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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
ネロの旅路 フォロビノン大陸
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4、『ゴリアテ』と『始まりの精霊種族』 2

 シュカと呼ばれた大鷲の動物種族と共に、互いの陣営のピリピリとした空気を必死になだめようと動いたとき、ルルディが半目でこちらを睨みながらこう言った。


「ルル達を利用したんですかー?」


 そしてルルディがこう思っているということは、案の定リバディの追撃も飛んでくる。


「流石ネロ。性格悪い」

「どう思われようが言われようが、私の目的は大事なあの子を取り戻すことよ。そのためには貴女達だろうと『ゴリアテ』だろうと、エーテルやモエギだろうと、『神の手足』だって利用するわ」


 あの子の負担にならないように、だけれど……。


「とにかく、こんなくだらないところで余計に力を使われると後々迷惑なのよ。『ゴリアテ』が晶霊石を使用してるのも、神に会うための布石よ。私が許容しているのだから貴女達も目を瞑りなさい」

「嫌ですー。許せません。あなた方如きが、ルル達より立派な晶霊石の気配を纏ってるなんて絶対に許せません」

「特に風」

「土も火もですよー! 水だけはいないみたいですけどー、どうせご立派なものを持ってるんじゃないですか?」


 騒がしくなった二人の頭に、冷水を浴びせて黙らせる。


 ──この二人、あの子に合わせて大丈夫かしら?


 そんな不安がふとよぎってしまった。


「冷たいじゃないですか!」

「ネロ、ちょっとやり過ぎなんじゃ……」

「そうです! いくらモエギでも、これは酷いと思うです!」

「酷い……。けど、これくらい平気。今、乾かす」

「こんな下らないところで力を使わせるなって言っているのよ。二度も同じこと言わせないで」


 リバディが風を起こして二人分の体を乾かしているのを横目に見ながら『ゴリアテ』の様子を伺ってみた。


「おい! 聞いたかよクソ団長! あいつ、あたしらが弱いって言いやがったぞ!!」

「聞いてた聞いてた。事実すぎて笑えないけどな」

「シュカ!!」

「はいはい、事実やね。けど、うちも負けたまま終われるほど大人やないんよ? だから、今は我慢の時」

「シュカの言う通りだ。この場は一旦矛を収めろ」

「……ッチ。わかったよ、クソが」


 どうやらあっちは上手く収まったみたいね。羨ましいわ……。

 それに比べて……。


「ネロは納得できるんですか!? 水の晶霊石がないからそんなに平然としてられるんですか!?」

「水を使う『ゴリアテ』の第三種族(サード)とは一度だけれど会ったわよ。もちろん、彼女も立派な石を持っていたわ」

「なら、私達の気持ちも理解できるはず」

「ええ。当時は悔しかったわ。私よりも立派な晶霊石を持っている彼女に対して、劣等感とでも言うのかしらね? 精霊種族が、第三種族(サード)に劣っている……。彼女の方が、神に愛されている。そんなことを考えたこともあったわ」


 カザミの方をちらりと伺って、こっちの話を聞いていないことを確認する。


 これは、私の自尊心の問題。

 ルルディやリバディ、ルゥ辺りには聞かせられるけど、エーテルやモエギにはあんまり聞かれたくない話。そして、カザミ達『ゴリアテ』には絶対聞かれたくない話。


「でも、それも昔の話よ。私はウンディーネ。神に一番近い四大精霊が一柱。そして、ルゥを……あの子を助けるためなら私の下らない自尊心なんて霞むのよ」


 なんでこんなにもあの子が愛おしいのだろう……。

 家族愛、友愛、情愛、恋慕。

 色々思い浮かぶけど、どれも違う気がするのよね。

 エルデやアイネにはその言葉が当てはまるのでしょう。けれど、あの子だけは……特別な気がする。


「ネロって、ウンディーネ……なのか?」

「ウンディーネって、あのウンディーネです?」

「あら? 貴女達には言ってなかったかしら?」

「「初耳だ・です!!」」

「そうだったかしら? まあ、そう言うことよ」

「ネロは意外と適当ですからねー」

「……一部の動物種族に関することを除いて」

「「「確かに」」」

「何よ……」


 リバディの言葉にルルディ、エーテル、モエギの同意が揃ったことで『ゴリアテ』に対する怒りが収まったらしく、ルルディとリバディはほぼ同時に息を吐いて諦めたような空気を醸し出した。


