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二つの翼を持つ少女  作者: 春採太郎
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邂逅篇(出会い)

「本を読んでたのに、何時の間にか寝ちゃってたのか……」

と、木陰で何時の間にか寝ていたアケミが目を覚ます。こっちの世界は、することがない。することと言えば、本を読むくらいだ。本を読む気も失せてしまったので、散歩することにした。いくら代わり映えしないからとは言え、全く変化がないわけではない。注意深く観察していれば、些細な変化くらいは有る。

 いつもの散歩コースから少し外れて、違う道に入ると、声が聞こえた。子供たちの声だ。最初は遊んでいるんだろうなと思っていたのだが、能々聞くと、どうも様子が違う。誰かを責め立てているとか、虐めているというのが正確だろう。子供たちが居るところに、慌てて向かう。子供たちがいる場所に近づくと、話の内容が聞こえてくる。

「お前は、悪魔なのかよ!天使なのかよ!」

「そうだ!そうだ!」

「半端者」

と、誰かを囲んで、代わる代わるに責め立てていた。アケミは更に近づく。囲まれて、責め立てられているのが一人の少女であることを知る。その少女の背中には、ありえない組み合わせの翼が、生えていた。背中から生えている翼のことは、後回しにして、寄って集って責め立てていると言うより、虐めている子供を止めようと声を上げる。

「こらっ!あんた達、何してるの!」

と、アケミが声を荒らげると、蜘蛛の子を散らしたように一目散に逃げ出す。少女を虐めていた子供が居なくなると、すぐに傍に駆け寄った。

「もう大丈夫だからね」

と、少女に声をかける。少女は、俯き、泣いていた。アケミは、少女を安心させようと、背中を優しく撫でながら、

「もう、大丈夫だからね。あなたを虐める悪い奴は、追っ払ったからね……」

と、重ねて言う。少女は、なかなか落ち着かない。

 少女の背中を改めて見ると、ありえない組み合わせの翼が生えていた。同居していることが信じられない組み合わせである、白い鳥の翼のような天使の翼と黒いコウモリのような悪魔の翼が、片翼づつ生えていた。この組み合わせは、未だかつて見たことがない。翼を黒く穢し自我を失った天使だった何かや翼を黒く穢し悪魔として振る舞っている天使は、見たことは有るが……

 アケミが少女の翼を見て、いろいろと考えている間に、少女は泣き止んでいた。少女は、見ず知らずの女性に驚きつつも、声をかける。

「お姉さん、誰?」

と、少女に聞かれたアケミは、

「お姉さんの名前は、アケミ。あなたの名前は?」

と、答えつつ、少女の名前を尋ねる。

「私の名前は、皐。変だよね。私の翼…‥」

と、少女は自分の名前を言う。そして、自分の背中の翼のことを、変だよねと言う。皐にそう言われて、アケミは言葉に詰まる。皐に、何と言えば思い浮かばない。何も言わなければ、皐の変だよねを肯定しかねない。

「変じゃないよ。お姉さんも片方だけでも良いから、天使の翼が欲しかったな……」

と、皐に言う。片翼でもいいから、天使の翼が欲しかったというのは、でまかせではなく、アケミの偽らざる本音だ。あの時、片翼でも天使の翼があれば、結果は違っていたかもしれないからと……

 アケミの言葉を聞いて、皐は、

「本当?」

と、アケミに聞かれ、

「うん、本当だよ」

と、皐に言うと、皐の顔がほんの気持ち、明るくなったように見えた。

 皐は、落ち着きを取り戻したようだが、一人で家に帰すのは、物騒なので家の近くまで送り届けようと、

「お姉さんが、家の近くまでついていってあげようか?」

と、皐に聞くと、

「うん」

と、皐は答える。

 皐の家は、皐月が虐められていた場所から、子供の足で十五分くらいの距離にあった。皐がここまででいいと言うので、途中で別れることにした。

「アケミお姉ちゃん、ありがとう」

と、皐はアケミにお礼を言う。

「皐ちゃん、どういたしまして。バイバイ」

と、アケミが言うと、皐は手を振って、家の方に向かっていった。

 アケミは、帰り道、皐という少女のことを考えていた。皐という少女の背中の翼が、何故、天使と悪魔の翼の片翼づつなのかと……

 皐に、背中から生えている翼以外にも、気になると言うのか、違和感のようなものを覚えていた。悪魔でも、天使でもない、他の何かを宿しているようなと……

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