有名な写真
「話しているうちに思いだしたんですが、市内の小学校では五年生の時に郷土史を学ぶことになってましてね、そのための教科書があるんです。写真はその中に使われているんですよ」
「なるほど、そうするとですね、おふたりが見たとおっしゃったものが、実はそうではなく、おふたりの記憶の中から取り出されたものだとは言えませんか?」
「へへえ、驚いたねえ。あんた、コロンボみたいな人だねえ。でも、それはあっさりとはうなずけないなあ。私はこの目で見たんだから。それを、見たのではなく記憶から取り出したのだといわれてもねえ」
小野寺君は腕を組んで首をかしげた。バレリーナも同じだった。
「では、おふたりにもう一度お聞きしますが、その牛車は動いてましたか? 車でなくとも周りの人か物か、ともかく何かが動いていませんでしたか? ひょっとして答えはノーで、スチール写真のように全部が止まっていたんじゃないんですか」
「ふえー。困ったね。なにしろ一瞬のことだから。それに作業の途中だったが電車が来たので、見物のためにみんなが手を休めてこっちを見ていたという風だったし・・・動いていなくてもおかしくはないんだよね。バレーのお嬢さん、あなたはどうだった?」
「同じよ」
首をこくりと須賀バレリーナ。
「みんな止まってたわ。通り過ぎる電車を見送っているように。でも、そうするとどういうことになるの。催眠術とかの話?」
「あの、私のいう有名な写真というのは、実はそういう写真なんです。小野寺さんのいわれたとおりなんです。作業風景のスナップじゃなくて線路の辺りから撮影したとみられる記念写真的なものなんです。ご参考の為にですが」
狭山氏が再び証言をした。
坂田コロンボも腕を組んで、
「催眠術ですか・・・、どうでしょう。どんな名人でも、それほどの術を電車の中で、しかも知らないどうしのふたりに同時にかけられるとは思えませんね。あ、須賀さんでも小野寺さんでも、どちらでもいいんですが、それを見た時、その光景を声にしてしゃべりませんでしたか? 例えば、あ、牛車だ、とかね」
「私は何も言わなかったわ。あっけにとられていたもの」
「そうそう。私もです」と、小野寺君。
野崎氏が口を開いた。
「原っぱの方はどうなんです」