運転士
「ゴルファーの方は原っぱだったというんでしょう? 私もここの生まれですからよく知っているんですが、あそこが原っぱだったのは穂波駅が出来るまでですよ。今は原っぱなんて、少なくとも線路の脇にはどこまで行っても有りません。坂田さんは西側のおふたりが潜在記憶とか催眠術とか心理的な面での結論を出そうとしていたように思えるんですがね、ひょっとしてそれは逆でですね、銀行の方がそうなんじゃないでしょうか」
みなは一斉に佐々木の方をみた。
「だってですよ、あなた以外は私も含めて皆さん異常ありですよ。有ったか無かったかさえも気がつかなかったというのは、おかしいですよ。あの長いホームと駅ビルがびゅーっと通り過ぎて行ったら必ず気がつくはずですよ。音も変わりますしね。私は、私も含めて消極的な方は皆、無かった派に入れても少しも構わないと思うんです。佐々木さん。あなたこそが眠っていたんじゃないんですか。乗り過ごして目が覚めて驚いて、そこでとんでもないことを聞かされて。そんな馬鹿なという思いだけで有った派になってるのではありませんか」
「よろしい。あいわかりました。認めましょう。私は眠っていた。眠っていて乗り過ごしました。みなさんのお話を聞いて驚いていますとね。さ、これで有った派は消滅したわけだ。戸山さんのご要望のまとまりも出来たわけだ。そうするとどうなるんです、スーパーの野崎さん」
「ぽてと銀行の佐々木さん、いえ、その胸のバッチですよ、私には一つの答えがありますよ。あくまでも理論だけですが」
「ほう、ビックバンスーパーの野崎さん、いや、あんたのその手帳のマークですよ。それ、聞かせて下さいよ。無理かどうかはみんなで判断しましょうよ」
「バーチャル、なんとかですよ。ほら二〇二〇年の東京オリンピックのためにどっかに作るんだとか、テレビで見てませんか。あれをですよ、原っぱと牛車を穂波の手前の踏切辺りに両側に据えてやったんだとすれば可能ですよね」
なるほどとか、そりゃ何だとか、あちこちから声が上がった。
「先生、どうなんです。あれは、もうそこまで本当に出来ているんですか。あれは要するに立体映画みたいなもんなんでしょう?」
「いやいや、申しわけないんですが、そういうものについては全くの専門外です。ただ、私がテレビや雑誌などで知っている範囲で申しあげれば、あれは大変な装置の筈ですよ。箱みたいなものをポンとおいてコードをコンセントに差し込めばそれでOKというものじゃないですよ」
「そうそう、大仕掛けのものですよ。もしもそうだったら、今ごろはその仕掛けを見た人から通報が入って、そっちの方でおお騒ぎになっているはずですよ。第一、誰がやったか知らないけれど動機がないでしょう」
佐々木氏がいうと小野寺君が笑いながら応じた。
「動機は有るじゃないですか、佐々木さん。我々がこうやって集まってというか集められて、ああでもないこうでもないといい合っているでしょう?」