4、情報収拾と懐かしい顔
「さて、じゃあそっちの嬢ちゃん達の石を持ってくるかな……」
そう言った老爺は両手に一個ずつ、ほとんど真円でこぶし大の晶霊石を持ってきた。
「……なんてものを隠し持っていたのよ」
「土と風は使うからねえ。これだけ大きくて丸いものでもあっという間に無くなるんだよ」
「ネロには負けない」
「はい! リバちゃん、頑張りましょう!」
老爺は二つの晶霊石を間違えることなく二人に手渡した。
そう、ルルディもリバディも外套で容姿を隠しているにも関わらず……。
「……本当に、貴方何者?」
「しがない、ただの裏の商人だよ」
「もう、そんなことどうでも良いですよー。ちゃっちゃとやっちゃいましょう!」
「ルルにも負けない」
二人はそれぞれ晶霊石を両手で包み込むように持ち、力を込め始めた。しかし、『始まりの精霊種族』と言えどやはり晶霊石に力を込めるという初の試みに手間取っているようで、なかなか思うように力を込められないようだった。
「……なにこれー? すっごい難しいんですけどー?」
「ちょっと違う……。これも違う」
「やっぱりその晶霊石、大きすぎたんじゃないかしら?」
「あの二人なら大丈夫だろう」
「まあ、時間がかかるのなら貴方とのおしゃべりも遠慮せずにできるわね。ただ、あんまり時間かけないでよ、二人とも」
「リバちゃん! 本気でやるよ!」
「わかってる」
晶霊石への力の注ぎ方は力技ではなんともならない。コツがいる。
この世界で精霊種族として生まれ、精霊郷の暮らしを維持したり、なんらかの理由で他の町や都市へと行かなければならない場合に備えて晶霊石の扱いについて一通りの情報と訓練は幼い頃に受けることになる。けど、『始まりの精霊種族』であるルルディとリバディはエレメステイルから出たことがない、出る必要がない。むしろ世界のために出てはいけない(連れ出してる私が言えた事じゃないけれど)。
そんな彼女達が初めから晶霊石に力を込められたらたまったもんじゃないわよね。
「それで、なんの情報が欲しいんだい?」
「……火の精霊種族が減っていることについて」
「事実だ。原因は四大精霊のサラマンダーが行方不明らしいっていう説が一番妥当な線だね」
「他の原因と考えられるのは?」
「……世界の崩壊、とも考えられているな」
サラマンダーが行方不明っていうのはある意味合っているわね。でも、行方不明っていうだけならウンディーネである私もある意味行方不明なんだけれど、水の精霊種族が減っているという事実はないのよね?
にしても、世界の崩壊……ね。
その要因としてはサラマンダーの行方不明よりもこの世界の創造神であるシギルとクライスが行方不明っていうことの方がしっくりくるのよね。
「他に聞きたい事はないかい?」
「他に? そうね……」
そんなに聞いて良いのかしら? ルルディとリバディが晶霊石に上手く力を込められても、逆に対価を求められても私たちにこれ以上払えるものもないし……。栄養補給するにもエーテルみたいな事情を知っている料理人が都合よく見つかるわけもないし……。
「探し人とか、居ないのかい?」
「…………居るには居るけれど、この大陸には居ないという事は分かっているわ」
「ほう?」
「あっ! わかっちゃった!!」
猫の老爺が意味深なことを言って意味深な反応を見せた時、ルルディが飛び上がるように喜びの声を上げた。
「……ルルディ、ここは人様の家なのよ? もう少し……いえ、貴方達に常識云々について言うのは間違っているわね」
「ルル、何かわかった?」
「晶霊石に力を込める方法がなんとなくわかりましたよー!」
「そう。それは良かったわね。この調子で頑張りなさい」
「ネロは冷たいですねー、リバちゃん?」
「冷血」
「うるさいわよ」
ルルディとリバディに冷たい視線を送って大人しくさせた私は、さっきの老爺の反応について問い質した。
「それで、さっきの探し人について貴方は何を知っているというの?」
「そろそろ戻ってくると思うんだがねえ……」
「何が戻って来るのよ」
玄関を気にする老爺の視線を追って部屋の扉に顔を向けると──。
「おいブラン、買い物行ってきたけど誰か客でも来て…………」
「エーテルさん? どうしたです?」
──懐かしい顔が、二つ。
「なんで、貴女達が……」
「ネ、ロ……?」
「ネロちゃん? ひっ……! せ、精霊種族です!」
こちらを心配するエーテル。
私には慣れたみたいだけれど、やはり他の精霊種族に対しての恐怖は拭えていないモエギは顔を真っ青にしてエーテルの後ろに隠れてしまった。
猫の老爺のキャラ、わりかし気に入っています。