狼青年と精霊少女
初めましての方も、お待たせしましの方も、どうも。トキモト ウシオです。
以前ポツポツと書いていた作品を本気で投稿し始めます。
筆の進みは遅いですが、完結を目指して走ります。牛歩ですが……。
舞台設定はこれから本文に出てくると思いますが、簡単に申し上げますと文明のない欧州の田舎……と考えていただければわかりやすいかと思います。電気も自動車も科学も化学もありません。
現代では考えられない世界で、彼らがどう暮らし、生きているのか。そして、ルゥとネロの不思議な関係、ルゥの記憶を一つずつ紐解いていくワクワク感が出せれば良いなと思います。
この世界は特殊である。
動物種族という、動物たちを擬人化した種族。
精霊種族という、見た目は人間だが四大元素である火、水、風、土の能力を持つ種族。
そして、人間以外の生物。
以上のみが存在している。
人間という向上心の塊は空想上の存在として、壁画や絵巻物に登場するのみである。
そんな特殊な、プリミールと呼ばれる世界の、テラリアという森の中を、この物語の主人公である狼の動物種族の青年ルゥと、水の精霊種族の少女ネロが歩いていた。
「ルゥ、早く来ないと置いて行くわよ」
「待ってよネロ! 歩くの早いってば……!」
青い髪、青い目、青い服。上から下まで青で統一された可愛らしい少女は、足首まで覆う長さの外套を羽織りながら急ぎ足で草木生い茂る木々の間をずんずんと進む。
一方、赤茶色の髪に鳶色の目、特徴的な尖った犬のような耳とフサフサとした太めの尻尾を持つルゥは、先を行ってしまったネロを身支度の整わないまま急いで追い掛けた。
「全く。ルゥが呑気にご飯食べてるから、すっかり日が昇りきっちゃったじゃない」
「や、でも……それは、ネロがなかなか起きて来ない──」
「いいからさっさと歩く!」
「っはい!」
出会った当初からしっかり者のネロと楽天的なルゥは良い組み合わせだが、ルゥがネロと出会ったのはたったの一週間ほど前である。
この森の中で倒れていたルゥをネロが介抱したのがきっかけだった。
目覚めたルゥは自分の名前すら覚えていなかったが、この世界のことやある程度の日常生活に支障をきたさない範囲のことは覚えているようで、まるでそれが当たり前のようにネロと行動を共にするようになった。
一方、ネロの方はルゥのことを知っているようだったが、簡単に自己紹介を済ませただけでそれ以上ルゥのことについて口を開くことはなく、ルゥもそれ以上聞くことはできなかった。
──でも、その時ネロが少し悲しそうな顔をしてた気がするんだけど……。
「そろそろ森を抜けるわよ。ああ、ほら、髪がボサボサじゃないの」
そう言ったネロは足を止めてルゥの外套を引っ張り、腰をかがめさせ手櫛で髪を整えて始めた。その間、ルゥは気持ち良さそうに目を細めてされるがまま状態だった。
「森を抜けたらどこに行くの?」
「昨日の夜に言ったじゃない。多種族都市ケイナンよ。はい、直ったわ」
「ありがとう!」
彼らがいるデューズアルト大陸はプリミールの中では普通という表現がぴったりくる。
大陸の大きさ、発展具合、人口の多さ。どれを取っても平均的で、治安も悪くはない。
多種族都市と呼ばれる、動物種族と精霊種族が入り混じり生活している場所が、ネロの目的地のようだ。
ちなみに、プリミールの人口比は動物種族8に対して精霊種族2という極端な人口比のため、多種族都市とは言っても生活しているのは動物種族が大半である。それに、精霊種族は一部で"神の御使"と敬われたり、逆に"反逆者"と恐れられている。
なので、森を抜ける手前でネロが外套に付いているフードを目深に被ったのは、動物種族が多い世界で精霊種族が波風を立てることなく生活するための一種の防護策なのである。
「ここから結構歩くから、無駄に走ったりしないでよ」
「はーい」
元気よく返事をしたルゥは、昨日の夜にネロから言われた言葉を思い出していた。
『ルゥの記憶は、私についてくれば戻るはずよ。でも、凄く辛い旅になるわ。精神的にも、肉体的にも……。それでも良いなら、ついて来なさい。その覚悟がないなら、あんたは……次の都市で置いていくわ』
──大丈夫だよ、ネロ。僕は、僕を知りたい。ネロのことも、きちんと思い出したいんだ。
ルゥは決意を新たに、前を歩く少女に追いつくための大きな一歩を踏み出した。
本文に入る前に、ルゥの独白を入れるか悩んで、結局入れない方向でいきました。
なるべく三人称視点で話を書いていこうとは思いますが、時々独白や一人称視点も織り交ぜ、読者様にとって分かりやすい物語を目指したいと思います。
まあ、元々、この話のネタは姉の夢の話なので、本当に第三者です(笑)。
ウシオの話はこのくらいで、また次回の更新でお会いしましょう。
ここまでのご拝読ありがとうございます。