3、強かさ
少しの間待っていると、老爺が籐籠に光っていない状態の晶霊石を複数個入れて持って来た。
それを硝子机の上に置いて、好きなものを取るように言ってきた。
「どれもこれも真円に近い形ね。大きさはまちまちだけれど、流石は多種族都市ライファってところかしら? 同じ多種族都市でもケイナンにはこれほどのものはないでしょうね」
「あんたくらいの精霊種族ならこれくらい朝飯前だろう。時間的にはもう昼過ぎだがね」
「伊達に長く裏の商人はやってないって事ね。分かったわ。全部入れたらいくらになるのかしら?」
老爺は私の言葉を聞いてニヤリと笑った。
「全部入れられたら黒石3枚くれてやろう」
「へぇ……。やってやろうじゃないの」
「ちょっとネロ、大丈夫なんですか?」
「動けなくなる」
「以前の私なら大きくもなく不揃いの晶霊石5つに力を入れた程度でへばっていたけれど、今はそんなに柔じゃないわ。それに、黒石3枚もあったら当分食べるものにも泊まるところにも苦労しないわよ。辛い旅はもうたくさん。さっさと終わらせて貴女達をエレメステイルに帰さないといけないし、グダグダなんてやってられないわ」
「……ネロが、切れてる?」
「なんで水の精霊種族って怒らせると面倒なんでしょうねー?」
ルルディとリバディが何か言っているけれど、私は目の前の仕事を全力で片付ける事に意識を向けた。
ルルディとリバディを早くエレメステイルに帰さなきゃいけないのも本当のこと。
シギルとクライスがセンティルライド大陸に居るのだとしたら彼女達がエレメステイルに居なくてもしばらくは問題ないはず。彼女達の代わりは、世界にある晶霊結晶が補ってくれるでしょう。
でも、もしもシギルとクライスがセンティルライドに居なくて、昔みたいにこの世界をどこかから観察しているのだとしたら……? 私の足取りは追えずとも、『始まりの精霊種族』であるルルディとリバディは神に近しい存在だから、きっとシギルには察知されるはず。
それが原因で、また彼女の機嫌が悪くなって"粛清"が行われたとしたら……。
はぁ……もうさっさと見つけて横っ面張り倒してやるんだから!
「……ネロ、いつまで力込めてるつもりですか?」
「ネロが壊しそう」
「え? あ、ごめんなさいっ」
考え事しながら作業していたら、いつの間にか全ての晶霊石に力を入れ終わっていたみたいね。
猫の老爺が驚いた顔をしてこっちを見ていて、誤魔化すように笑って石を籠に戻した。
「凄いとしか言いようがないな」
「ネロ、力増えた?」
「ルル達も負けてられませんよー!」
「はいはい。これで黒石3枚ね。じゃあ、ルルディとリバディの作業をしている間に、情報について聞かせてもらいましょうか。二人の晶霊石の対価ということで」
「あんた、年に似合わずしっかりしてるな」
「当たり前でしょう。私はお姉さんだもの」
なんだか、張り詰めていたものがスッと抜けた気がした。
サブタイにいつも悩まされる。