探検隊
「助役さん。もう一度、穂波駅に電話をして確認してみて下さい。本当に通過されてしまったんだかどうかをね。部屋を出るのが怖ければ、これを使って下さい」
坂田氏が小さな携帯電話を取りだしてこういった。一連の言動を見ていると、この人はひょっとすると刑事か検事か、そういう職業かもしれないと思った。
助役は救われたように走り寄ってそれを受取り、こうですか、と坂田氏に聞きながらボタンを押した。
「ああ、山辺だ。帰ってきたよ。え? 探した? 俺をかい? なんでだ。なんか事故でもあったのかね。・・・ああ、うん、うん、わかった。それは日誌に一行書いておけばいいんだ。百四十円立替え(加藤)とね。あの婆さん、酔っぱらったふりをしているんだよ、常習なんだ。いいから、いいから・・・それより、カトちゃん。穂波に他の駅からとか、お客さんからとか、なんか苦情などが来てない? ・・・本当だな? なんにもきてないんだな。ありがとう。ありがとう」
なんだか助役は感激して涙が溢れそうになっている。
これで問題は一層難しくなった。
しかし次の大岩の言葉を聞けば、世の中がいかに広いかがよくわかる。
「これで問題は簡単になったじゃないか、ね? あの時、穂波駅は存在していなかったんだ。決定的だな。タイムスリップかなんかでね。昭和の初めっていったけか、糞尿積み下ろし専用ホームの時代にね。はあい、一件落着。さあ、扉を開いて原っぱを歩いて帰りましょうや。あの運転士も無罪放免だ。万々歳じゃないか。お、そうだ。外に出れば俺たちはきっと大金持ちだよ。千円で家が一軒建ったなんてのはこの時代じゃないのかい。俺は今、十万円ほど持っているからね」
他人に脳天気などといった人の言葉とは到底思えない。
向いの坂田氏が片手を上げて、眉をひそめるようにしていった。
「大岩さん。あなたはそういう調子だから、五十センチのパットを外して予選落ちしてしまったりするんだ」
大岩はびっくりした。
「タイムスリップなんて、あれは漫画の世界ですよ。それから野崎さん。ご夫婦揃って何かの宗教にでも凝っているんですか。それとも最近流行の本でも読みましたか。我々は佐々木さんみたいに、一、二、三なんて脈を数えなくてもちゃんと生きてます。仮に死んだとしましょうか。では、我々はここで一体何をしてるんです? 死んだ人間は必ずこういう風に集まって評議会でも開くことになってるんですか。おかしいなんていう以前の問題ですよ」
そう気合いよくいって、どんとひとつテーブルの上を叩いた。まったくだ。
しかし、どうすればいい。我々の出口はどこにある。私らはジャングルの中でターザンとはぐれた間抜けな探検隊になってしまうのか。