ハナのカオリ (3)
ホワイトデーの日、ハルがヒナにプロポーズしてくれて。
ヒナは、当然それを受け入れた。ずっと好きだったハルから、結婚を申し込まれるなんて。もう人生勝ち組ですよ。幸せ最高潮で、その日は一日何も手につかなかった。お陰様で、周囲にはすっかりバレちゃったんだけどね。
問題は、周囲、というよりも家族の方。ヒナのお母さんとか、ハルのお母さんは妙な情報網を持っていて、こういう話を実に耳ざとく聞きつける。そして、サプライズという名の罠を仕掛けてくる。別に嫌ではないんだけど、それがあまりにも不意打ち過ぎて。
二人が付き合いだした時も、何処からともなく嗅ぎつけていたし。その後海外出張しているヒナのお父さんの帰国に合わせて、交際開始のお祝いなんてやってくれたし。お祭り騒ぎが好きなのは構わないけど、もうちょっと加減して欲しい。
それはさておき、今回は結婚という、当人たちだけでは収まらない話だ。今までだって家族ぐるみの付き合いではあったけど、いよいよ本当に家族としてのつながりを持つことになる。こればっかりは、本人たちから報告をしないわけにはいかないだろう。これを外部から聞きつけたりした日には、並のドッキリでは済まされない気がする。いや、冗談にならない。
ヒナは、その日の夜にお母さんに報告した。ハルにプロポーズされました。ヒナは、ハルと結婚するつもりですって。
お母さんは少し驚いたみたいだった。うん、少し。まあ、付き合い長いし、ヒナもハルのことばっかり話してたし。最近はハルのお弁当とか作ってたし。驚く要素があるとすれば、まだ十六歳で高校生ってところぐらいだよね。
「そうか。ヒナ、良かったね」
お母さんにそう言われたのは、素直に嬉しかった。「うん、とても良かった。へへ」って笑って。久しぶりにお母さんに抱き付いてしまった。ヒナ、幸せだよ。ありがとう、お母さん。知らない間に涙まで出てきた。あれ?そんなに?って。
自分で思っている以上に、ヒナはハルに結婚を申し込まれたことが幸せで。お母さんに「良かったね」って言ってもらえたことが嬉しかったみたいで。
気が付いたら、わんわん泣いてた。そうだね、長かったもんね。ずっとずっと好きだったもんね。お母さんが、そんな言葉を掛けながら、ヒナの背中を撫でてくれた。お母さんも、ヒナがハルのために一生懸命なのは知っていたから。ヒナの想いを、一緒になって感じてくれていたのだろう。
「それにしても、困ったわね。今からだと予定日は秋ぐらい?」
お母さんの口から飛び出したロクでもない台詞で、ヒナの涙は一瞬で引っ込んだ。
「一番目立つ時期が夏休みなのは良いけど、制服どうすればいいかな?スカートのウェスト、ゴムにできるかな?」
「な、ちょ、え、何言ってるの?」
「え、だって?」
その時のお母さんの顔を、ヒナは一生忘れない。チクショー、感動して損した。
「責任取るって話じゃないの?」
「そうじゃないよ、バカー!」
台無し。
まあ、判っててワザと言ったみたいなんだけどね。それにしても最低だ。どうして毎回毎回こういうのを挟まないと気が済まないんだ。たまには普通に祝福して欲しいよ、まったく。
その日の晩ご飯は、ちょっとだけ豪華になった。ヒナの好きなおかずが増えて、お皿の数が普段の倍。弟のシュウが「何かあったの?」って訊いてきたけど、ヒナもお母さんも笑って応えなかった。ごめんね、感じ悪い家族で。
でも、ヒナも少し恥ずかしかったんだ。お姉ちゃん、ハルと結婚するんだよって。シュウなら喜んでくれるかな。それとも、今更かって呆れられちゃうかな。
ヒナの家が、そんな比較的暖かくて和やかな雰囲気でホワイトデーの一日を終えていた反面。
ハルの家の方は、そりゃあもう大変だった。らしい。
後でハルとか、ハルの弟のカイに聞いた話なので、どの辺りまでが真実なのかは判らない。うーん、カイは話を盛るような子じゃないから、そっちが真実寄りかな。ハルはたまに変な脚色を入れるからなぁ。
