6、再出発
晶霊石に力を込めて失った栄養を久しぶりのエーテルの手料理で補給する間に、ルルディとリバディは猫の老爺ブランに渡された晶霊石に力を込め終わったようね。
質としては少し劣るけれど、『始まりの精霊種族』が力を込めた晶霊石はそれなりに価値があるでしょう。
「さて、栄養補給も終わったしそろそろ行こうかしら」
「ネロはこの後どこに行く予定なのさ?」
「……きっと付いて来るなと言ってもエーテルは付いて来るんでしょう?」
「モ、モエギだって行きますよ!?」
「精霊種族である私達と一緒に旅をするというの? 言っておくけれど、ルゥがいたときみたいな普通の旅にはならないわよ? それでも付いて来るの?」
普通の旅なら陸路や海路、空路を使って大陸を渡って目的地まで行くのが普通。けど、こっちには精霊種族という切り札が居る。
今後はリバディの力を使って空路で一気にフォロビノン大陸に渡る予定だけれど……。
モエギが彼女の力を目の当たりにして、精神衛生上耐えられるとは思えない。
現に今もなおエーテルの後ろに隠れて怯えている状態だし、これ以上お荷物を背負う必要を全く感じないもの。
何よりモエギが精霊種族や第三種族を否定するなら、ルゥのためにならない。
トワイノース大陸ではなあなあになってしまったけれど、今回ははっきりと拒絶させてもらうわよ。
「それは……でも、モエギは…………」
「貴女は足手纏いにしかならないわ。黄金のリンゴは一人で探しなさい」
「ネロ、ちょっと言い過ぎじゃ……」
「エーテルは黙ってなさい。このままモエギを旅に同行させたとして私達になんの利があるというの? ルゥが今も『ゴリアテ』と共に居るのなら彼ら第三種族も私達精霊種族も、これから『神の手足』との戦闘が多くなるわ。その度にエーテルの背後に隠れて、震え怯えて、私達の荷物、足枷として生きるのかしら?」
「……辛辣」
「容赦ないですねー」
「うぅ……モエギだって、役に立つです……」
私の言い分が的を射ているから泣いているのでしょう? 悔しくて。
ルゥや私、そしてエーテルと共に居たいという気持ちは理解できるわ。私だってそこまで鬼じゃないし、私だってクライスやルゥと離れている今があるから……自分の能力の足りなさが悔しくて仕方なかったもの。
「ちょっと嬢ちゃん達、喧嘩するなら他所でやれ」
「喧嘩じゃないわよ。これは説得」
「説得ですか?」
「どっちかというと苛めてるように見えるけどね」
「……正解」
「そこ、さっきからうるさいわよ。私はモエギのため、何よりルゥのために言っているのよ」
ここまで言えば良いかしら?
「モエギの説得も終わったし、行くわよ。えっと……ブラン、と言ったわね。世話になったわ。できるなら、また会いたいものね」
「ふん。こっちは御免被るがね」
ルルディとリバディは大人しく私に付いて来るけれど、エーテルはモエギの状態に後ろ髪を惹かれているのかその場から動こうとしなかった。
別に、行かないなら行かないで良いけど……。最後通告はしといてあげましょう。
「エーテル。貴女はここで立ち止まるの? 甥を、お義兄さんを探す旅を諦めるのかしら?」
「それは、違うけど…………」
「好機を逃したら戻って来ることは二度とないわ。決断は迅速にしてちょうだい」
「……分かったよ。ごめんね、モエギ。アタシは、叶えたいものがあるんだよ。友情よりも、さ。アンタも、元気でやりなね」
エーテルは去り際にモエギを励ましていたけれど、その甘さは命取りになるってことを後で言い聞かせておかないといけないわね。
あの子と同じ、少しでも情が湧くと基本的になんでも許してしまうその性格が身を滅ぼすのよ。
あの時みたいにね……。
険悪なムード再び。
ネロがモエギを嫌う理由は後日更新したいと思います。