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やりたい放題の異世界冒険者生活  作者: はいちれむ
シナリオ1 「おかしなゴブリンたちとその親玉」
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008 おかしな依頼

 冒険者とは、元々、文字通りに「冒険に人生を捧げる者」たちの通称だった。

 しかし、その人口が増えるにつれて、少しずつ意味合いが変わり始めた。

 力無き者たちが、町を訪れた力強き冒険者に、物事の解決を依頼するようになった。滞在費用などの報酬と引き替えに。

 やがては本来、「副業」でだったはずのその「依頼の解決」に、主眼を置いた冒険者たちが現れだした。


 そこから一気に、現在に至る冒険者文化が広まった。

 当初は荒事ばかりだった依頼の内容も、しだいに拡大されていき、ただの雑用までもが冒険者のナリワイになった。


 だから今でいう「冒険者」とは、「何でも屋」と呼ぶに正しい。

「魔物の討伐」「ダンジョンにしか自生しない植物の採取」などの、いかにも冒険者らしい仕事はもちろん、「ペットを探してください」「ここの掃除をしてください」といった平和な依頼も寄せられる。

 また、ギルドを通さない依頼には、「サクラ」「スパイ」「暗殺」などの、裏稼業的な仕事まであるようだ。


 とにかく幅広く、それでいてどれも肉体労働である点では共通している。

 しかも、おおかた実入りが割りに合わない。

 僕の前世なら、まずみんなが避けて通ろうとした職種だろう。


 だが、そこにファンタジーのエッセンスを加えるだけで、それは魅力的な仕事に変わる。


 この世界には多くの謎が残されている。

 踏破されていない場所も多い。

 冒険者として生きるうちに、その「謎」に手が届くかもしれない。

 そうすることで、歴史に名を刻めるかもしれない。


 あるいは純粋に、強さを追及する者もいるのかもしれない。

 自分がどれだけ強くなれるか、強くなれたかを知りたいのかもしれない。

 強くなり、人々から畏れられ、敬われ、「英雄」と呼ばれるほどの強者になれるかもしれない。


 たぶん誰もが少なからず、そういう好奇心や功名心に駆られ、憧れ、憧れに憧憬を抱き、そして冒険者になるのだ。


 だから結局、「冒険者文化」は変わっても、「冒険者」という職種の根源にあるものは、今でも変わっていないのかもしれない。



「妙な依頼ね」


 にぎやかな掲示板前にて、マーブルがそうつぶやいた。


 クラン《レイヴンズ》を結成した、翌日のことである。

 ついに依頼を受けるべく、僕とマーブルは再びギルドを訪れていた。


 掲示板には、大量の依頼が寄せられている。

 ざっと数えてみたところ、このときにも四十を超える紙片が貼り出されていた。

 紙は高価なのか、使い捨てであろうそれらの依頼票は、すべて羊皮紙だった。

 だから『冒険者心得』や『クランメンバー表』は、配布してはくれなかったんだな。


 で、依頼の内容は多岐に渡る。

 ラクそうなものだと、「庭の雑草抜きをしてちょうだい」「うちの施設でイベントやるから警備して」などなど。


 こういった雑務系の依頼の報酬は、おしなべて安い。

 一例としては、


---

〈依頼主〉精肉店マルコ

〈依頼内容〉ソーセージ作りの補佐

〈報酬〉日当7百シード

〈募集人数〉1~2人

〈場所〉メーシャル商業区4番地ワック通り7

〈依頼日時〉5月13日

〈期間〉本日より5月18日まで

〈必要冒険者レベル〉なし

〈推奨冒険者レベル〉なし

〈備考〉ワック祭に向けての準備で手が回らない。どうか冒険者のお力を借りたい。期間中はうちで寝泊まりして頂いて構わない。肉料理もお付けする。

---


 7百シードというのは、安宿「ジョージン」に泊まるのと同程度の金額である。

 この仕事の場合は、期間中の寝食が保証されるだけ良心的ではあるが、それにしたってせいぜい当座をしのぐ金しか稼げない。


 ただ補足しておくなら、この「7百シード」というのは、税金と仲介手数料が天引きされた金額だ。

 冒険者の大半は住民登録をしていないゆえ、住民税を支払う義務はないが、そのぶん所得税が高い。

 細かい数字は省くが、長く一つの土地に留まった場合、所得のうえでは市民のほうが有利になるよう、きちんと調整されているらしい。

 少なくとも、こういった「雑務系の依頼」をこなしている限りは、そうなる。


 そんなこともあって、「裏稼業」で生計を立てようとする冒険者崩れが、後を絶たないそうだ。

 もちろん非合法ゆえ、それはそれで国に処罰されるリスクが付いて回るが。


