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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
ネロの旅路 フォロビノン大陸
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1、風の渡り

 ライファを後にした私達は、およそ五日かけてトワイノース大陸の西、海の見える海岸へとやってきた。海岸と言ってもほとんど岩場ばかりで、砂浜は北の方に僅かばかり見えるだけの風情も何もない海岸だけれど。


「さて、ここからフォロビノン大陸に渡るわけなんだけれど、心の準備は良いかしら?」


 あからさまに怯えているモエギに声を掛けてみたけれど、モエギは顔を真っ青にしてエーテルの腕を抱きかかえたまま俯いていた。


「そんなに怯えなくても大丈夫ですよー? リバちゃんの力はすごいですから。次の大陸までどれくらいの距離があるか知りませんけど、あっという間です」

「もちろん」

「120キロメートルをあっという間、か。シュカとかいう第三種族(サード)は一時間くらいで渡るって言ってたけど、それすらアタシには理解できない力だよ。だからさ、モエギもそんなに心配することないって」

「あの距離を一時間で? へぇ。凄いことができる第三種族(サード)もちゃんといるのね、『ゴリアテ』には」

「負けない」

「当たり前じゃないですか。リバちゃんが第三種族(サード)ごときに負けるはずないですよー」


 怯えるモエギを励まそうとしていたエーテルを置き去りにして、和気藹々(わきあいあい)と話をしながら準備を進めた私とルルディとリバディに、ただの動物種族である二人は肩を落としていた。


 精霊種族なんてみんなそんなものよ。


「さて、そろそろ心の準備も整ったかしら?」

「もう行くです!?」

「準備ってなんだっけ?」

「ルルは準備万端ですよ? もちろん、リバちゃんも」

「いつでも飛べる」


 そう言って体を浮かせたリバディは続けざまに私とルルディのことも風を使って宙へと浮ばせた。その後リバディはエーテルとモエギに視線を送り、無言で「良いか?」と問いかけていた。

 彼女の視線だけで二人が意味を察することができるか分からなかったから、一応私からも声を掛けておく。


「モエギ、準備は良い?」

「うぅ……だめって言っても行くですよね? それに、行かなきゃルゥ君には会えないです。モエギは、ルゥ君のために頑張るです! 空を飛ぼうが槍が降ろうが、モエギは止まらないです!!」


 モエギも変わったわね。


「じゃあ行く」

「えっ!? わっ! わっ!!」

「ちょ、いきなりは駄目だって!」


 感慨に(ふけ)っていたわけではないけれど、「お手柔らかに」と言おうとしていた私の思いを無視してなんの予備動作もなしにエーテルとモエギを宙へと浮かばせたリバディは、二人が慌てふためいているのを全く気に留めることもなく移動を開始した。

 体の制御が全く効かないエーテルとモエギはジタバタと手足を動かして体を安定させようとしているのか恐怖によってただ暴れているだけなのか分からない動きをしていて、思わず声を上げて笑ってしまった。


「あははっ……!」

「ネロが、普通に笑ってる……」

「珍しい」

「っい、良いからさっさと出発するわよ!」


 我に返って恥ずかしくなった私は、空中でも地面に足をついているときと同じように体を動かしてルルディの背中を叩いて出発を急かしたのだった。


 そうして出発した海の上。

 ルルディの操る風はとても自然なもので、体を預けても全然問題なかった。


 ──これが『始まりの精霊種族』の力なのね……。


 私も晶霊(しょうれい)結晶を取り込んでだいぶ力を取り戻したけれど、彼女のように自然に力を使うにはまだまだ練度が足りないと痛感した。


「ふわぁ〜! 凄いです! 上も下も真っ青です!!」


 モエギの最初の恐怖もルルディの自然な風使いと目の前に広がる美しい景色で吹き飛んだのか、さっきから興奮した声を上げては手足をバタバタと動かして喜びを表現していた。


「モエギ、少し落ち着きなって。危ないだろう」

「平気です! この風、ビクともしないですよ!」

「調子良いんだから……」

「本当ですよー。さっきまであんなに怖がってたのに」

「私のおかげ」


 胸を張って誇らしげなルルディに、リバディが抱きついた。

 もちろん今は空中であり、いきなりそんな行動をされたら体勢を崩して墜落しそうなものだけれど、ルルディはなんの苦もなくリバディを抱きとめていた。


 ──こういう時、風使いを羨ましく思うわね。まあ、水中になれば私に敵う精霊種族はいないでしょうけれど……って、何対抗心なんて燃やしているのかしら? 子供みたいで情けないわ。


 そんなことを考えているうちに、あっという間にフォロビノン大陸が見えてきた。


「もうすぐ着く。ルル、離れて」

「はーい」

「本当にあっという間です!」

「そうだな。こんなにすぐ大陸を渡れるんだったら、飛空挺なんてただの浪漫(ろまん)だな」

「浪漫、ね。あんなイライラする奴のところなんて二度と行きたくないわ」

「「同感」」


 本当はもう何人か飛空挺を所持している奴はいるんだけれど、どれもこれも似たり寄ったりな性格していたはずだから行く意味なんて全くない。

 本当、ルルディとリバディを連れ出して正解だったわ。

 お待たせいたしました。

 新章突入です。しかし、まだネロの視点で旅は進みます。

 もうすぐ主人公であるルゥと合流しますので、しばしお待ちください。

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