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やりたい放題の異世界冒険者生活  作者: はいちれむ
インターミッション1
21/45

021 基礎魔法学と適性調査

 魔術師ギルド内にある図書館は、広々としていたが、蔵書量はそれほどでもなかった。

 ザッと見た限りでは、千に満たない程度の文献しか置かれていない。


 驚いたのは、すべての本が、細い鎖で保管箱チェストと繋がれていたことだ。

 保管箱はせいぜい二メートルくらいの高さで、前面はガラス張りである。

 それがのべ十五台ほど設置されており、またそれぞれの保管箱の前には、長机と椅子が置かれている。

 鎖の届く範囲で読んでね、ということらしい。


 これはむろん、盗難防止のためだろう。

 印刷技術がないこの世界では、書物というのはとにかく貴重なもののようだ。

 当然、本の持ち出しも禁止されており、この場で閲読するしかない。


 館内では数名が読書に励んでいた。

 案内してくれた受付嬢が去ったのち、僕も本を手にとって座り、周囲の静けさに溶け込む。


「誰にでもわかる☆基礎魔法学の解説書」という、なるべく易しそうなタイトルを選んだつもりだが、それでもなお中身は難解だった。

 ただページ数的には控えめで、二時間もあれば読破することが可能だった。


 そしてそれを読んだことにより、この世界の魔法の概念について、一定の知識を得られたように思う。

 以下に、会得したことを僕なりにまとめて書いてみよう。



 魔法を語るうえで、最も基礎となる部分、ならびに最も重要となる要素が二つある。


 その一つが、マナ。

 もう一つが魔力だ。


 前者のマナについて説明しよう。


 マナとは、自然界に、自然に存在するものである。

 空気中をふよふよと漂っている(水中や地中にもあるようだが、話が煩雑になるためここでは省く)。


 いうなれば空気中の成分だ。

 窒素があって、酸素があって、アルゴンがあって二酸化炭素があって、マナがある。

 そんな感じ。

 無味無臭で、後述する「例外」を除けば不活性な存在らしい。


 マナには多くの種類があり、火のマナ、水のマナなど、確認されているだけでも十以上の属性に分かれている。

 常に全属性のマナが均一にあるわけではなく、暑い場所では火のマナが多かったり、風の強い日には風のマナが多くなったりと、環境的な(あるいはそれ以外の要因による)変化があるようだ。


 そしてマナは、魔法の実現を助けてくれる。

 魔法を唱えようとすると、空気中のマナが反応し、術者のもとへ集まってくるのだ。

 そうして集まったマナは、術者の思い描く魔法イメージと、現実に起きる事象との架け橋を担ってくれる(先述した「例外」がこれだ。つまりマナは、人の精神にのみ活性を示す)。

 より具体的にいうなら、マナは術者の心内の魔法イメージにとりつき、それを現実世界に干渉するレベルにまで増幅してくれるわけだ。


 このマナの働きがなければ、人が魔法という超自然的な力を振るうことは決してできない、というのが現在の基礎魔法学の定義らしい。

 よって、マナはまさしく魔法の源なのである。


 次に二つめ。

 魔力について話そう。


 といっても、これに関しては深く語る必要はあるまい。

 読んで字のごとく、魔法を使うための力である。


 ただ、ちょっと意外だったのが、「魔力はすべての人間が持っている」という一文だった。

 魔法を使えない者でも、魔力自体は持っているというのだ。

 すなわち、魔力の存在そのものは、魔法を使うための条件には当てはまらないことになる。


 では一体――すべての人間が魔力を持っているのにも関わらず――なぜ、魔法を使える者と、そうでない者とに分かれるのか?


