バスとバス
驚くのは当然だ。その当時、女子に釣りブームとか聞かなかったし(知らなかっただけかもしれないが)、当然、乗り物のバスが好きなのか(こちらも少数派だけど)と思っていたからだ。もちろん、和人は私がバス好きなのは知っていた。花乃にはそのことについて和人が話した。そして、会話が止まり、気まずい空気が流れた。
「お待たせ。ブラック・コーヒーね。あら、お困りですか?」
ヨシコさんが何かを察したかのように尋ねた。
お昼前の時間ということもあり、店内は賑やかで、周りの話し声が大きいいから話している声は聞こえないだろうが、初めて私が女の子とお見合いするような形でいるからチラチラと様子を窺っていたのだろう。和人は、そのことをヨシコさんに話した。自分のことなのに私から話せれなかったのは情けなかった。
「じゃあ、旅行すればいいじゃない。バスで。バスでバス釣りの名所へ行けばいいじゃない。」
いつもの上品なヨシコさんに感じなかった。駄洒落だけに。
確かにいい名案である。しかし、花乃に受け入れて貰えればいいのだが。
「ヤスさん、それでいいよね!」
バス釣りに行くと言ってないのに目をキラキラ輝かせながら言った。でも異議はなかったから、うん、と返事をした。
「来週の土曜日に行きたいと思うけど、大丈夫かな。」
「うん、大丈夫!土曜日はいつも開けているから!」
花乃は満面の笑みで嬉しそうに言った。なんとも可愛く眩しい笑顔だ。こっちが照れてしまう。
その後、お互いの連絡先を交換をして「武藤」を出た。来週の土曜日が待ち遠しく思えた。花乃に対する興味がますます強くなった。人を好きになるってこいうことなのかとそのとき私は生まれて初めて感じたのかもしれない。