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やりたい放題の異世界冒険者生活  作者: はいちれむ
シナリオ1 「おかしなゴブリンたちとその親玉」
15/45

015 ドミネーティド・ゴブリン

 分岐まで戻り、反対の道へ入ると、すぐに新手と遭遇した。

 やや警戒したような素振りで徘徊していた、ゴブリン二体。


 そしてそれを撃破するや、にわかに騒然としたムードが行く手から漂い始めた。


「バレたっぽいわね。侵入者アリーって」


 マーブルは屈託なく言う。

 いやそれどころか、愉快げに口をゆがめてすらいた。


「バレちゃったもんは仕方がないわよね」

「まぁ」

「一気に行きましょ!」

「おうおう」


 僕たちは小走りに進んだ。

 そこからはずっと一本道だったが、一箇所だけ大きなカーブに差し掛かった。

 その先でまた、二体の、斥候せっこうらしきゴブリンと鉢合わせした。


「邪魔よ、邪魔邪魔っ!」


 マーブルのダガーがひらめく。

 走るついでに殺すという感じである。

 それでも返り血は避けているんだから、器用なものだ。


 ボヤボヤしていると置いて行かれてしまうので、僕も立ちふさがろうとしたゴブリンに、全力の顔面パンチをお見舞いした。

 数メートル飛んでいき、床に叩きつけられた敵は、ねじ切れそうなほどに首が曲がっていた。即死だ。


 ……ちょっとゾッとする。

 我ながらシャレになっていないパワーである。

 この能力的なものの詳細は、早いとこ解明しなきゃマズイとあらためて思う。

 じゃないと、また対人戦を挑まれたりしたときに、重大な何かをやらかしてしまいそうだ。


 まあしかし、それもこの依頼をクリアした後での話。


 ほどなく通路は終わり、松明の燃える大部屋的な場所に出た。


 そこには、三体のゴブリンのほかに、もう一体――赤色の肌をした魔物が待ち構えていた。

 赤色のヤツは、僕と同程度の身長がある。

 手にした得物も、通常のゴブリンと同じく骨製ながら、剣のように長く、先が尖ったものだ。


「ホブゴブリンよ」


 マーブルが言った。

 こいつが親玉か。


「……ニンゲンノ、オンナ」

「!?」


 こいつ、喋るぞ!?


