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やりたい放題の異世界冒険者生活  作者: はいちれむ
シナリオ2 「ご令嬢の深謀遠慮」
35/45

035 会談

 入口に近い、応接間らしき部屋へ通された。

 室内には大きな長机と、しっかりした椅子があって、装飾もきらびやかだ。

 なかでも目を引かれたのは、スミに鎮座した巨大な壷と、僕のような凡人には到底理解できないヘンな模様の絵画。


「どうぞ、お掛けになって」


 ラジェンタ卿みずから椅子を勧めてくれる。


 僕たちが雁首がんくびそろえて着席すれば、ラジェンタ卿は対面側に腰を下ろした。

 その彼女の脇に、デニス氏が直立して控える。

 トレストは部屋の片隅で、壁を背もたれにして佇んだ。


 そうして場が落ち着くと、ラジェンタ卿は、美しい顔に完璧な微笑みをたたえて言った。


「遠路はるばる、ご苦労さまでした。感謝いたしましょう、冒険者諸君。あらためまして、わたくしが依頼主の、ラジェンタ・アルニール・セントブラハですわ」


 短縮形だと非常にわかりやすい。


「セントブラハっていうと、えーと……あの?」


 新鮮な驚きを維持するアンナマリーに、卿はますます気を良くしたようで、


「ええ。この地を治める、ガルシア・セントブラハ公のことです。そして、その義弟にあたるロナルド・アルニール侯こそが、わたくしの父ですの」

「うひゃあ……」


 開いた口がふさがらない状態のアンナマリー。

 その横でマグダレーナは、途方に暮れたように瞬きをくり返している。

 僕は神妙な顔つきをしてやり過ごす。


「本題に入る前に、わたくしの身分について、少しお話しておきましょう」


 そんな一言を皮切りに、ラジェンタ卿は自身の立場と家系について、簡単に説明してくれた。


 まず、彼女の父・ロナルド侯は、ガルシア公の妻・レベッカ妃のご令弟だそうだ。

 すなわちラジェンタ卿は、ガルシア公の義姪にあたり、直接の血の繋がりはないことになる。


 で、彼女の父、ロナルド・アルニールは、侯爵様であらせられるようだ。

 ここより東方の、デンリッジ地方に領地を持っているとのこと。


 彼女、ラジェンタ卿自身はというと、領地を持っていない。

 父ロナルドから「子爵」の爵位を、母イルジナから「リーリウ」のミドルネームを貰い受けたのち、彼女は生まれ育ったデンリッジを離れ、ここゴーガスタに住み始めたらしい。


 つまり彼女の名前の変遷へんせんは、生まれたときがラジェンタ・アルニール。

 そこへ、叔母のレベッカがガルシア公に嫁いだことにより、ラジェンタ・アルニール・セントブラハに変化。

 さらに母・イルジナからミドルネームを受け継いだことにより、ラジェンタ・リーリウ・デ・アルニール・フォン・セントブラハという、今のかたちに至ったようだ。


 そんなラジェンタ卿だが、どうやら彼女は、セントブラハ一族であることよりも、アルニール家の生まれであることのほうに、より誇りを持っているようだった。

 セントブラハを語るときには、必ずアルニール家についても注釈を入れるなど、言動の節々からそういった傾向を感じる。


 また、彼女は現在十六歳らしい。

 可愛いというよりも美人なタイプの彼女だが、なるほど。

 得々と出自を語る表情には、まだ十代らしい、あどけなさが残っているようにも見えた。


 容姿といえば、なにより印象的なのは、その瞳である。

 わがままな輝きをした、しかし根底にある意志の強さの垣間見える、まっすぐな眼差し。


 まるで我らがクランリーダーみたいな双眸そうぼうだな、そんなふうに僕が思っていると、


「ほんで、その子爵サマが、何でわざわざメーシャルの冒険者ギルドへ依頼を出してきたわけ?」


 クランリーダーことマーブルが言い放った。


 いきなりタメ口なことにヒヤリとさせられたが、幸いラジェンタ卿は、失礼な冒険者を咎めようとはしなかった。


「少々、事情がありましてよ」

「どんなよ?」

「それについては、まだ内緒にしておきましょう。あなた方の働き次第では、お教えすることになるかもしれませんが」


 僕は小さく挙手をして発言した。


「働き次第というのはつまり、依頼の成果によるということでしょうか」

「そう受け止めていただいて構いません」

「依頼は、どんな内容なんです?」

「地下水洞の掃除ですわ」


 掃除……?

 と、思わず僕が目をすがめると、


「掃除といっても、ゴミ拾いをしてもらおうと言うつもりではありませんのよ。やっていただきたいのは、おもに魔物の駆除ですわ」


 ラジェンタ卿は優美に微笑んだのち、「デニス」とかたわらへ視線を走らせた。

 呼ばれたデニス氏は、「はっ」と半歩進み出て、


「地下水洞とは、その名の通り、地下に広がる洞窟であります。ここゴーガスタの北の町外れに、その入口がございます」


 たぶん「報告」の際に、先だって依頼の内容を聞かされていたのだろう、淀みなく解説してくれる。


 それによると、地下水洞は、コンタント王国時代の遺産らしい(コンタント王国とは、イスマニアに滅ぼされた、かつて英語にあたる言語を用いていた国である)。

 おそらくは、下水処理用に作られた施設と推測されているが、実際に使用された形跡はないそうだ。


 というのも、掘り進めていく最中に、天然の地下洞に行き当たってしまったらしい。

 そしてそこから魔物があふれ出したため、建設を断念し、以来、放置されたのではないかと言われている。


 今では洞内は、全面的に立ち入り禁止になっている。

 だが、内部の魔物が増えすぎると、何か不測の事態が起こるやもしれない。

 そこで定期的に、冒険者向けに「掃除」の依頼が出されるそうだ。


 ちなみに、水洞全体を埋め立て、諸悪の根源を断ってしまおうという意見も、かねてより存在するのだという。

 しかし、作業に掛かる費用の問題や、史実的価値を訴える声などから、今のところ実現には至っていないそうである。


「その魔物の駆除の依頼を、こたびは、皆さまに担当していただきたいと存じます」


 説明を終えたデニス氏が、もとの位置へ後退する。


 なんというのか、肩透かしを喰らったような気分だった。

 案外、依頼の内容自体は普通なんだな、と。

 ここまでずっと秘密にされていたくらいだ、もっと表ざたに出来ないような、特殊な仕事をさせられるものと考えていた。


 とはいえやはり、一筋縄ではいかない面もあるようで。


 最後にラジェンタ卿が、こんなことを言い添えたのだ。


「地下水洞のなかへは、わたくしも同行いたしますので」、と。

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