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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
ネロの旅路 トワイノース大陸 多種族都市ライファ
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9、精霊種族の使い方

 『始まりの精霊種族』である土の精霊種族ルルディ、風の精霊種族リバディ、猿の動物種族エーテル、栗鼠(りす)の動物種族モエギを引き連れて多種族都市(ネオリビシティ)ライファを後にした。


 食料も買ったし、当分はどこにも寄らずに歩ける。……何事もなければだけれど。


 私としてはこのまますぐにでもフォロビノン大陸に向かいたいところだけれど、流石にこの人数をリバディ一人の力で運んでもらうのは気が引けるのよね。彼女は出来ないとは言わないだろうし、私自身彼女の力を知っているから無理だとも思わない。むしろ余裕だと思う。

 それでも気が進まないのはモエギの存在。

 モエギを精霊種族の力を使って運ぶのは……何があるか分からないから怖いのよね。

 リバディはきっとゆっくり丁寧に運ぶか、あっという間に運ぶかのどっちかを選択することになるけれど、モエギはどっちも無理そうなのよね。


 そんなことを考えながらモエギに視線を送っていると、見られていることに気付いたモエギが隣に並んで声を掛けてきた。


「何か用です?」

「……モエギ、リバディ──精霊種族の力を使って空を飛んで行こうと思うんだけれど、大丈夫?」


 心配げな声ではなく「断るなよ?」という威圧感たっぷりに聞く。


「精霊種族の力を使って? 空を飛ぶ? です?」

「リバちゃんの力でひとっ飛びですよー」

「一瞬で新大陸」


 言われたことが理解できないのか、それとも理解したくないのか……。一言ずつ区切って意味を確かめるモエギに、ルルディとリバディが追い打ちのようににこやかに言葉を続けた。

 モエギは彼女達の言葉も口の中で噛み砕いてゆっくりと意味を理解した頃、モエギの顔は真っ青を通り越して真っ白……そして土気色へと変わっていった。


「空を……飛ぶ……? 無理ですぅ!! モエギ、地に足ついた生活しないと生きていけないです!!」

「あ、それは分かります! やっぱり地面に足が着いてないと落ち着かないですよねー」

「空は自由。床も壁も天井もない。素敵」

「そういう問題じゃないです! え? え? ネロちゃんは平気です?!」

「空を飛ぶくらいなんだと言うのよ。それに、この世界にある飛空挺よりもルルディの力で飛んだ方が安心安全よ? 何よりお金掛からないし」

「嫌です無理です死んじゃうですぅ!!」


 頭を抱えて(うずく)ってしまったモエギに、私はやっぱりか……という感情しか浮かばなかった。ただ、精霊種族の力に怯えているというよりは空を飛ぶという未知の行為に対して恐怖しているようだったから、何となく安心したような気がした。


 って、なんかモエギに甘くなってるわよね?


「ネロ……?」

「あら? エーテルも不安なのかしら?」

「いや……まあ、うん。不安っちゃあ不安だけど、それよりも今、飛空挺とか言った?」

「ええ。言ったわね」

「アタシ、一回飛空挺っていうの見たかったんだよ。なあなあ、飛空挺でトワイノース大陸に渡れるならそっちで移動したいんだけど、ダメ?」


 ……えぇ〜…………。

 まさかエーテルにそんな趣味があったなんて……。

 あれ?


「でも、エーテル貴女、乗り物平気なの? 船であれだけ酔っていたじゃない」

「……乗ってみないとわからないじゃんか!」

「性格変わってない?」

「いいんだよ! とにかく、アタシは飛空挺に乗ってみたいんだ」

「船より高いわよ?」

「黒3枚で足りないのか?」

「無理ね。何より、すごく気分が悪いわよ」

「船酔いならモエギが──」

「そういうことじゃなくて、よ」


 説明するか悩むわね……。


「それはルル達にも関係あることですか?」

「ネロが言う気分が悪い。つまり、不快感」

「二人の言う通りよ」

「あ、もしかして……風の精霊種族を使ってるってことか?」

「知っていたの?」

「ルゥとネロを探してる時に『ゴリアテ』に会って、そんな話を聞いた気がしたんだ。でも、確か飛空挺ってライファにあるって言ってたんだけど、そんなものあったっけ?」

「『ゴリアテ』に会ったですって?」

素気(すげ)無く(かわ)されたけどな」


 あはは……と乾いた笑いをこぼしたエーテルを見るに、特に問題はなかったようで安心した。


「それで、結局どうするんですか? リバちゃんの力で飛んでいくのか、その飛空挺? っていうのを使うのか」

「飛んで行った方が早い」

「無理です! 断固反対です! 海、海を船で渡って行くです! それが一番安全です!!」

「海上はどう頑張っても無理よ。トワイノースとフォロビノンの間の海域は潮の流れが不安定だもの。どんなに良い晶霊石(しょうれいせき)を積んでいたとしてもあの海を渡りきるのは無理よ」


 ウンディーネの力を使えば行けなくはないと思うけれど、流石にたかが海を渡るくらいで力を使うのは馬鹿馬鹿しいうえに、まだ私がウンディーネであることは黙っておいた方が良いでしょう。

 飛空挺を使うのは金銭的にも、精神衛生的にも避けたいし……。仕方ないわね。


「私はライファに戻って飛空挺を使うという案は反対よ。むしろ全否定させてもらうわ」


 そう切り出して二人の説得を始めた。


「なん度も言うけど飛空挺はお金が掛かりすぎるわ。それに、飛空挺は船と違って個人資産みたいなものよ。移動手段として確立しているわけじゃないから飛空挺の持ち主と直接交渉しなければいけないの。裏の商人(アンダーディーラー)に仲介を頼んでも飛空挺は晶霊石を使って動かしているわけではないからやり方としては弱いわ」

「精霊種族を使ってる……か」

「そうよ。それが飛空挺を使いたくない一番の理由よ」


 飛空挺は風の精霊種族を動力源として使っている。

 飛空挺と銘打ってはいるけれど、実際の大きさは1キロメートル四方の小さな船に六〜十人ほどの風の精霊種族、持ち主であり船頭が一人、乗組員兼従者・小間使いが二人。旅人が乗れる空間なんて無いも同然。例え運良く乗れたとしてもこれだけ狭い空間に押し込められたら精霊種族がどうやって使われているのかを視界の端に捉えながら片道およそ二時間を気まずい雰囲気の中過ごさなければならない。


 クライスとルゥと旅をしていた時の情報だから今と昔じゃ変わっているところもあると思うけれど、たかが十年そこそこで根本的なところまで変わるとは思えない。


 そこまで説明して、ようやくエーテルもモエギも反対意見が出なくなった。


「……あの、さ。乗るのは諦めるよ。諦めるけど、遠くからで良いんだ。飛空挺を見てみたいんだけど、ダメかな?」

「拘るわね……。思い入れでもあるのかしら?」

「旅芸人から話を聞いて、ずっと乗ってみたいと思ってたし……何より義兄(にい)さんが空に興味があったらしいんだよ」

「エーテルさんのお義兄さん!? つまりエーテルさんの初恋の人です! 初恋の人が気になっていた物なら是非とも知識を手に入れたいですね!」

「興味ないでーす」

「同じく」


 ルルディとリバディの機嫌がどんどん下がっていっているわね。


 とにかく立ち止まったままというのも問題だし、遠くから見るだけならと飛空挺がある場所まで行こうと元来た道を戻ることにした。

 久しぶりに長くなってしまいました。本当はもうちょっと長かったんですが、ひとまずここで区切らせていただきます。


 飛空挺……。格好いい響きですよね。 

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