 その答えは、やはりマナにあった。

 というのもマナは、すべての人間の精神に反応するわけではない。

 マナの反応を得られる人と、得られない人とがいるのだ。

 その違いがまさしく、魔法を使えるかどうかの差を生むのである。


 つまるところ、この世界でいう「魔法の才能の有無」とは、「精神の呼びかけにマナが反応するか否か」であると換言できよう。


 そして、魔法を使える者のなかでも、どの属性のマナの反応を得られるかは個々によって違う。

 それにより、使用できる魔法の属性にも差が出てくるわけである。

 当然、多属性を扱えるほうが優秀とされるようで、保有する魔力量と併せ、魔法の才能を測る尺度として語られる点らしい。


 以上が、基礎魔法学なるものの概要である。



「なるほどな」


 と得心しつつ、図書館を出てロビーへ戻る僕だった。


 ひとまず魔法がどういうものか、大ざっぱには理解した。

 あとは自分にそれを使えるか、そこが肝要である。


 先ほどの受付嬢に、「魔法の適性を調べたい」と申し出たところ、図書館があったのとは違う通路を示された。

 正午を過ぎ、館内は混み始めていて、受付嬢にも案内をする余裕が失われていた。

 僕は一人で指定された部屋へ向かう。


 広い通路の両側には、幾つものドアが並んでいた。

 なかには魔方陣が描かれた、いかにも魔術師ギルドっぽい扉もあった。

 しかし興味を惹かれるものの、勝手に室内を覗くのはやめておく。

 ギルド側の心証を損なうと、後々に響きそうだからな。


 やがて受付嬢に聞いた、『適性調査室』のプレートがはめ込まれた扉に行き着いた。

 ドアノッカーがついていたので、ゴトリと鳴らす。


 ややあって、内開きのドアがひらかれた。

 出迎えてくれたのは、ねずみ色のローブに身を包んだ女性だった。

 フードを目深にかぶっており、ルックスも年齢も判然としない。

 判然としているのは、バストが豊かということくらいだ。

 ローブをまとっていても一目瞭然なくらい、彼女の胸は大きく張り出していた。


 危うく目を奪われそうだったのを堪えつつ、僕は告げた。


「受付で聞いて来ました」


 するとギルド員であろう彼女は、存外明るいボイスで、


「どうぞ、お入りくださいなのです」


 と招いてくれた。


 適性調査室は、狭い部屋だった。

 調度品としては、大きな机と椅子のほかに、書架が一台あるだけ。


 だが、机上へ目をやれば、そこに異様なものが鎮座ちんざしているのが見て取れる。

 異様といっても、物騒なものという意味ではなく、巨大な水晶玉だ。

 バスケットボール並みのサイズがあるやつ。


「適性調査専用に作られた、マジックアイテムなのです」


 机を挟み、あちら側に立ったフード女が解説してくれた。

「どうぞお座りくださいなのです」と、椅子も勧めてくれる。

 親切ではあるが、ちょっとクセのある喋り方をする人だ。


 僕が座ると、彼女は自分も腰を下ろしつつ言葉を続けた。


「認証水晶のように、触れるだけで、適性のある属性を知ることができるのです」


 庶民としては、この「マジックアイテム」のお値段が気になってしまうが、聞かないほうが身のためだと自重しておく。

 あの小さな認証水晶ですら百万シードらしいし、こっちの価格は青天井だろう。

 誤って落下させたらどうしようとか、無駄な緊張を抱えたくはない。


「こうやって、両手を乗せればオッケーなのです」


 説明する義務があるのか、先に実演してくれる。


「おっ……」


 と僕は目をみはった。

 フードの彼女が両手を乗せたとたん、水晶の内部に、五色のビー玉のような球体が現れたのだ。

 赤、青、その青よりも色素の薄い青、あとは茶色と黄色。


 何となくだが予想がつく。

 たぶん赤は火属性、青は水属性、薄い青が氷属性、茶色は土属性。

 黄色は……なんだろうな。光属性か?


 案にたがわず、フードの彼女はこう言った。


「わたしは火属性と水属性、氷属性、それに土属性と光属性を扱えるのです。それがこんなふうに、色でわかる仕組みなのですよ」

「なるほど」


 僕はうなずき、それから訊ねた。


「もしも魔法が使えない場合は、どうなりますか?」

「その場合は、どの色も浮かんでこないのです」


 何色でも良いから、ぜひとも浮かび上がって欲しいものである。


 フードの彼女が手を離すと、ビー玉のような光はスッと消失した。

 それから彼女は、僕に「どうぞなのです」とうながした。


 僕はゴクリと唾を飲み込む。

 伸ばした両手を、おっかなびっくり冷たい水晶に添える。


 運命の一瞬――


「わわぁっ!?」


 すっとんきょうに叫んだのは、フードの彼女の側だ。

 彼女は同時に、机上へ身を乗り出すようにしていた。

 その拍子にフードがずれて、わずかに前髪と顔が覗く。


 彼女は明るい茶髪と、まんまるなとび色の瞳をした別嬪べっぴんさんだった。

 幼い印象の口調とは裏腹に、僕よりも年上のようにも見受けられた。


 そして彼女は、セリフのとおりに驚愕をあらわにしていた。


「黒に近い紫……こ、これはっ……」


 目をこすり、確認するように何度も水晶を凝視しなおす彼女。


 黒に近い紫。

 それが水晶内部に現れた色だ。

 いや、それだけではない。

 他にもいくつかの色が浮かんでいる。

 が、それら「他の色」がかすんでしまうほどに、「黒に近い紫」の存在感が圧倒的だった。

 それは「黒紫」の光が大きいからでもあるし、またその輝きが強いからでもあった。

 他の色とでは、一等星と三等星くらいの差がありそうだ。


 とすると、おそらくはこの「黒紫」色が、僕の得意な属性ということになるんだろう。

 何属性かはピンとこないが。


 とにもかくにも、自分に魔法の才があることが判明し、安堵を覚えた僕だったのだが。


 どうも事態は、そんなに穏やかではないようだった。


「あ、あの、あなたっ!」


 いきなり大声を出され、僕は面食らいつつ「はい?」と返した。


「あなたはどういう……いえ、ちょ、ちょっと、こちらでお待ちくださいなのです! ま、待っててくださいなのです、絶対に! 絶対なのです!」


 大慌てで僕に言い付け、立ち上がったフードの彼女は、バタバタと奥の扉へ駆け込んでいく。


 その間際だった。

 彼女は高音で、こんなことを口走った。


 ――まさか、冥属性の使い手が現れるだなんて!

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