめんね? でも、マイムは強い土の力を持つ第三種族(サード)で力を使いたがってる不思議な子だよ。お父さんに力を制御? されてるんだって。神に選ばれた力って言ってた」

「……なるほどね。あの頭についている金属が力の抑制に役立っているっていうことね。にしても、神に選ばれた力ね……。第三種族(サード)がなんで生まれたのか、誰にもわからないのに大層な口を聞いたものね」


 マイムに対するネロの言葉は辛辣であり、どちらかといえば「気に入らない」といった風な印象を受けた。

 これ以上マイムに対して話すことも特になく、例え話したとしてもネロの機嫌を損ねそうだと思ったルゥはもう一人の連れであるミーシャについて話すことにした。


「それで、もう一人の熊の女の子はミーシャって言うんだ。僕の昔の友達だよ」

「昔の友達?」

「うん。僕が小さい頃、同じ村に住んでたことがあるんだ」


 そう話した瞬間、ネロの顔が悲痛に歪んだ。


 ──話さない方が、良かったのかな? ……でも、一緒に頑張るって言った。僕が頑張るだけじゃない。ネロの負担にはなりたくないけど、僕のことをもっと知ってもらって、それで……二人で一緒に、知っていければ良いなって思うから…………。


「僕が小さい頃に住んでた多種動物種族村(リベレッジ)で、仲が良かった……んだけど……へへっ。辛い思い出が強すぎて、ミーシャのこと上手く思い出せないんだよね」


 ミーシャとミネットとシアン、そして……ルドルフ。

 名前と容姿と性格と、確かに仲が良かったことは思い出せるのだが、それをかき消すように脳内を真っ赤な炎が埋め尽くしている。それだけではなく、『人殺し』という単語につられるように手のひらが血の色で染まり、あまつさえ鼻の奥に鉄臭い血の匂いが思い起こされて顔を(しか)めそうになる。

 それを必死に取り繕い、なんとか困ったような笑みを貼り付けることに成功したルゥは、ネロの出方を伺った。


「辛い記憶って、どこまで思い出しているの? 私の他に、誰か……思い出したりしてない?」

「……ネロだけだよ? 他って、誰?」

「そう……。なら、良いわ」


 ネロの言葉からは安堵と落胆がにじんでいた。


「大丈夫だよ。僕は、辛いことも悲しいことも、ネロが居てくれれば平気だよ」

「っ……! そ、そんなことで誤魔化されないわよ!?」

「ごまかしてないよ。本当に平気だよ。ネロが、僕のことを"ルゥ"って呼んでくれるだけで、僕は僕でいられるから」


 ──僕はルゥ。ネロがルゥと呼んでくれる限り、僕はルゥであり続ける。例え、僕以外の僕が、僕を塗りつぶしそうになっても、僕は(ルゥ)であり続けれるんだ。

 ルゥとネロの記憶のすり合わせ……と言う名の作者のリハビリです。

 これも予定にない話なので、過去とこれからを擦り合せるのに時間がかかってしまいました……。


 20,12,15 加筆修正

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