 さて、このような「雑務系の依頼」の報酬が少ない理由は、命の危険が少ないからだ。

 例外はあるものの、受注したからといって、たちまち窮地に立たされるような事態には巻き込まれにくい。


 それに対し、魔物、あるいは悪者を相手取るような「討伐系の依頼」は危険である。

 しかしそのぶん、実入りが良い。

 これも一例を挙げよう。


---

〈依頼主〉トドロ村・村長

〈依頼内容〉山賊の調査と殲滅

〈報酬〉5万シード

〈募集人数〉1パーティー

〈場所〉メーシャル西・トドロ村

〈依頼日時〉5月13日

〈期間〉依頼内容を完遂するまで

〈必要冒険者レベル〉なし

〈推奨冒険者レベル〉10

〈備考〉村の付近の山に、賊と思われる怪しい者たちがうろついている。どうかその実態をつきとめ、村に害をなす相手なら殲滅して欲しい。

---


 この例のように、山賊らしき者などが現れたとき、その初期調査は冒険者が請け負うのが通例のようだ。

 そして実際に山賊がいたとして、それが小規模な群れなら、そのまま冒険者が対処する。

 とても1パーティーでは対処できない規模だった場合は、あらためて大型の募集をかけるか、ことによっては、イスマニア本国に騎士団を派遣してもらったりとするらしい。

 この流れは、相手が魔物の場合でも同様である。


 この依頼票にある「5万シード」は、1パーティーに与えられる報酬額だ。

 つまり五人パーティーだったなら、一人当たりの手取りは1万シードになる。


 先の雑務系の依頼と比べれば、随分マシに思える金額だ。

 命を賭けるに値するかはべつとして。

 いずれにしても、こういった討伐系の依頼こそが、冒険者の花形と言えるわけである。


 して、話を戻そう。


 掲示板を見上げていたマーブルが、「妙な依頼ね」とつぶやいた。

「どれ?」と僕が訊くと、マーブルは「これよ」と、一枚の依頼票をペリッと剥がした。

 見てみると、こんな内容だった。


---

〈依頼主〉ネオネカ村・村長

〈依頼内容〉魔物の駆逐

〈報酬〉4万シード

〈募集人数〉1パーティー

〈場所〉メーシャル北東・ネオネカ村

〈依頼日時〉5月13日

〈期間〉依頼内容を完遂するまで

〈必要冒険者レベル〉なし

〈推奨冒険者レベル〉10

〈備考〉ここ最近、村にゴブリンが現れ、作物を荒らすようになった。ゴブリンは東の洞窟内に潜んでいるようだ。どうかゴブリンを駆逐し、村に平和を取り戻してほしい。

---


 おおぉぉ、ゴブリン。

 ゴブリン退治!

 なんて王道なんだ!

 やっぱ最初はゴブリンだよな!


 たかぶる僕だったが、マーブルは小難しい顔をしていた。


「どうしたの?」

「んー。これ、本当にゴブリンなのかしらって」

「どういうこと?」

「ゴブリンって肉食なのよ。野菜なんて食べないわ。だから、『家畜を奪われた』だったらわかるけど、『作物を荒らす』っていうのは意味不明よね。いつからあいつらベジタリアンになったのよ」


 マーブルは顎の下に指をやって続ける。


「菜食の魔物にでも指示されているのかしら。だとすると、指示する側は当然、指示される側よりも上位の存在になるわよね」

「もっと強い魔物が、背後にいるかもしれないと」

「そそ。ゴブリンなんかよりも、厄介なヤツと戦うことになるかもしんないわ」

「割りに合わない?」

「報酬的にはそうなるわね」

「じゃあ、やめとく?」

「ううん、やめない」


 マーブルは笑顔を咲かせた。


「面白そうなにおいがするし、これにしましょ? あたしたちの初仕事」


 マーブルは金にがめついが、それ以上に好奇心が旺盛なようだ。

 好奇心>強欲といった感じ。

 拾った僕に、寝食や装備品を提供してくれたのも、消費する金以上の興味を僕に抱いたからだろう。

 もちろん、クランメンバーとして目をつけたから、というのもあるとは思うけど。


 いずれにしても、僕に反対意見はなかった。

 ゴブリンである。

 冒険者生活の門出にふさわしい。


 羊皮紙をひらひらさせながら、依頼カウンターに並ぶ。

 先客は二組いた。

 待ち時間を活用し、僕はマーブルに疑問をぶつけた。


「〈必要冒険者レベル〉と〈推奨冒険者レベル〉ってなに?」

「そのまんまよ? 〈必要冒険者レベル〉は、参加者の平均レベルが、それに満たないと依頼を受けられない。強い魔物の討伐依頼とか、要人の警固依頼なんかに設定されてるわね。で、〈推奨冒険者レベル〉は、その依頼を受けるのに望ましい冒険者レベル。職員が依頼の難度を予想して付けてるんだけど、まあ、あくまでも目安よね。とくに討伐依頼なんかは、不測の事態が起こらないほうが珍しいくらいだし。これの場合だと、ゴブリンと戦うには、まるっきりの新人ではないほうが良いってだけの話」


