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やりたい放題の異世界冒険者生活  作者: はいちれむ
シナリオ2 「ご令嬢の深謀遠慮」
29/45

029 ゴーガスタへの道中1

 メーシャル南門は、この町において、最も人の出入りの盛んな要所である。

 正門、なんて呼ばれるくらいだ。

 門自体もひときわ大きく、高さは僕の背丈の三倍以上、幅に至っては大型トラックがすれ違えそうな程にある。

 まさしく「第一都市の玄関口」と称するにふさわしい威容だ。


 その南門の前、石畳で舗装された広場が、先方から指定された集合場所だった。


 僕たちがやって来たとき、先方はすでに、どデカい馬車を背景に待ち受けていた。

 偉丈夫たるデニス氏、うさんくさいエルフの神官トレスト氏。


 あと、彼らのそばには、見知らぬ女の子が二人立っていた。


 デニス氏の紹介によると、なんと彼女らは、僕たちと同じく、この依頼を受注した冒険者なのだという。

 昨日、僕たちが帰ったあとに、蒼羽亭を訪れたのだそうだ。


「ボクはアンナマリー・トーカス! 職業は戦士だよ! よろしくねっ!」


 明るい笑顔で名乗った彼女は、赤毛のショートヘアーで、セリフの通りにボクっ娘のようだった。

 戦士の自称にふさわしく、背中に大剣をたずさえており、装備は露出の多い革製の鎧。

 けっこうな谷間がくっきり見えていて、目のやり場に困る。

 身長は、僕よりも少し低いくらい。


 もう一人は打って変わって、物静かな雰囲気の少女だった。


「わたしはマグダレーナ・ギッフェン。魔法使いです」


 彼女は、綺麗な刺繍の入ったローブを着込んでいた。

 ウェーブした紫色のロングヘアーと、左目の下にある泣きボクロ、それにやや眠たげな瞳が印象的。

 体付きは豊満ではないが、妙な色気をまとっている。

 背丈はアンナマリーよりも低い。


 歳はどちらも、僕とマーブルの、一つか二つ上といったところだろうか。


 そんな彼女らは、《フォフォンナハマ》というクランに属しているそうだった。


「といっても、ボクとマグ、二人だけのクランなんだけどねー」


 アンナマリーが「たはは」と笑えば、マーブルも笑顔で返す。


「うちも三人だけよ。あたしとケイたん、あとそっちがヴィオラ」

「え、そうなん? レイヴンズって最近よく耳にするから、もっと大きいクランなのかなって思ってた」


 あんまり良いウワサは流れてなさそうだなあ、なんて思ってしまう。


「にしてもさ」とマーブルが言った。「よくもまぁあんたら、こんな胡乱うろんな依頼を受ける気になったわね?」


 依頼主を前にして、「胡乱な依頼」はないだろう。

 今さらな話だが。


 アンナマリーはカラカラと笑い、


「意味不明なくらいのほうが、楽しいしさ!」

「へぇ? なによあんた、わかってんじゃないの」

「だろだろー」


 なかなか相性が良いようで、意気投合している。

 まあ、この「おかしな依頼」に飛び付いた者同士という時点で、二人の感性に通じる部分があるのは確かだろう。


「盛り上がってるトコすまねぇが」トレスト氏が割って入った。「そろそろ出発しようぜ、お嬢さんがた」


 デニス氏に「どうぞ」と勧められ、馬車へ乗り込む。

 四頭引きの大きなやつだ。

 天幕もついており、多少の雨なら問題にしなさそう。

 さすが貴族の所有物というのか、馬車の仕様など知らない僕にも、これは豪勢なヤツだなとわかる。


 デニス氏が手綱を握り、我々を乗せた馬車はメーシャル南門を発った。



 第二都市ゴーガスタまでは、五日間ほど掛かるそうだ。

 行き帰りで十日。

 その十日間を含める都合上、「十五日程度」なんていう長期の依頼になってしまったようだ。


 で、デニス氏にいろいろ聞いてみたところ、この馬車の平均速度は10キロ前後らしい。

 ウマの疲労を考慮して、一日の走行時間は15時間まで。

 すると一日に進む距離は、150キロくらいってことになる。

 誤差はあろうが、メーシャル・ゴーガスタ間の距離は、おおよそ750キロ程度のようだ。


 750キロっていうと、東京を出て、ギリギリ広島に着けるくらいだろうか。

 日本で生まれ育ち、海外へ出た経験のなかった僕からすれば、かなり遠いように思える距離だ。

 だけどたとえば、これがアメリカ住まいの人なんかだと、「そこまで遠くない」って印象になるんだろうか?