ハルのお父さんと、ハルのお母さんと、ハルの弟でその時は小学六年生のカイ。それにハルの四人で、夕食の真っ最中。ハルが急に「俺、ヒナにプロポーズしたから」と口にしたそうだ。
後にカイ曰く。
「ハル兄さんはいつも唐突過ぎです」
ハル曰く。
「いや、ずっとタイミング計ってて」
重苦しいとかそういうレベルではない、もう何が何だか判らないほどのどんよりとした沈黙の後で。
「はぁ?何言ってんのアンタ?」
ハルのお母さんが、静かにブチ切れたそうだ。
「アンタ、ヒナちゃんになんかしたの?」
「いや、してない」
「じゃあなんでそんなこと言ってんの?」
「ホ、ホワイトデーだから」
「なんでホワイトデーだとプロポーズするのよ?」
「ヒナを喜ばせたくて」
「その場の言葉だけで喜ばせてどうすんだ、このアホ!」
会話内容は、一言一句違えることなく再現できているわけではない。だが、カイとハル、両方から聞いた話を総合すれば、概ねこんな感じだった、ということだ。うん、ハルのお母さんは素敵だ。最初に聞いた時、ヒナは不覚にも笑ってしまった。
「俺は、ヒナを一生背負っていくって決めたんだ」
「そういうのは背負えるようになってから言えってんだ」
カイとハルのお父さんが、あわわわ、ってなっている前で、二人の口論は更にヒートアップしていった。まあ、内容的には明らかにハルの方が不利。もうちょっと話の持っていき方を考えようよ。
「アンタ今どんだけヒナちゃんに世話してもらってると思ってんの?それでプロポーズとか馬鹿なの?ヒモにでもなるの?」
ハルのお世話をしているのは、確かにその通り。ハルのお母さんに頼まれて、ヒナは毎日ハルのお弁当を作っている。一応、ヒナも好きでやっていることだ。
ただ、ハルが今、ヒナのために具体的に何ができているのか。それを言われると苦しいかもしれない。いや、だってまだ高校生だし。まあ、だからこそ、プロポーズなんて軽くするなってことになるんだろうね。
「やるよ。俺はちゃんとヒナを支える。支えられるようになる」
「口だけなら何とでも言えるでしょ?」
「やる。俺は、俺にプロポーズされたことを、ヒナに後悔させない男になる」
おー、かっこいい。でもこの台詞は、カイから聞いたんだよね。「ハル兄さん、カッコ良かったですよ」って。ハルは照れてるのか何なのか、この部分は割愛しちゃうんだもん。まあ、ヒナ本人を前には言い難いか。覚えているなら、いつかその時がきたなら話してくれるでしょう。楽しみに待っています。
ハルには内緒なんだけど、実はその後、ハルのお母さんからヒナに電話があった。ヒナの携帯に、ハルのお母さんから着信って初めてだったから、物凄くビックリしちゃった。
「ヒナちゃん、ごめんね、ハルが変なことを言って」
「いえ、とんでもないです。私は、嬉しかったです」
いつになくハルのお母さんの声が沈んでいて、二度目のビックリだった。普段は元気いっぱいで、落ち込むことなんて全然無さそうなのに。なんだか悪いことをしちゃったみたいだ。
「ハルのこと、これからもお願いね」
「はい。至らないこともあると思いますが、こちらこそよろしくお願いいたします」
その時は、大喧嘩の後だなんて知らなかったから。ああ、ハルもちゃんと話してくれたんだなー、程度にしか思っていなかった。
ハルは、いつもヒナのことを大事にしてくれる。大切に想ってくれている。
ハルも、ハルのお母さんも。ヒナのことを真剣に考えてくれているからこそ、衝突を起こしてしまったのだ。ハルが、ヒナのことをちゃんと支えられるって。ハル自身と、ハルのお母さんがそのことを認められるようになったら。
そうしたら、二人は胸を張って結婚の報告ができるようになる。だから、ハルの家では、まだその話はちょっとお預けかな。
「ところでさ、ヒナちゃん?」
「はい?」
その後の会話は、輪をかけてハルには秘密だ。
「その、できちゃったから結婚、って話ではないのよね?」
ううう、なんでみんなそういうこと言うの? ヒナもハルも、真面目にお付き合いしているんだよ?
