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やりたい放題の異世界冒険者生活  作者: はいちれむ
シナリオ1 「おかしなゴブリンたちとその親玉」
13/45

013 洞窟への道とスクロール

「ゆうべはお楽しみでしたね」とは、かの有名RPGのセリフである。

 勇者が姫と一緒に宿泊すると、宿の主人がそんなふうに朝の挨拶を述べてくるのだ。

 しかし、かりにも勇者と姫を相手取って「お楽しみでしたね」とは、宿の主人の肝の据わり方って尋常じゃないよな。


 いや、べつにこんな話をしたからといって、村長ドノに「ゆうべはお楽しみでしたね」とニヤニヤされたわけではない。

 彼は粛々と、出立する僕とマーブルを見送ってくれた。


 鳥が起き出すような時刻である。

 近頃、早寝早起きの連続で、このままでは僕はどんどん健康体になってしまいそうだ。

 良いことである。


 村を出る前に、襲撃されたという畑を見物した。

 なるほど、ひどいもんだった。

 土起こしの最中かというような荒れ具合で、ところどころクレーターみたいな穴まで空いている。

 こんなことを続けられては、間接的に村は滅びるだろう。

 原因を取り除いてやらねばならない。

 すなわちゴブリンどもには、すみやかな退場を願おう。


 時々、民家の窓から視線を感じた。

 朝早いにも関わらず、村を救ってくれるらしい冒険者の顔を、一目見ておこうとする人が多いようだ。


 しかしその視線の大半は、僕とマーブルを確認すると、やはり懐疑的なものへと変化するのだった。

 まあ、わからんでもない。

 十五の少年と少女だもんな。

 ギルバートみたいなごっついヤツのほうが、見た目の期待値は上だよね。


「こういう視線をさ、しっかり憶えとくと良いわよ。あら、人ってこんな簡単に変わるんだ、っていうのが良くわかるから」


 悪巧みするような顔をして言うマーブルだった。

 言われた通り、僕は肌と心に刻みつけておく。

 この不審の目が、感謝や尊敬の眼差しに変わるとすれば、それはとても気持ち良いことに違いない。

 人の尊敬を集めて自尊心を満たす、まさに冒険者の醍醐味だいごみの一つだろう。

 僕の場合、いざそうなったら、照れのほうが前面に出てしまいそうな気もするが。

 どうにも小心なもんでね。


「さ、ゴブリンどもを処刑しに行きましょ」

「おうっ」


 気勢を上げつつ、僕とマーブルはネオネカ村を後にした。



「村に流れる川」というのは、人工的に造られた用水路だった。

 灌漑かんがい、というやつだ。


 それを十五分も遡れば、本流であろう河川との境界についた。

 本流はけっこう川幅があって、水量も豊かだ。

 こっち側は平野続き、向こう岸は森林地帯と、くっきり分かれているのが特色だった。


 歩けど歩けど、ポツポツと樹木が生えている以外は何もない。


 時おり見かける木の上では、モズっぽい鳥がヒナにエサをやったりしていた。

 その巣を狙って木登りする、アオダイショウみたいな蛇もいた。

 さらには休憩中、偶然足元にいたカマキリが、「きしゃー」と威嚇してくることもあった。

 そういえば町にカラスもいたし、マーブルに『舞兎』なんて異名がついているあたり、ウサギも一般的な動物なんだろう。付け加えるならゴリラもだ。


 こうしてみると、この世界の動物の生態系は、僕の生前の世界とさほど差がないらしい。

 もちろん「魔物」という異質な存在がいる以上、両世界を同じ目線で語ることはできないが。


 二時間ほど進むと、遠くに隆起した地形が見えてきた。

 近付くにつれて、どうやらそれが、くだんの「山」らしいことがわかってくる。

 赤茶けた岩山という感じで、ピクニックには向いていそうにない。


 山のほうへ入っていく坂道があったので、それを登った。

 地図と照らし合わせれば、このあたりに目的の洞窟があるはずなんだが――


 そう思っていた矢先、岩肌にぽっかりと空いた穴を発見。


「アレかな?」

「そうっぽいわね」


 拍子抜けするほどにあっさりと、「洞窟」まで辿り着くことができた。


 周囲を確認しながら穴へ近付く。

