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  作者: 伊藤むねお
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なかった派統一

「たとえばですが、蜃気楼というセンはないでしょうか。海だとよくあるらしいじゃないですか。ありもしない島が見えたり」と、野崎夫。

「蜃気楼というのはですね、実際にあるものが場所が違って近くに見えるというだけなんでしょう? 原っぱはともかく肥桶を積んだ牛車なんてこの辺じゃどこまで行ったってないですよ。飯能、秩父で足りなきゃ、山を越えて信州まで行ってもありませんね。須賀さんと小野寺さんですね、肥桶を見たというのは。私からちょっと二、三、お聞きしていいですか」

 私はおやっと思った。坂田氏は、さっき放免などと場違いなことをいってみんなを引き留めた人だ。年は四十前くらいなのだがどういう職業か。人の名前といったことを覚えている。

「牛車は何台でした?」

「見えたのは一台だったなあ」

「ええ、私も一台しか見なかったわ」

「念のためにですが、もう一度お聞きします。牛車の線路に対する角度と向きはどうでしたか? 複雑でしたら紙に描いていただいてもいいんですが」

「紙は要りませんよ。言葉でいえます。線路に平行に一木の方を向いて止まっていました。以上」

「私が見たのもそうよ。以上」

「結構です。では、市役所の狭山さんにおたずねします。古い写真というやつですが、そういう写真は何枚もあるんですか」

「いえ、多分一枚だけでしょう。他にはない大変に貴重なものだと課長がいってましたから」

「それですがね、最近になって発見されたものですか」

「いいえ違います。もう四、五十年近くにもなるのじゃないんですか。市で持っているのは複製でしてね。オリジナルじゃないんです」

「と、いうことは、過去、何度か使ってますね? 市の出版物などに」

「使ってますよ。あちこちの公民館に貸出していますから。むしろ、その方面に興味を持っておられる方には有名な写真といっていいんじゃないでしょうか」

「わかりました。狭山さん、どうも有難うございました。それでは、もう一度、小野寺さん須賀さんにお尋ねしますが、おふたりは前からのお知り合いですか」

 ふたりは顔を見合わせて、知らないといった。

「では狭山さんがいった、有名な写真を見たことがありますか」

「はっきりとした記憶はないが、そんなにあちこちで使われているのなら見ているかもしれないなあ。私はよく本を寄贈するために、あちこちの公民館に出入りしているから」

「私はないわ。公民館などどこにあるのかも知らないし。市の出版物? それって一度も見たことないわ」

 坂田氏は首をかしげた。どうも期待したような答えじゃなかったようだ。

 そこで狭山氏だ。

「あのですね、須賀さん。あなたは小学校はどちらです? 市内の小学校ですか」

「ずっとここよ」

「それじゃ、見ていますよ。失礼ですがね、忘れているだけなんです」

「ほう、どういうことですか、狭山さん」


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