ハルのお母さんも、もうちょっと自分の息子のこと、信用してあげてください。ヒナにとって、ハルは自分の人生を預けられるくらい、信頼のおける人なんです。
「ええっと、そういうの、まだなので」
「そうなの?」
ホント、何の因果でハルのお母さんにこんなこと報告しなきゃいけないんだ。とほほ。
クラス替えを経て、二年七組になって。
何が一番変わったかって、お昼ご飯だ。一年生の時は男女合わせて十人っていう大所帯で、教室でお弁当を食べていた。しかも、男子ィの我が儘を聞いて、ヒナはみんなで食べる分のおかずまで用意していた。なんだよ、曙川食堂って。意味が判らない。
流石にあのメンバーが全員二年七組、っていうことはなかった。だって基本学力ベースなんでしょ? 実はみんな成績はヒナと同じくらいでしたって言われたら、ヒナの方がひっくり返っちゃうよ。どんだけおバカの集団なんだ。
他のクラスに分かれてしまったみんなは、現在それぞれの環境で新しい人間関係を構築中だ。友達であることには変わりはないんだけど、物理的に教室間の距離があるとどうしてもね。ヒナと部活が同じサユリなんかは、そっちで顔を合わせているし、話もしている。「ヒナがいないと色々つまらない」っていうのは、どう受け取るべきなのかよく判らないお言葉だ。
二年七組の生徒で、元一年二組のお弁当組だったのは、ヒナと、ハルと、フユ。それから。
「ヒナー、ご飯にしよー」
ポニーテールに、そばかす顔の元気娘。およめさんクラブ、もとい家庭科部のユマだ。
「ユマ、また学園祭実行委員やるの?」
「当然。今年は委員長にも立候補しようと思ってるよ」
ユマは去年も学園祭実行委員だった。イベント関係の運営が大好きということだ。一年の学園祭の時には色々あって、ユマとはそれ以来親しい関係になっている。しかし、まさか二年でも同じクラスになるとはね。
「いやー、ヒナとフユがいてくれて良かったよ。一人だったらどうしようかと」
ホントにね。普段はこんなに明るくて元気な感じだけど、ユマって実は孤独とか一人ぼっちとかに弱そうだ。イベントやらお祭りが好きっていうのは、そういう寂しさの裏返しなのかもしれない。
「私もユマがいてくれて嬉しいよ。私だけだったら、ヒナが朝倉君に取られてションボリだったもん」
「フユは良い子だなぁ。あそこのリア充たちは放っておいて、二人で仲良くしよう?」
フユが余計なことを言う。もー、別にフユのことを放っておいたりなんかしてないでしょうに。フユとユマは仲が良い。寂しがり同士、気が合うところでもあるのかな。
ハルは男子の友達と手を振って挨拶している。部活関係とか、新しいクラスでも既に知り合いはできているみたい。お昼ご飯、もしそうしたいなら友達と食べる?、って訊いたら。「ヒナと一緒が良い」って言われてしまった。嬉しけど、あんまりべったりなのもまた生活指導に目を付けられるし。ハルの交友関係を壊さない程度にはしたいんだよね。
四人で机をくっつけてお弁当を広げていると、廊下の方からがやがやと賑やかな声が聞こえてきた。ああ、やっぱり今日も来たのか。なんだかなぁ。
「曙川食堂は開いてますかぁ?」
「そんなものは無い」
教室に入ってきたのは、元一年二組でハルの友達の宮下と和田だ。ヒナはじゃがいも1号、じゃがいも2号と呼称している。特にじゃがいも1号宮下、テメーはダメだ。ハルの友達だからお目こぼししているけど、人間的にチャラい。モテようとし過ぎ。それでいて気配りが足りていない。ヒナの中では永世名誉じゃがいもに決定している。お前、一生じゃがいも。
「おー、和田くーん」
フユはじゃがいも2号とはそこそこ親しい。これが無ければ、こんな奴らとっとと追い返している。後は男女比的に、女子三人の中にハル一人はやや目立つから、あくまで見た目上のバランサーとして、こいつらはここに参加することを許されているのだ。
「高橋は?」
「アイツ付き合い悪くてさー」
