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  作者: 伊藤むねお
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新しい会議室

「小野寺さん、それは違います。動機というものは、なにかその人の為になるからとか、不為になることを避けたかったから、とかいうものをいうのでしょう。ね? ま、でも動機の件はあとまわしにしてもいいんです。これをどう考えるんです? 運転士ですよ」

 あ、そうか運転士か。

 佐々木氏がなかった派になると勢いが増してきた。

「みなさん方はともかく運転士も気がつかなかったというのは、これはただ事じゃないですよ。ね? 彼は慢然と外を見ているんじゃないんでしょう? 熟練した目で、前方左右を目を凝らして見てた筈ですよ。なにしろ信号などを見落とせば一番危険なのは本人なんですから。それでもだませる装置というのは、それは、もう何十億円もするんじゃないですか。誰かその方面に強い人はここにはいませんかねえ。先生は何の先生ですって?」

「鳥の先生だよ。みんな誤解でしないでくださいよ。鳥に教えるのじゃなくて、学生に鳥のことを教える先生だから」と大岩氏。

「鳥に教えるというのは、いい発想ですね、大岩さん」と小野寺君。

「そうですか」と大岩氏。

「しかし佐々木さん。御卓見ですが動機はあとまわしにしなくてもいいじゃないですか。為、不為なら、例えばあなたですよ」

「わたしが?」

「あなたはさっき大事な用が有って穂波に来たといってたじゃないですか。その用事というのが、ひょっとしてローンの取り立てだったとしたらどうです。それも最後通牒的なネ。『まさか、借りたものは返さなくてもいいんだ、なんてハヤリのお考えじゃないでしょうな。ご了見違いですよ。は? そうですか。あいわかりました。それじゃこの契約を履行させていただきます。家財ごと全部いただきますよ。そのピアノも上のクーラーもですよ。おお、そうだ。庭の盆栽もゴルフセットもそのままにしておいて下さいよ。お嬢ちゃんたちも、お小さいのに転校ですか。可愛そうにねえ。でも、おじさんを恨んじゃ困りますよ』、なんてネ。そのあなたをここに引き留めておけば、その間に、ほら、ピアノとか盆栽などはどこかに隠せるかもしれないじゃないですか。あはははは、あはははは、冗談ですよ。わかってますって。あはは、勘弁して下さい。この通り謝りますから。そうでなくても、ほら、愉快犯というのがいるじゃないですか。ひょっとするとこの中に紛れて、一緒になって悩んだ風を装いながらこっそり楽しんでいるのかも。ね? いや、これはなかなかいいセンだと思いますよ。昔、手書きの偽札というのがありましたよね。あの被害者が訴え出る時の心境はどうだったんでしょう、あはははは」

「愉快犯。それはいえるね」と、大岩がパチンと指を鳴らした。

「どこかのテレビ局のいたずらかもしれないよ。俺は最初から不思議に思っているんだがね、この部屋だよ。駅の中にこんな立派な部屋があるなんて俺は不思議だよ。どこかに隠しカメラなんかが有ってさ。誰か、その額縁を動かしてみたらどうかね。・・・ああ、そこには無いようだねえ。先生はどう思います」

 私も部屋の件には同意した。

「助役さん。この部屋はいつもは何に使うのですか? 失礼ですが、随分立派ですね。建材だか塗料だかの匂いがかすかながら残ってますよ。このテーブルなんか、ごらんなさい、傷ひとつ無いですよ。カバーをはらったばかりのように見えるんですがね。ひょっとして、我々が初めてここに入ったんじゃないんですか」

 助役の答えは意外だった。

「実を言いますと、私もこの部屋に初めて入ったんです」

 みんなが、なんだいそれは、と声を上げた。

「扉を開けるまでは知らなかったんです。ついこの前までは、ここはこういう部屋じゃなかったんです。私は昨日まで社内研修で一週間ほど軽井沢の方に行ってたものですから。その間に何かが起きたんでしょう。どうも扉が違うような気はしたんですが」

「助役さん。そういうことを実にあっさりという人ですね。でも、それにしちゃ、あなたは最初にこの部屋に入った時少しも驚かなかったじゃないですか。普通は、あ、とか、なんだこれは、とかいうもんでしょう? おかしいですよ」と野崎氏。


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