喫茶店
和人は、フレンドリーで、誰とでも仲良くできるから友だちも多かった。また、顔の輪郭もよく、鼻がやや高く、いつも爽やかな微笑んだ顔でいるので、女子からの評判もよかった。そんな彼はガールフレンドのいない私を哀れに思ったのであろう。家に帰ってそのような考えもあったのかと思うと少し憤りを感じたが、そういう奴ではないとすぐに思い直した。そうであれば、もっと昔に女の子を紹介していただろうからだ。
「じゃあ、今週の土曜日、10時に例の喫茶店でいいね?」
「おそらく今週は何も入れてないからいいとおもう。」
頭の中のダイアリーを探るように言った。
「例の喫茶店」とは、うちの近所にある個人経営の喫茶店「武藤」だ。古いアパート一階部分の一角にあり、赤い張り出し屋根が目印だ。30代の女性が営んでいるお店で、こんがりきつね色に焼いた二斤のトーストにトロトロのスクランブルエッグと特製ドレッシングを塗って挟んだタマゴトーストというのが絶品で、何度食べても飽きないくらい美味しく、「これだけを目当てにくるお客さんもいるのよ」と店主である彼女も自慢しており、開店以来の看板商品らしい。
私はそこで、ブラック・コーヒーを注文した。彼らが来るのを待っていた。
「武藤」というお店の由来は、彼女の苗字からとったものだ。武藤佳子という名前で、私はいつも彼女のことをヨシコさんと呼んでいる。
「こんなに早くきて、珍しいね。」
「友だちと待ち合わせできたもので…。」
「友だちって和人くんよね?」
単刀直入に尋ねられた。
「ええ、そうです。」
「ヤスくんはカズちゃんしか友だちいないからね!で、今日はなんの打ち合わせ?」
「打ち合わせというより…」
私は言葉を選ぶように話した。
「ふふん。そういうことね。」
何かを悟るようにヨシコさんは言った。バレるようなことを言ってしまったような感じがしてやや焦った。いや、もう事前に知られているのかもしれない。
すると、和人があの彼女を連れて店内に入った。腕時計で時刻を確認すると、10時5分前だった。
私はいつも、集合するときは指定時刻の10分前に来るようにしている。それに対し、和人はオンタイムで来ることは少なく、遅れることが多く、最大で二時間も待たされたこともあった。
そんな和人なのに珍しく集合時間より5分も早く着いたことに驚いたが、女の子の前で遅れるわけにはいかなかったのだろう。それが彼の悪い評判に繋がってしまうかもしれないからだ。
「この子がその彼女だ。」
「初めまして。カノって言います。」
恐る恐る彼女が話した。
「こちらこそ、初めまして。靖治と言います。」
花乃と書いて「カノ」と呼ぶと言った。セミロングのしなやかな黒髪で、耳元は耳が見えるように黒いヘアピンで留められている。また、くっきりとした顔立ちで、割とかわいい容姿であった。
「趣味が同じって聞いたんですけど、バス釣りが好きなんです!」
「えっ!?」
和人と私は思わず口を揃えて声を上げてしまった。