高橋、っていうかさといもは、同じくハルの友達だ。一年二組の頃はお弁当組の一人だった。
二年生になってから、さといもは吹奏楽部に入部した。元々音楽の経験はあって、パーカッション、打楽器のパートを担当するそうだ。それ以来、さといもはお昼を吹奏楽部の友人と共に過ごしている。というのは建前。ヒナは知っているよ、さといもは今チサトと良い雰囲気なんだ。
やっぱり元一年二組の、吹奏楽部員でフルート奏者のチサトに、さといも高橋は去年の学園祭の後に告白した。その時は、お友達から、ということで曖昧解決になっていた。そして二年生になって、クラスが分かれてしまったことをきっかけに、さといも高橋は一念発起して吹奏楽部に入ってまでチサトを追いかけていったのだ。やるなぁ、さといも。
「友達の恋路だよ? 応援してあげなよ」
フユに言われて、じゃがいも1号はうーん、と考え込むフリをした。うん、絶対フリ。こいつ何も考えてないもん。
「俺より先に彼女ができるとか、許せないじゃん?」
「じゃあ朝倉君はどうなっちゃうのよ?」
じゃがいも1号に目線を向けられて、ハルはあからさまに不愉快そうな表情を浮かべた。ははは、いいぞ、もっとやれ。
「朝倉はなぁ、曙川という女がいながら、妾まで作ろうとする極悪人だからなぁ」
「宮下、お前な、いい加減にしろ」
ハルの顔が、不愉快から不機嫌にレベルアップした。あー、その話ね。ハルはあまりしたくないみたいだけど、ヒナとしては俄然興味があるんだ。
「マネージャーのこと? 山嵜さんとかいう?」
「そう、山嵜ハナ。ハナちゃん!」
キモイな。ハルの方を見ると、お手上げ、という素振りをしていた。じゃがいも2号はハンドボール部じゃないし、全く興味が無いという様子で、フユと昨日観たテレビの話なんかをしている。
「なんだっけ、朝倉君を訪ねてハンドボール部に来たんだっけ?」
ユマもしっかりと食いついてきた。ごめんね、ハル。ヒナはハルの婚約者だからさ。そんなダイナマイトが転がってるなんて話、無視するわけにはいかないんだよ。
一年生向けのオリエンテーションの日、ヒナは部活紹介の舞台で散々な目に遭った。ハルとの交際について、まさか生徒会長に釘を刺されるとは思ってもいなかった。ヒナやハルの名前は出していなかったけど、あれって明らかにそういうことだよね。それが余程面白かったのか、水泳部部長のメイコさんまで調子に乗って変なコメントをするし。もう恥ずかしくて死にそうだった。
そんな理由もあって、ヒナは校庭での勧誘合戦には参加しなかった。これ以上見世物にはなりたくなかったのだ。そうしたら、ヒナ不在のその場所で、事件は起きてしまった。
人数も少なくて、ほとんど真面目に活動もしていないお遊び部活のハンドボール部に、女子マネージャーが入部した。
噂はあっという間に広まった。だって、大会参加実績も何も無い運動部に、マネージャーって。しかも可愛い女の子。それはどういうことなのかと、連日ハンドボール部の活動には見学者が押し掛けた。
ヒナも、水泳部の活動中に屋内プールの大きなガラス窓からその有様を眺めていた。ハルを含めて、せいぜい数人の部員がシュート練習しているところに、ジャージ姿の女の子が掛け声をかけている。そして、それを取り囲む謎の人だかり。誰かスターでも来たのかと思ったよ。実際、なんだか判らずに見ていた人もいるんじゃない?
ハンドボール部は、数日で部員が元の五倍に膨れ上がった。六人が三十人。物凄い増え方だ。試合もできなかったお遊び部活が、あっという間に部内でフルメンバーの紅白戦まで実施できる人数になった。
部員が増えて、活気が出て。それは確かに良いことだとは思う。でもそのせいで、ハルが忙しくなっちゃったんだよね。ヒナとしては、部活帰りにハルと一緒になることが全然無くなってしまった、というのが地味に残念だ。薄暗い道を二人で歩くの、結構好きだったのにな。あーあ。
で、その件のマネージャーさん。山嵜ハナちゃんだっけ?
