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二つの翼を持つ少女  作者: 春採太郎
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二つの翼篇(魂の親)

 昨日、別れ際に皐と約束した何時もの場所で待っていると、皐が現れた。別れ際に皐は、母親に会いに行くから、一緒に来てと、言っていた。証拠を見せるから来てとは、直接的には言ってはいないが、証拠を見せるから来てというニュアンスだった。

 皐を疑っているわけではないが、皐の両親が人間ならば、皐が翼を、それも悪魔と天使の二つの翼を持っているのかがわからない。人間が持ちえないものなのだから。

 疑問を抱きながらも、皐の後をついていく。皐が向かっている場所は、どうも、いわゆる天国と地獄の間、中間地帯とか緩衝地帯と言っている場所だった。天国に行くことを拒んだ人間、生前の罪業が功罪半ばと言われる様な人間、悪魔と何かしらの取引をし、その代償を踏み倒し足して天国にも地獄にも行けない人間が、堕ちるというのか行き着く場所だ。草木一本なく、苦もないが楽もないという、虚無の場所だ。あそこは、地獄以上に地獄だという悪魔も居る……

 両親が人間ならば、皐が悪魔と天使の二つの翼を持っていることも疑問だが、母親が天国と地獄の間にいるのかも疑問である。もし、天国に行くことを拒んだのなら、何かしらの理由があるのだろうか?

 あれこれ考えているうちに、天国と地獄の間、虚無の場所に着いた。噂に聞いていた通り、草木一本、石ころ一つ落ちていない殺風景な所だった。こんな所に長居していたら、精神を病んでしまいそうだなと、正直思った。

 アケミと一緒に歩いていた皐が、一人の女性を見つけ、その女性の許へ一目散に駆けていった。そして、その女性に甘えるように抱きついた。その女性は、皐の頭を撫でる。この女性が、皐の母親なのだろうと思った。

皐と皐の母親と思われる女性の許に向かう。あれこれと、初対面の人間に質問するのは非礼だが、皐が自分の母親は人間だと言っていたことの真意を確かめたいし、母親が皐の翼を背中に生やしている理由を知っているのなら、その理由を知りたいと、衝動を抑えられない。

アケミが皐の許に着くと、

「お母さん、この人がアケミお姉ちゃんだよ」

と、皐は、アケミの事を母親に紹介する。アケミは、皐の母親だという女性に会釈する。そして、皐の母親だという女性は、

「初めまして、皐の母親の田川恵です。アケミさんは、皐のお友達?と言うには、何だか……」

と、自己紹介しつつ、皐とアケミの関係を聞く。疑問に思っていると言うより、困惑していると言うのが正確だろう。小学生ぐらいの少女と、大学生か社会人くらいの年齢の女性が友達と言うのは、ありえない。

「ええっと、その……」

と、皐との関係をどう説明すればいいのか、考えがまとまらない。皐が虐められているところを、助けましたと言っていいのか、迷う。正直に話すほうが説明はしやすいだろう。だが、皐の母親だという、田川恵を心配させるだろう。アケミが迷っているうちに、皐が、アケミとの出会いを話し始めた。

「お母さん、あのね、皐が虐められているところを、アケミお姉ちゃんに助けてもらったの」

と、アケミが話すべきかどうか迷っていたことを、何の躊躇いもなく話す。これで、皐との関係は、容易に説明がつく。

 皐の話を聞いた恵は、大丈夫だったと聞くような風に、皐の頭を撫でる。そして、

「大丈夫だったの?」

と、皐に聞く。聞かれた皐は、

「うん、アケミお姉ちゃんが助けてくれたから」

と、答える。

「アケミさん、ありがとうございます」

と、恵は、アケミにお礼を言う。当然のことをしただけだが、お礼を言われて、悪い気はしない。

「当然ことをしただけですから」

と、アケミは謙遜する。

 恵は、皐が、虐められていた理由に、心当たりがあるようで、それを確かめるために、アケミに質問してきた。

「アケミさん、皐は、背中の翼の事で虐められていたんですか?」

と、まるで見てきたように、その時の様子を言い当てる。恵は、自分の娘の背中に翼があり、その組み合わせがあり得ない組み合わせであることを知っている。自分の娘なのだから、知らないほうがどうかしているか。

「それは、その……はい、そうです。半端者って……」

 アケミは、隠さずに、あそこで何があったのか、話そうと覚悟した。隠し立てするほうが、恵を心配させかねないと……

「やっぱり……」

と、恵は、予見していたことが現実のものになったのかと、頭を抱え、沈黙する。間が悪いが、アケミは、皐が本当に人間の両親から生まれたのかと言う疑問を、恵にぶつけることにした。

「無礼承知で聞くんですが、皐ちゃんは、恵さんの子供なんですか?もしそうなら、父親は人間なんですか?」

と、初対面の人間に聞くようなことではないとは、重々承知だが、これを聞かなければ、皐に降りかかっている災厄、皐自身が抱いている劣等感を取り除けないと思っている。アケミの独りよがりかもしれないが……

 恵は、少し間をおいて、アケミの質問に答える。

「皐は私の娘。父親も人間。私が死んだとき、皐は私のお腹にいたの。産声を上げることなく、動物と称される生物が、受精卵から産声を上げるまでの段階の初期段階で、あの子は私と一緒に……」

 アケミは、皐の両親は人間であり、死者でも生者でもない存在であると知り驚いた。両親が人間の子供が、悪魔や天使の翼を持って生まれることは、まずあり得ない。皐が、産声を上げることなく、肉体らしい肉体を持たず、魂だけの存在と言っても差し支えない状態だったのなら、翼を持っていることは、あり得なくはない話である。

 アケミは、皐の両親が人間であり、産声を上げることなかった存在であることを、反芻していると、恵は、皐の父親に関することを話す。

「皐の父親は、たぶん今も生きている。皐の父親の敏彦は、自分を責めていると思う。私が、もう少し海で遊んでいたいって言ったから、帰るのが遅れて、近道をすることになったのに……」

と、恵は言う。

「近道をすることになったことと、皐ちゃんの父親が、自分を責めるのには、何か関係があるんですか?」

と、アケミは恵に聞く。速度超過や運転操作を誤って、崖の下に落ちたとか、曲線部を曲がり切れず山肌に激突したのなら、責めるのは解せるが、帰りが遅れ、近道したからと、皐の父親が自分を責めるのかが、解せなかった。

「近道の方は、海から来ると右折しないといけないんだけど、助手席側の道路の見通しが悪くて信号がついていたの。青信号になったからと丁字路に進入した時に、赤信号を無視したダンプが突っ込んできて……」

 アケミは、恵の話を聞き、天を仰ぐ。

「お盆近くに、海に行こうなんて私が言わなければ、こんな事には、ならなかったのに……」

と、恵は言う。

「でも、事故は不幸な偶然が重なって……」

と、アケミは恵に言うが、

「私が海に行こうなんて言わなければ、敏彦は自分を責めることに成らなかったし、皐も無事に……」

と、恵は、自分が事の発端だと責める。しかし、恵と敏彦が事故があった日に、海に行かなくても、悲劇が起きなかった保証は、何一つないはずだと、アケミは思う。自分を責めることで、逃避しているような気がしてならない。

 アケミは、恵にある質問をすることにした。

「恵さん、皐ちゃんの背中に悪魔と天使の翼が生えている理由を知ってますか?」

と、回りくどい聞き方をしないで、恵に尋ねる。


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