 坂道の途中にあたる地点で、見晴らしは良く、バックアタックを警戒しなければならないような地形ではない。


 穴は、僕とマーブルが一緒に通行できるほどに大きかった。

 しかし、外から見た内部は真っ暗で、無防備に踏み込むのは躊躇ちゅうちょせざるを得ない。


「明かりをつけて入りましょっか」

「それだと侵入者が現れたって、相手に即バレるんじゃ?」

「ゴブリンなんて、五体くらい同時に現れてもあたしの敵じゃないし、ケイたんの敵でもないわよ。それよか暗闇に乗じて不意を衝かれるほうが、よっぽど脅威。あっちは人間よりも暗視能力が高いし」

「ふむ」


 先輩冒険者たる彼女がそう言うのなら、僕に異存はない。


「ランタンだよね? 僕が持つよ」

「ううん。せっかく持って来たし、スクロール奮発しちゃうわ」

「スクロール?」

「うん」


 首肯しつつ、マーブルが荷物袋から取り出したものは、巻物だった。

 ずいぶん小さく、広げても賞状くらいのサイズ。


「マジックアイテムよ。ほれ、ケイたん使ってみ?」

「どのように?」

「ここ。第二公用語の部分があるでしょ。そこを唱えるだけ。簡単っしょ?」


 渡された「スクロール」を眺めれば、まず目についたのが、やや大きく書かれた「光の妖精ライト・フェアリー」の文字。

 その下には、マーブルが指した文章――詠唱文だな、これは――が記されている。

 とすると、この「スクロール」は、「光の妖精」という魔法を発動するためのアイテムだろう。


 また、詠唱文の下部には、僕には読み取れない言語が長々とつづられていた。

 象形文字のような、洗練されていない印象を受ける字面。


「これは何?」

「んっと……古代魔法語、だったかしら。あ、先に言っとくけど、それはあたしも読めないから。知りたきゃ専門家に訊いてちょーだい」


 着々と魔術師ギルドを訪問する理由が増えていくな。


 ともあれ、使ってみることにした。

 アイテム経由とはいえ、初めての魔法にドキムネな僕である。


「えーと……『光の妖精よ、我が意に従い、我が道を照らしたまえ!』」


 唱え終えるや、ポンッと巻物から少量の煙が立ちのぼった。

 その煙が晴れると、何かが自分の眼前に浮遊しているのに気付く。


 ……妖精さんだった。

 体長十五センチくらいで、すげぇちんまい。


 その妖精さんは、ピカピカと光っていた。

 そして僕の鼻先で、僕に向かってニコニコと笑いかけていた。

 眼がぜんぶ黒目って感じで、ちょっとエイリアンっぽいのが玉にキズだが、パタパタと羽を動かしているサマが愛くるしい。


「可愛いなオイ」

「えー、そう? なんか虫みたいで、あたしはデコピンしたくなるけど」


 だが実際にデコピンをしても、妖精さんには当たりはしない。

 実体のない、ただのマナの集まりなのだとマーブルは言った。

 マナが何なのか僕はわかっていないが、要するに、ホログラムみたいなものかと予想はつく。


 この光の妖精は、術者(この場合はアイテムなので使用者)の意思をある程度くみ取り、移動しながら道を照らしてくれるそうだ。

 ランタンとは違い、片手をふさがれないので、洞窟探査などでは非常に重宝する魔法なのだという。


 ちなみにこの光の妖精に限らず、スクロールというのは、基本的には使い切りらしい。

 なんでも、マナが一回分しか籠められていないのだそうで。

 ここでも「マナ」だ。

 マナについて、早いとこ学びたいな。


「これ、どれくらいの時間もつの?」

「魔法の場合は、術者の魔力しだいね。スクロールだと、だいたい五時間くらいってとこかしら」

「ふむ」

「消したいときには、消えろって念じれば良いだけだから。あ、今は消さないでよ? もったいないし」

「了解」


 よろしく頼むぜ、と妖精さんに念じてみる。

 そうすると妖精さんは、ドヤ顔を見せ付けてきたのち、ふよふよと洞窟のなかへ入っていった。

 入口から見える範囲が明るく照らされた。


 僕とマーブルはうなずき合って、足を踏み出す。

 いよいよゴブリンの棲み処へ侵入だ。

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