この子が、どうもハルに気があるという専らの噂なのだ。何しろ、ハルを訪ねてハンドボール部にやって来たというのだから驚き。一体いつの間に、何処であんな可愛い子をたらしこんだのか。ハルに言わせると、入学式前に学校に来ていた際に、たまたま話をした、って。へぇー、たまたまですか。あっそう。うんめーのめぐりあわせってやつですね、ふーん。
とりあえず、今のところは明確に山嵜さんからハルに告白などはしていないとのこと。ただ、部活中に見ていれば判るレベルでハルのことを意識しているらしい。ああ、ヒナも見たよ、タオル持ってハルのところに駆け寄って行く姿。ガラス窓叩き割りそうになっちゃったよ、は、は、は。
あと山嵜さん、友人関係に対しては普通にハル狙いであることを明かしているらしい。女子のそういうネットワークは早いよ。あっという間にヒナの耳にも入ったからね。「ここだけの話」とか「これ内緒なんだけど」って言われたら、脳内で「拡散希望」って変換されてるから注意が必要だ。
「ハル、私のこと話したんでしょ?」
「一応な。付き合ってる人がいるかって訊かれたから」
一応って何だよ。最初にしっかりお断りしておこうよ。それ、大事なことよ?
まあそれはさておき、訊かれたんだ。それはそれは。ハル、ちょっと顔が赤いですね。若くて可愛い子にそんなこと言われちゃったら、そりゃあ期待しちゃうよねぇ。ふぅーん。
「そうだよ、朝倉には訊くのに、俺には訊いてくれないんだぜ? おかしくねぇ?」
ううん、ちっともおかしくない。極めて正常だと思う。だって訊くまでも無いし。
無意味な茶々は置いといて。ハルに彼女がいると知って、山嵜さんがどうしたかというと。
別に、何にも変わらなかった。人数の増えたハンドボール部で、普通にマネージャーをやっている。この前はレモンの砂糖漬けとか差し入れてきたらしい。三十人分。そりゃすごい。うん、仕事は真面目なんだね。良い子じゃないか。
ただ、ハルのことを諦めてはいないみたいなんだよね。
「一年生の間で話題になってるよ。幼馴染なんかに負けない、健気なハナちゃんって」
ユマの口調は、すっかり呆れかえっている。まあ、知らない人からすればそうなっちゃうかな。幼馴染であることは事実だし。ただ、それがお手軽な関係であるとは思ってほしくない。ヒナだって、色々あってハルとお付き合いしているんだから。
二年生の方では、学校で最も有名なカップルであるハルとヒナを応援しよう、などという謎の声が湧き出していた。いや、好きで目立ったわけじゃないよ? 応援だって、別に要求してないからね?
この前なんて廊下を歩いていたら知らない生徒から突然、「頑張って」とか声をかけられた。政治家じゃないんだから。これじゃ生徒会長にまた嫌味の一つでも言われそうだよ。カオリ先生も今のところは黙っているけど、このままだと絶対呼び出しがあるとヒナは踏んでいる。えー、今回、ヒナは何にも悪くないよう。
「しっかし、なんで朝倉ばっかりモテるんだ。解せぬ」
じゃがいも1号、あんたまだいたんだ。メシ食ったらもう帰っていいよ。ユマが、ふん、と一つ鼻を鳴らした。
「あのね、あんたがそうやって色んな女の尻を追っかけまわしている間に、他の男はちゃんと一人の女に集中してるのよ」
そう言って、ちらり、とフユの方を一瞥する。
おお、フユ、じゃがいも2号と楽しそうだ。っていうか、じゃがいも2号和田が、あんなに表情を見せるのって珍しくない? 普段何考えているのか全く判らないくらいなのに。
え? ひょっとして、なの?
「うう、ヒナに続いてフユまで取られちゃったら、私はどうすれば・・・」
ユマの頭を撫でてやる。よしよし。大丈夫だよ。ユマだっておよめさんクラブなんだから、その内リア充の仲間入りできるよ。
「いや、俺は諦めない。俺は、俺の愛は、一人の女だけでは受け止め切れないんだー」
黙れじゃがいも。
ハルはああなっちゃダメだよ。ヒナの愛を受け止められるのは、ハルだけなんだから。よろしくお願いしますね。