 言っていることはわかるが、そもそも「冒険者レベル」が何なのかを僕は知らなかった。

 併せて訊いてみた。


「冒険者レベルも、書いて字のごとくよ。その冒険者の練度を示す数値。依頼をこなしていけば、ギルド側の査定によって上昇していくわ。ただ、冒険者レベルが高いからといって、必ずしも戦闘に秀でた冒険者とは限らない。レベル25前後までは、雑用メインでも上げられなくは無いらしいから」

「レベル25を超えると、雑用では上がらなくなるの?」

「そう言われているわね。討伐系の依頼でも、しだいに上がりにくくなるみたいだし。あと、依頼ごとの上昇幅は公開されていないけど、報酬額を基準にしているんじゃないかってウワサが、まことしやかに囁かれてるわ」

「ふーん」


 冒険者レベルは15もあれば初心者卒業、30で一人前、40もあれば熟練と見なされるそうだ。

 50にもなれば、その地方では知らない者がいないレベル、60ともなると、これはもう離れた都市にまで名声が届くほどなんだとか。


 ちなみに95パーセントの冒険者は、レベル40に達することなく引退するか、死ぬかする。

 レベル50に到達できる者は、ほんの一握り。

 レベル60は言わずもがな。

 上をめざすのは過酷な職業だ。


 付け加えるなら、レベル20に達した冒険者は、ベテランたちのあいだで『新世代』などと話のネタにされるらしい。


 順番が回ってきた。

 受付カウンターには、ミアカ嬢がいた。


「昨日は登録カウンターにいましたよね」

「担当は持ち回りなんです」


 と、『微笑みの通達者』は微笑んだ。


 マーブルが依頼票を、ぽいっとミアカ嬢へ投げ渡した。


「その依頼、あたしたち《レイヴンズ》が引き受けるわ」

「……作物を荒らすゴブリンの駆逐ですか。キナ臭さを感じますね」

「あら、あんたもそう思ってたんだ?」

「ええ。しかし特別に人的被害は出ていませんし、高ランクにする必要はないというのが担当者の判断です」


 ミアカ嬢は僕とマーブルに、七対三くらいの割合で目配せをした。


「ケイさんにとっては初めてのお仕事ですし、もう少し安全な依頼を選ばれてはどうでしょうか」


 親切にそう勧めてくれるが、マーブルはにべなく断った。


「もうそれに決めたの。平気よ、あたしが一緒なんだから。ほれ、はよタグよこしなさいな、タグ」


 ミアカ嬢はかすかに肩をすくめると、カウンターの下から冒険者証によく似たドックタグ型の物体を取り出した。

「依頼タグ」と呼ばれるものらしい。

 依頼ごとに番号が振り分けられており、一つの依頼に対し、三つのタグが用意されるそうだ。

 そのうち一つはギルド保管用、二つめは今もらった冒険者用。

 三つめは依頼者が持っており、依頼を達成すると渡してもらえるらしい。

 報酬は冒険者用・依頼者用のタグセットと引き替えで、ここの窓口でもらうシステムなんだとか。

 要するに依頼者は、依頼を持ち込んだ時点で、ギルドに報酬金を支払っていることになる(もちろん依頼が未達成になったときには、全額が依頼者に返還される)。


 ただしこれは原則であって、例外もある。

 たとえば、手紙で依頼が寄せられた場合だと、タグを依頼者に渡すタイミングがない。

 その場合、冒険者は依頼者から、直接報酬を受け取らなければならない。

 トラブルの原因になりがちなので、冒険者側もギルド側も、可能な限り「例外」は避けたいというのが本音のようだ。


「お気を付けてくださいね」


 と、ミアカ嬢は僕に上目づかいを送ってきた。

 ポーカーフェイス的な微笑なのに、心から懇願されているように感じた。

 この人が看板娘アイドルと呼ばれているゆえんは、その美しさだけではないようだ。

 そりゃあこんなふうに言われたら、男はたまらない。

 僕だってたまらない。


「なに鼻の下伸ばしてんのよ。ほれ、準備いくわよ、準備」


 マーブルに手の甲をつねられた。痛いって。

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