10、飛空挺・新世界号
ライファに戻りながらエーテルの飛空挺への想いを聞いた私達は、今現在ライファの飛空場の近くまで来ていた。
西寄りに位置していた裏の商人の店から南に進むこと30分。距離にして約三キロメートル。小さな田園を抜けた先に大きな建物が並んでいる、まさに都市と言った区画があった。
「……これが、多種族都市か」
「木造だけど平均して三階建、大きいものだと石造りで五階建まであるわよ」
「五階建です?! はわぁー……」
「ネロ、何か美味しいものは売ってないんですかー?」
「疲れた」
「中央都市に入れば美味しいものも休む場所もあるから、もう少し頑張りなさい」
本当はこんなところで寄り道している場合じゃないんだけれど、せっかくの機会だからルルディとリバディにもこの世界での精霊種族の立場というものを見せておいてもいいかも知れないわね。
……ライファが吹っ飛ばないと良いけれど。
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裏の商人がいた場所も結構な活気があったけれど、昼過ぎということもあるのか中央都市の賑わいは一種のお祭りのようだった。
馬車が何台も通り過ぎる大通りの端を動物種族も精霊種族もひっきりなしに行き交う。
露天よりもきちんと店を構えているところが多く、飲食店は出入りが激しい。
生活している人数が多いから、その分生活音も騒がしくてエーテル達は耳を塞いで騒音に耐えているようだった。
「これが、中央都市ってやつか……」
「エーテルさん、なんて言ったです?」
「……人が多いって、凄いんだなって言ったのさ」
馬車が通る度にキラキラした目で追っていたエーテルが感慨深げに呟いたのを、モエギが少しだけ声量を大きくして聞き返していた。
生活音の煩さに声を張り上げないと会話が成立しないという事実を知ったモエギとエーテルを微笑ましいと思いつつ、私はいつも通りの声の調子で会話を繋げた。
「多種族共和国はもっと凄いわよ」
「ルル達、そんな場所まで行くんですか?」
「帰りたい……」
「神様の居場所を突き止めてくれる手伝いが終わったら素直に返してあげるわよ。それまでは勝手に帰ることは許さないわ」
「もしも勝手に帰ったらどうなりますー?」
「……レイディに力を渡そうかしら」
「「絶対帰らない」」
ルルディとリバディは本当にレイディが苦手みたいね。
まあ、善悪の判断基準がおかしいから分からなくもないんだけれど……。同じ水を扱う精霊種族、むしろ私の子供のはずなのに何であんな性格になっているのかしら?
ちなみにレイディに力を渡すということはできないと思う。今の私には……。
けど、二人を大人しくさせるためにはできると思わせておくのが一番良い方法なのよね。
そんな感じで適度に会話を交わしつつ、さらに南へ歩くこと三十分。目的地である飛空挺が停まっている場所までやって来た。
そこは飛空挺が一隻停まっていてもまだまだ余裕のある、大きな大きな庭付きの豪邸。
青い屋根が美しい三階建の豪邸は外から数えるだけで10部屋以上はある。実際はもっとあるのでしょうけれど、外の──それも一方向から見ただけでは正確な部屋数まで数えれないくらい立派な家としか言いようがないもの。
「…………」
「でっかいです!」
「悪趣味じゃないですかー?」
「精霊種族の力を感じる。ルルの言う通り、悪趣味」
言葉にならないエーテルと子供みたいにはしゃぐモエギ。二人とは打って変わって顔をしかめているルルディとリバディ。
ルルディとリバディだけでなく、精霊種族の力を感じ取れる者が居たのなら二人の反応と全く同じ反応をすると思う。何故なら、この屋敷には多くの精霊種族がいるから……。
一番多いのは飛空挺を動かすための風の精霊種族。次に多いのは水、土、火の順で、この屋敷には全ての属性の精霊種族がいることが分かる。
贅沢な使い方と言えば聞こえは良いけど、やらせていることは奴隷と同じなのよね。ほんと、悪趣味。
「でも、飛空挺ないですよ?」
一通り騒いだモエギが平坦な声で告げた。
そう、この大きな庭付きの屋敷を見回しても、どこにも飛空挺は見当たらなかった。
「……答えは上ね」
ヒュンヒュンという独特な音が上から聞こえてきた。
飛空挺に多数取り付けられた四枚一組の羽根が回る音。
「上? 何があるです?」
「ん? あれは……飛空挺なのか?!」
豆粒くらいだった物体が徐々に降下してその姿をはっきりと視界に捉えることができるようになってくると、エーテルが指をさしながら興奮した様子で聞いてきた。
「そうよ……って聞いてないわね」
「凄い! 凄すぎる! もう、凄いとしか言えないくらいめちゃくちゃ凄い!! 格好いい!!」
「これが飛空挺ですかー?」
「これを精霊種族が飛ばす? ……下衆が」
「リバちゃん怖いよ? でも、ルルもちょっとイラっとしてこの辺り一帯を砂地に変えそうです」
力を発動させようとする二人を何とかかんとか宥めすかして、目的は達成したと未だに興奮しているエーテルを引っ張ってその場を後にしようとした。
「おや? 麗しい女性がこんなにも……。そちらの外套を着ているお二人は精霊種族かな? なに、フードを被っていても溢れ出る美しさはボクにはわかってしまうんだよ。罪な男でごめんよ」
飛空挺が着陸してもしばらくはその場を動かなかった私達を不審に思ったのか、飛空挺から降りてきたと思われる狐の動物種族の男か声を掛けてきた。
「ボクの所有する新世界号に興味があるのかい? 良いんだよ、皆まで言わなくてもわかっているさ。ボクの新世界号は美しいだろう? このボクと一緒で……。そう、洗礼された容姿と類稀なる能力。神が二物も三物も与えたもうた存在、それがこのボクさ!」
今回も少し長めです。
話の最後に出てきた狐の男、書きやすくて好きです。
クジャクのピコと良い勝負ですが、トキモト的にはこっちのが好きですw