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二つの翼を持つ少女  作者: 春採太郎
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プロローグ

「気持ちよかったね」

と、女の人が男の人に声をかけたのだが、女の人の隣で、男の人は顔面蒼白になり、避妊具を見て、呆然としていた。

「つける時に爪を立てていたかして……」

と、男の人は、女の人に、状況を説明し始めたが、男の人の声は弱々しく、狼狽えていた。

 男の人が、顔面蒼白になり、狼狽え始めた理由は、避妊具に溜まっていなければならないものが、避妊具に出来た裂け目から漏れ出したためらしい。女の人は、狼狽えている男の人を落ち着かせるために、

「絶対妊娠するわけじゃないから」

と、言うのだが、男の人は一向に落ち着く素振りを見せず、狼狽えたままだった。女の人は、何を言っても無駄そうなので、自然に落ち着くのを待つことにしたが、その日、男の人は狼狽えたままだった。


「敏彦、試験も終わったし、海に行こ」

と、女の人は、男の人に、海に行こうと誘っていた。

「もう少し、お盆だぞ。お盆に、水辺に行くもんじゃないぞ」

と、男の人は言うのだが、女の人は、

「まだお盆じゃないし」

と、言う。しかし、男の人は渋い顔をする。お盆には、地獄の釜の蓋が開くと言われていて、水辺には近づくものではないと言われているからだ。男の人は、しばらく、考えてから、女の人に、

「漁師が出漁しているなら、海に行くか」

と、言う。

「本当!?」

と、女の人は半信半疑で、男の人に聞き返す。男の人は、女の人が海に行きたい気持ちに折れることにした。

「ああ、本当だ。親戚がこっちの方で漁師をしているから、何日から休漁するか、電話して聞いてくる」

と、男の人は、女の人に言う。

「うん、わかった」

と、女の人は、男の人に言う。女の人は、休漁が何日からなのかを聞いてく前から、海に行けると、小躍りしていた。勝手に結果を予想している女の人を、尻目に公衆電話のある場所まで駆け足で駆けていった。

 男の人が、電話で休漁日を聞いて戻って来た。女の人の望み通りの結果だったのか、男の人の口から出る言葉に、女の人は耳を傾ける。

「休漁日は、十三日からだと。だから、今日から五日以内なら大丈夫だ」

と、男の人は、女の人に言うと、

「準備も有るから、明後日にしよ」

と、女の人は、男の人に言う。

「準備ね。準備は弁当を含めて俺がするんだろ?」

と、男の人は、苦虫でも噛み潰した様な顔をしながら、女の人に言う。

「だって、私がお弁当を作ると、地獄を見るよ」

と、女の人は、何やら怖いこと言う。男の人は、何かを思い出したのか、顔から血の気が引いていた。


「海、最高」

と、女の人はハシャイでいた。男の人は、ハシャイでいる女人を尻目に、ビーチパラソルを立てたり、敷物を敷いていた。それが終わると、男の人は、煙草を吸い始めた。それを見て女の人が、男の人のそばに駆け寄ってきて、私の煙草はと、手を出すと、男の人が、煙草を渡す。女の人が煙草を吸い始めると、

「おっさんしか吸わないような煙草を、よく吸うな」

と、男の人が言う。

「仄かなバニラ香が好きだから」

と、女の人は言う。女の人は、煙草を吸い終わると、周りを見渡す。海に来ているのは、男の人と女の人の一組だった。

「私達で、独占だね」

と、女の人が言うと、

「車に道具を借りた親戚から教えてもらった、穴場だ」

と、男の人が言う。ジープタイプの四輪駆動車を借りた親戚の人から教えてもらった、穴場の海岸らしい。

 男の人がふと、腕時計を見るとあと数分で正午になるところだった。女の人が支度に手間取ったり、渋滞に嵌って街を抜け出すの時間がかかったために、海に着くのが遅れて、ビーチパラソルや敷物の準備をしている間に、もう昼になっていた。

「もう、昼だ。飯にしよう」

と、男の人が言うと、女の人は、

「お昼?やった!」

と、歓喜するのだが、男の人は、

「餓鬼か……」

と、呆れる。

 男の人が、クーラーボックスから重箱サイズのランチボックスを取り出し、敷物の上に並べる。フタを開けると、女の人は間髪をいれずに、弁当のオカズを自分の取り皿によそう。そして、オカズのザンギを男の人の口に入れる。

「美味しいでしょ?」

と、女の人は、男の人に聞く。

「うん、美味い」

と、男の人は言う。

「でしょ」

と、女の人が言うと、男の人は違和感を覚えて、よくよく思い出す。弁当を作ってきたのは、自分だったと……

「おい、その弁当を作ってきたのは、俺だぞ。そも、自分が作ってきました!なんて、真似をするな」

「バレたか……」

「バレます。バレない方がおかしい」

と、男の人は言う。弁当を作ってきた男の人は、

「他人の作ってきた弁当は、味はどうですか?」

と、女の人に聞く。

「美味しいよ。今度も頼むね」

と、どこか出かけるときは、また作ってきてねと、女の人は、言う。男の人は、聞くんじゃなかったと後悔する。

 昼食を終えて、少し横になる。隣で横になっている、女の人の水着を見て、男の人は、

「ずいぶんと刺激的な水着だな」

と、言う。

「今更?」

と、女の人が言うと、

「忙しくて、見る暇がなかった」

と、男の人が言う。それを聞いて、女の人は、口を尖らせる。そのことを知ってか知らずか、男の人は、

「水着を着てきたってことは、泳ぐのか?」

と、聞く。

「私、カナヅチだし……」

と、答える。それを聞いた男の人は、

「奇遇だな。俺もカナヅチだ。泳げないから、海に来ても、波打ち際で砂遊びをして終わりだ」

と、言う。

「砂のお城でも作る?」

と、女の人と、振ってくるが、

「もう、そんな歳じゃない。念願の海に来て、ハシャイでる彼女でも見てる」

と、言う。本音は、砂のお城でも作りたいところだが、弁当を作るのに、早起きして疲れていた。 

 男の人は、ウトウトしだして、何時の間にか寝ていた。目が覚めると、三時過ぎだった。女の人に、

「もう、帰るぞ」

と、言うのだが、

「もう少しだけ!」

と、女の人は言う。仕方がないので、男の人は、車にしまえる物だけしまうことにした。女の人が、車の側に来たのは、四時近くだった。

「帰りますか」

と、男の人が言うと、

「うん」

と、女の人は言う。女の人は、車のトランクに積んであるポリタンクの水で、砂を洗い落として、体を拭くと、服を着て、車に乗り込んだ。

 男の人は、忘れ物がないか、敷物を敷いていた場所に一旦戻り、周辺を見渡す。忘れ物がないを確かめると、急ぎ足で車のところに戻った。


 予定より、帰りが遅くなったので、近道をして帰ることにした。

「行きとは、違う道を通って、帰るから」

と、女の人に言うと、

「わかった」

と、言う。女の人は、なんとなくだが、帰りが遅くなったのが原因なんだろうなと思い、わかった以外は、何も言わない。

 二人を乗せた車が、海岸からの一本道から、信号機の有る丁字路に差し掛かると、信号機は青を示していた。信号無視で突っ込んで来る車が居ないか左右を確認して、右折するために、丁字路内に進入し、助手席が車線に被った瞬間、助手席側の道路から、大型ダンプが信号を無視して突っ込んできた。避ける間もなく、衝突した。

 男の人が、女の人の名前を必死に叫ぶ。それは断末魔の叫びや悲鳴に近かった。


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