表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青葉-あおば-  作者: 山豊橋伝
第1章
8/14

フェリー

 はい、と花乃から渡されたのはカードキーだった。

「部屋を手配してくれたんだ。」

「ううん、一緒の部屋よ。」

フェリーは、限られたスペースに部屋が割られているから狭いだろうと思ったが、花乃が予約して取った部屋は、特等客室で、普通のビジネスホテルの部屋並みの広さだ。

「大浴場もついてるからゆっくり湯船に浸かれるのよ。」

「よく利用するんだ。」

私にとってフェリーはそんなに乗るようなものではないと思っている。

「稀にね。ひとりになりたい時とか乗る。」

「僕は初めて。」

私は、こんなにすごいとは思っていなかった。所詮、カーフェリーだろうと思ってた。エントランスには、突き抜けの空間があり、正面には階段があり、エレベーターも設置されていた。最上階には、グランドピアノが設置されており、他にもゲームセンターやカラオケボックスも設置されており、普通のホテルと思わせるような豪華さであった。

「普段は二等寝台とかが多いけど、やっちゃんも乗るっていうし、ちょうど運良くここが空いてたから…ガンバちゃった。」

「いいのこんなのに泊まらせてもらって…」

私は恐る恐る訊いた。

「大丈夫。よくお世話になってたから。」

私たちは、荷物を置いて、食事をとることにした。

食堂の食卓は、床に固定してアンティークとして、椅子は揺れでも動かないようにチェーンで固定されていた。

「ここは朝、昼、夕、全てバイキング方式。そこは寝台列車の食事や飛行機の機内食とは違うかな。」

「でも、普通のレストランじゃないからなくなるのは早いよな。」

「当たり前よ。」

好きなものを選びつつ、栄養が偏らないように考えながらとった。このようなバイキングは栄養が偏りがちだ。料理自体は、美味しく、船の揺れも小さいので、船酔いを気にせずに食べることができた。

 花乃と私は、部屋に戻り、それぞれの近況を語った。

「お母さんは元気にしてるの。」

「なんとか。」

私の母は、一昨年、癌になった。腫瘍が小さかったし、転移もなかったから、手術をして数日で退院して、今日まで再発は見受けられていない。

「それはよかった。」

花乃は私の母を知っている。私が大学生の時に、花乃を家に招いたことが何度もあった。なので、花乃自身も母を知ってるし、母ももちろん花乃を知っている。

そのあと、花乃の仕事場での愚痴を聞いたりして、話を聞いていると夕食の時刻になり、また食堂で食事をとり、そして、大浴場へ向かった。

「じゃあ、旅の疲れ、とってきてね。」

「うん」

花乃と私は同時に暖簾をくぐった。

中に入ると銭湯のような雰囲気であった。衣服を脱ぎ、大浴場へ向かった。銭湯ほど広くもなく、それでも窮屈感を感じさせない広さだった。

 私は掛け湯をして湯船に浸かった。たまたま、目に付いた仙台行きの高速バスの広告を見て、動機もなく予約して乗って、その高速バスの中では、苦い青春の思い出の夢を見て、仙台に着くと偶然にも花乃と出会う…。こんなことがあるだろうか?何かが、花乃と私を引き合わせようとしているのだろうか。それもよくわからない。この数時間で起きた「偶然」について、なぜこうなったのか想いを巡らせたが、整理がつかなかった。明日には、また彼女と別れてしまうのか。私は、やや寂しく感じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