「オトコハ、コロセ」


 グギャギャー! と、赤いヤツを取り巻くノーマルゴブリン三体が騒いだ。


「オンナハ、カウ」


 ギャギャギャー! と、またゴブリンどもの合いの手。

「カウ」というのは「買う」ではなく、たぶん「飼う」だろう。


「公用語を覚えてるなんて、とりわけ優秀なホブちゃんってとこかしら」


 喋るのが普通というわけではないようだ。


「でも、言ってることは低俗よね。カラスのほうがよっぽどお利口さんだわ。マトモな挨拶もしてくれるし」

「ん? カラスって喋るの?」

「喋るわよ? おはようって毎朝挨拶してたら、オハヨーって返してくるようになったもん」

「えっ、マジか、すごいな。オウムみたいだな。カラスって頭良いんだな」

「オマエラ、ウルサイ」


 ホブゴブリンにツッコまれた。

 ほかのゴブリンらも、「まったくだ」と言わんばかりにうなずく。

 こっちが悪いことしたみたいな空気になった。


「ヤツニバレタラ……殺サレル。ダカラ、オンナハ、コッソリ飼ウ」

「?」

「オトコハ、殺シテ外ヘ捨テル。カンペキ。コレデ俺タチ、殺サレナイ。数ヲ増ヤセル。俺タチ、繁栄スル!」


 グギャギャギャー! とノーマルゴブリン共が、血気盛んに得物を掲げた。

 よくわからない感じに盛り上がっている。


「何言ってんのか意味不明イミフだけどさ。ハッキリしてんのは、あんたらの余命が、二分を切ってるってこと。だから、死ぬ前に答えなさい」


 マーブルはダガーで赤いゴブリンを指しつつ、


「あんたら、なんで畑を荒らしたのよ? 野菜なんて食べないでしょーが。しかも盗った作物がどこにも見当たらないし、何に使ったの」


 ゴブリンどもは答えなかったが、マーブルは構わずに続けた。


「もう一つ。あんたらと一緒に、人間の女の子がいたって情報が挙がってるわ。さらったんでしょ? その子がどこにいるのか、すみやかに吐きなさい」

「オンナ……」


 反応があった。

 ホブゴブリンはそうつぶやくや、ぶるりと全身を震わせたのだ。

 まるで何かに怯えたように。


「ヤツハ……オンナ、ナドデハナイ。アレハ……ア、悪魔ダァ……」


 心なしか、赤い顔を青くしているように見える。

 ほかのゴブリンたちも、急に寒さを覚えたように身を縮ませていた。


「悪魔って、どういうことだ? キミたちがさらった、女の子のことを訊いてるんだぞ?」


 僕は追及するも、彼らにはもはや応じる気はないようだった。


「バレタラ、殺サレル……コッソリ、ヒッソリ飼ワネバ」


 ホブゴブリンは、こちらを威嚇するように骨剣を一振りした。


「オマエラ、ナカマヲ減ラシタ」

「そうね。見かけたヤツは、皆殺しにしたわよ。そんで?」


 しれっと応酬したマーブルに、ホブゴブリンは醜悪な笑みを浮かべて言い放つ。


「ソノブン、オマエニ産マセテ増ヤス!」

「うっさい黙れ!」


 マーブルは吐き捨てた。


「小汚い魔物のブンザイで、さっさと死ね!」



 そうして始まった戦闘だったが、数秒のうちに大勢は決した。


 そもそもだ。ゴブリンは、そこまで戦闘に秀でた魔物ではない。

 ことノーマルゴブリンに関していえば、せいぜいが人並み。

 ただ、その攻撃的な本能と、積極的に人に害をなす習性、あとは著しく高い繁殖力が問題視されるくらいで、この程度の規模の群れなら、ネオネカ村の村民たちが、みずから対処することも出来なくはなかったはず。

 もちろん、「この程度の規模の群れ」とは判明していなかったし、戦えば村民に犠牲が出ることも免れないから、彼らは冒険者を頼ることに決めたんだろうが。


「魔物はしょせん、魔物」


 マーブルは腰に手をやり、転がったノーマルゴブリンの死体を見下ろして言った。


彼我ひがの力量差を見極めようとしないから、こうやって呆気なく討ち取られる。動物のほうがまだ賢いわ。知ってる? ライオンだって、自分たちが勝てない人間からは逃げるのよ」


 ゆいいつ残ったホブゴブリンが、じりじりと後ずさる。


 彼の背後には、一本の通路があった。

 退却するつもりだろうか。


 だが、待ってみても、彼は通路へ入ろうとはしない。

 ギョロギョロと忙しく目玉を動かし、僕とマーブルの動向に注意を払っている。

 気圧されてはいるようだが、まだ闘争本能は失われていないようだ。

 ある意味、あっぱれな心意気だろう。


「ほれほれ、逃げれば、五秒くらいは寿命が延びるかもしんないわよ?」


 マーブルに煽られ、ホブゴブリンは忌々しげに顔をゆがめた。


「奥ニハ、悪魔ガ……悪魔ガイル。悪魔ハ……俺タチヲ決シテ許サナイ」

「悪魔ぁ? さっきも言ってたわよね。何あんたたち、魔物のくせにケンペロ信仰でもしてるわけ?」


 ケンペロというのは、広く「邪教」として知られる宗教の主神だそうだ。


「アンナモノヲ、拾ワナケレバ……俺タチハ、モット繁栄デキタ!」


 ホブゴブリンは地団駄を踏んだ。

 目が血走っていた。

 骨剣を握る手に、血管が浮き出ていた。


「オマエニ……オマエニ子ヲ産マセ、繁栄スル! ソシテ、アノ悪魔ニ復讐ヲ!」


 ヤケを起こしたように、ホブゴブリンはマーブルへ向かって突進を始めた。


 だが、それと同時に僕も駆け出していた。

 敵がマーブルに到達するよりも早く、僕が敵に追いついた。

 僕はそのまま、横合いから敵に飛び蹴りをかました。


「グガァッ!」


 ホブゴブリンは転がった――が、いまいち手応えを感じない。

 接近したのに、相手の動きはとくにスローにもならなかった。

 ……あれ、なんでだ?

 この場合だと、僕が「当事者」とは見なされないのか?


「ナイスよ、ケイたん!」


 僕の異変(?)には当然気付かず、マーブルは起き上がろうとする敵へ迫った。

 ホブゴブリンは、尻もちをついたまま骨剣を振るが、そんな腕力だけの攻撃をもらうマーブルではない。


「はっ!」


 側転の要領で骨剣を避けつつ、マーブルは片手でダガーを突いた。

 その刃は、ホブゴブリンが骨剣を握る手の甲に、深々と刺さった。


「グガアァァ!」


 骨剣を落とすホブゴブリン。

 その敵の顔面へ、体勢を整えたマーブルは、強烈な回し蹴りを叩き込む。


 ホブゴブリンは、なすすべなく仰向けに倒れた。

 マーブルは即座にそのマウントを取ると、青い血のしたたるダガーを掲げ、刃を下向きにして、


「冥土の土産に聞かせてやるわ」


 憎らしげに牙をむいた眼下の敵へ、ステキな笑顔でこう告げた。


「あたしは《レイヴンズ》リーダー、『舞兎』マーブル・フレサンヌよ。あの世でも宣伝よろしく♪」


 ホブゴブリンは、聞きたくもないであろう名乗りを聞かされながら絶命した。

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