 ちなみに、現地人たる同乗者たちにとっては、「まあそんなもんじゃない?」という感覚らしかった。

 すなわち、同国内の都市同士が750キロ離れていても、べつに普通って感じらしい。


 そこから察するに、このニューラウノ大陸はかなり広大なようだ。

 少なくとも、日本的感覚とはかけ離れている。

 地図で確認してみたい気もするが、おそらくこの世界でいう「地図」は、それを見たからといって、距離間がわかるような書き方はされていないだろうな。

 それこそファンタジ―映画に出てくるような、のっぺりとした、簡素な地図しかないんじゃないだろうか。


 とにもかくにも、五日間の旅路だ。

 決して短くはない。

 せっかくの道中、楽しく行きたいものだが――


 そんなふうに思った僕だったが、心配はいらなかった。

 なぜならアンナマリーが、盛大に会話と笑顔を振りまいてくれるからである。


「ボクとマグはね、フォフォン島の生まれなんだ」

「フォフォン島?」


 首をかしげた僕に、アンナマリーは「うん!」と元気良くうなずく。

 その拍子に胸も元気良くはずむ。


「この大陸の東に浮かぶ孤島だよ! で、ボクたちはね、そこのナハマって集落で育ったんだ!」

「あぁ……それでクラン名が、《フォフォンナハマ》?」

「そーそー!」


 アンナマリーは、マグダレーナとの「馴れ初め」についても語ってくれた。

 二人は、幼馴染って間柄らしい。


「マグはさー、同年代の男の子たちに、よくからかわれてたんだ。昔っから大人しい子だったから」


 マグダレーナが、「ちょっと、アンナ」と肩をつかんだが、アンナマリーは弁を止めない。


「んで、毎回ボクが助けてたんだけど、そしたらマグ、ボクになついちゃってさ。どこへ行くにもついて来るようになって」

「もう、アンナ……恥ずかしい」


 恨めしそうに親友を睨むマグダレーナだったが、本気で嫌がっているわけではないことは一目瞭然だった。


 なんというのか、ヒマワリとカスミソウって感じの二人だ。

 この喩えは、我ながらうまいこと言ったと思う。

 なぜなら、ヒマワリとカスミソウがあった場合、目立つのは確かに前者だろうけど、その足元に咲いた後者のほうが好きって人も、世の中には大勢いると思うからだ。

 何が言いたいかというと、彼女たちはどっちも、花のようにチャーミングな女子だってことである。


 そのチャーミングな二人は、隅でちょこんと三角座りしたヴィオラへ興味を向けた。


「ヴィオラだっけ? 可愛いよねー」

「うん、可愛い」


 にじり寄っていくアンナマリーとマグダレーナ。


 そのさまに警戒心を抱いたのか、ヴィオラは膝に乗っけたクマを抱きしめ、身を縮めた。


「よ、寄るでない」

「寄るでない、だってさ! 可愛い!」

「うん、可愛い」


 可愛いか可愛くないかで話が進行していくノリは、まんま陽キャな女子高生だ。


「ヴィオラちゃんは、おいくつ?」

「む、我は五十歳」

「えーっ、五十歳とか! そんなバカな!」

「ありえなーい」

「あ、髪の毛さらさら! いいな!」

「こ、こら、触るでないっ」

「いいじゃん、いいじゃん!」

「ヴィオラちゃん、本当はおいくつ?」

「五十歳だといっておろう」

「まだ言ってるー!」

「ありえなーい」


 べたべたとボディータッチされ、ヴィオラはたじたじだ。

 そのありさまを見てマーブルは爆笑。

 ……笑うのは良いが、それを切欠に喧嘩しないでくれよ。

 馬車が破壊されたら色々困る。


「華やかだねぇ、女性陣は」


 車内後方、僕の隣で足を崩したトレスト氏が言った。


「そうですね」


 無難に返しつつも、いささかホッとしたものを覚える僕だった。

 僕はホモではないが、この場に男がいてくれることは、精神衛生上のぞましい。

「華やかな女性陣」は、眺めるぶんには目の保養になって良いが、いったん盛り上がったそこへ入っていくのは、男の身だと厳しいのである。


「どうやら道中、お前さんと話す機会が一番多くなりそうだ」

「そうですね」


 僕は同じセリフを用いて同意を示した。

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