「もう、ネロの熱い想いの前にはルル達の怒りなんてどっかに吹っ飛んじゃいましたよー」

「疲れた。もういい」

「……ああ、そう」


 怒りが収まったのは何よりだけれど、何かしら。この、納得いかない感じは……。


 こっちの様子を見ていたのか、シュカが丁度いい頃合いに声を掛けてきた。


「どうやらそっちも収まったみたいやね」

「不本意な形だけれど、一応そうなるわね」

「ほな、この後どうするん? うちらは所用でここを離れることはできんけど、お嬢はん達はどないするん?」

「つまりはここでルゥを待っているのね? なら答えは一つしかないわ。私達もここで待つわ」

「……なんも言ってへんのに、まるでそれが正解のような言い方やね」

「どうやら私はとある動物種族に対しては凄い執着するらしいから。それに、ルゥを手に入れたかったカザミがそんなに簡単にルゥを手放すわけがないし、例え待ち人がルゥじゃなくても貴女達(ゴリアテ)について行けば必ずルゥと会えるでしょう」

「団長はん。このお嬢はん、凄いわぁ」

「あ? ああ、いちいち腹立つけどな。シズクに敵わない癖に……」

「その話は聞き飽きたわよ」


 久しぶりに聞いたけれど、昔はカザミに会うたび言われていたわね。


『シズクに敵わない癖に』

『シズクが居るのに』


 私がウンディーネに似ているから。幼い見た目の割りに当時から強い力を持っているから。

 理由は色々あるけど、結局は自分の愛おしい人が一番でないと気が済まないって言うだけの話よね。それはちょっと、私にも分かる──って……。


「あーもう! なんか恥ずかしくなってきたわ」


 あまりの恥ずかしさにフードを外して髪を掻きむしった。


「あー! ネロがフードを外してますよー! 狡い! ルルも外す!」

「なら、私も。フードって窮屈」


 一斉にフードを外して素顔を晒した、私を含めた精霊種族。周りからは「ほぅ」と言う感嘆する吐息がそこかしこから聞こえてきた。


 精霊種族が優れた容姿を持つと言っても、『始まりの精霊種族』の美貌は他を圧倒するほどのものってことよね。


「……腹たつ。クソかよ。くたばれ」

「カガリはんも十分可愛いらしいで?」

「……いや、俺はカガリに激しく同意する。なんで精霊種族ってこんな……くそっ!」

「団長。素直に彼女達が綺麗だと認めろ。男らしくない」

「ふふん! ルル達の美しさに見とれるが良いですよ。特にリバちゃんは綺麗でしょう?」

「ルルも可愛い」

「「腹たつ!!!」」

「女として負けた気がするです。モエギも、その気持ちには同意するです。『立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合の花』って、こう言う人たちを言うですね……」

「いや、うん。アタシは何も言えないよ……」


 仲が良いのか、悪いのか……。

 しかし、さっきの険悪な雰囲気よりは少し打ち解けた気がするわね。


 そうして過ごしている内に、雑多群(リグレ)サリューンがある方角から待ちに待った愛おしいあの子が、見知らぬ女の子と子供を連れてやって来るのだった……。

 ネロ視点は今回で終了です。

 次回からいつも通りのルゥよりな第三視点へと戻ります。


20.9.15 誤字脱字修正

21.6.4 サブタイトル表記訂正

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